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A Man Called Ove: A Novel
*マン・コールド・オヴ* |
by Fredrik Backman
スウェーデン人のブロガー、フレドリック・バックマンの処女作「マン・コールド・オヴ」は、頁を開くと第1章「オヴという吊の男がコンピュータでないコンピュータを買う」というエピソードから幕を開けます。59歳でサーブに乗ったオヴは近所の嫌われ者です。この冒頭の買い物シーンで早くも、コンピュータ店の店員との会話から彼の性格が犇々と伝わってきます。
オヴは近所の住人に対して絶えず怒っており、これをしろ、あれをするなと煩(うるさ)くルールを書いた看板を立てたりしながら、それが妥当であると思っていました。つまり、気難しい人間であることは間違いありません。野良猫さえ嫌うオヴなので、新しい隣人が引っ越して来ても吊前を知ろうとせず、彼らのことはただの「妊婦」と「ひょろ長」と呼んでいました。しかし、ひょろ長のほうがオヴの郵便箱を倒してしまったため、彼は否応ながらこの隣人家族と係わる羽目となります。もちろん文句タラタラですが・・・・・・
また、彼はよく妻へ話しかけます。相変わらず近所の住人やルールを守らない者に対する文句であったり、いっぽうでどれだけ彼女を愛しているかであったり、意外と優しい面もあるのです。しかし、ほとんどが怒りと文句の日常生活を読み進むうち、読者はオヴがオヴへ至る経過を知ります。もっとも、今のような気難しい性格になる前は優しかったのかといえば、そういうことはまったくありません。
人がどう思おうと気にせず、言いたいことは言う。毎朝、目覚まし時計を使わずきっちり5時半起床、コーヒーを入れてから近所を見て回ると、もともと生真面目な性格の人間なので、よけい質(たち)が悪いのです。近所の住人は彼を「地獄から来た冷酷な隣人」と呼んでいました。しかし、ニコニコ笑っていないからと、オヴが冷酷とは限らないはずです。じっさい、気難しい外観の裏へは寂しさが秘められています。それでなおかつ本著を一言で表現するなら「可笑しい」、つまりバックマンは寂しさや悲しさと可笑しさや面白さを本著の中で上手くまとめ上げ、読んでいるうちに何度も目頭が熱くなりました。
これほど心温まる著書は久し振りです。そして、読書好きである限り読者を選ばず訴えかけてくるものがあるでしょう。バックマンの文章は読みやすく、オヴばかりでなくすべての登場人物を愛さずにはいられません。ぜひ、ご一読をお薦めします。
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(2017年2月)
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