ミコヤン
MiG-29 ファルクラム

朝鮮戦争で少々自信過剰気味の米空軍を驚愕させたMiG-15は、その後MiG-17、Mig-19、MiG-21MiG-23やそれを発展させたMiG-27、また1975年に函館空港へ亡命したベレンコ中尉機で知られるMiG-25と開発が進みながら、性能的には西側の軍用ジェット機よりも劣っていた。

1972年、MiG-21やMiG-23および時代遅れのSu-15やSu-17の後続機として開発が始められたMiG-29は、1977年11月6日に試作第1号機が初飛行を行う。旧ソ連で初めて西側と互角の性能を持つMiG-29も、初期の段階では多くの問題を抱えており、改良が進み量産へ至るのは1983年に入ってからだ。また、1985年初頭の配備以来、多くの国々へ輸出されているが、1986年の公開飛行までは一般の前へMig-29が姿を見せたことはない。

F-18 ホーネットとほぼ同じサイズながら、ロシア独自の戦術が反映された設計はかなり違っており、そもそもミコヤン設計局が目指したのは、地上からの支援に頼らず単独行動が可能なジェット機の開発であった。優れた機動性や、同時に10の目標を捕捉できるパルス・ドップラー・レーダーRP-29、加えてレーザー・レンジ・ファインダーとIRST(赤外線探知機)がHMS(ヘルメット・マウント・サイト)へリンクされたMiG-29の火器管制装置は、高度な空中戦で効果的だ。

また、推力が8.3tのツマンスキーR33D2基は強力なばかりでなく、機体の設計と相まって並はずれた回転性能を誇るMiG-29の操縦性へ貢献している。こうした長所に比べ、弱点といえるのが、限られた航続距離や貧弱な航行管制装置だろう。結果、戦闘こそ単独で行えても、航行管制は少なからず外部に依存する必要があり、自動操縦装置の欠如は常時パイロットへ機のコントロールを強いるため、それだけ負担が増す。

MiG-29は約345機がロシア空軍、110機が海軍に配備されている他、ドイツではかつての東独から引き継がれた19機のMiG-29A(遊撃機)と4機のMiG-29UB(訓練機)が統一後の空軍へ配備されている。これら東独のMig-29は、ロシアの同機と比べてエンジンの最大出力が90パーセント、レーダーの性能も探知半径を約40kmまで落とした輸出型だ。しかし、空中戦の訓練では同じ独空軍のF-16 ファルコンに劣らぬ成績をおさめているのが興味深い。

ただ、独空軍のMiG-29は現役としての限界が近づきつつある一方、ソ連崩壊でMiG-29も買い得になり、単座の輸出型だけは現在も量産が続いている。売れれば売れるほど、より安価な維持費と、より安定した部品の供給へ結びつく。相乗効果でますます商品価値は高くなり、新しい世紀に入ってもMiG-29 ファルクラムがSu-27 フランカーと並び、世界の軍用ジェット機市場でコスト・パフォーマンスは群を抜いたままの状況がしばらく続きそうだ。

なお、姉妹機MiG-29Kは空軍向けの制空戦闘機として開発されたMiG-29と違い、旧ソ連海軍が空母トビリシ(現在、ロシア海軍が運用するアドミラル・クズネツォフ)を建造した際、艦載型として開発され、1988年に初飛行した。艦載機として性能上は何の問題もなかったが、その後のソ連崩壊で軍事予算がなくなり、艦載機はSu-27の艦載型であるSu-33に絞られてしまう。

こうして、いったんお蔵入りとなったMiG-29Kだが、21世紀へ入るとインド海軍が空母艦載機に採用を決めた他、ロシア海軍も老朽化したSu-33の代替機として検討中で、スホーイに差をつけられたミグ社へ起死回生の命綱となっている。

ソ連海軍用に製造されたMiG-29Kは海上で運用するため、機体へ防錆措置を施した他、着艦の衝撃に耐えられるよう降着装置を強化し、着艦フックも追加された。さらに、低速低空での飛行安定性を高めるため主翼を大型化したり、狭い艦上で運用しやすいよう折りたたみ機構も付いている。インド海軍へ採用されたのはその改良型で、エンジンやレーダーを強化する一方、西側の装備品や兵器を運用できる能力も加えられた。

インド海軍は英国の中古空母を購入、「ヴィラート」と名付けてハリアー戦闘機を運用しているが、ロシアから購入した空母「アドミラル・ゴルシコフ」を近く就役させる予定だ。加えて「ヴィラート」の代替として国産空母の建造計画を進めており、今後、MiG-29Kの導入機数が増える可能性は高い。また、ロシア海軍でも空母建造計画が取りざたされており、ミグ社にも明るい材料が増えている。



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