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(1997年2月1日)          




大物ヒューズのカムバック

青春映画“ブレックファスト・クラブ”でデミー・ムーア、エミリオ・エステベス("マイティー・ダックス")、ロブ・ロウ("ウェインズ・ワールド")、アンドリュー・マッカーシー("ジョイラック・クラブ")などの「ブラット・パック(悪ガキ軍団)」を誕生させた監督ジョン・ヒューズは、ヒット・コメディー“ホーム・アローン”シリーズのプロデューサーとして知られています。最近、ディズニー映画“101”の製作脚本が話題となったばかりのジョンも、1990年に監督した子供向けコメディー、“カーリー・スー”はひどい出来映えで自信を失くし、しばらく鳴りを潜めていたようです。そして6年振りで復帰したかと思えば、続いて大ヒットしたフランス映画“ビジター”のアメリカ版を監督することが決まりました。このリメイクは、ヨーロッパ映画をアメリカ人キャストでアレンジする今までのハリウッド映画のパターンでなく、オリジナルの脚本家と共同執筆、またオリジナルの主演ジャン・レノ("レオン")を起用するなど、画期的な企画というのがジョンの重い腰をあげさせた理由だとか? 現在、リノはオリジナルの続編を撮影中で、彼のスケジュールが調整出来次第、フランスとロサンゼルスを舞台に製作開始の予定です。ヨーロッパのヒット映画をジョンはどうアメリカナイズさせるのかが、今から楽しみですね! また、“101”のヒットで気をよくしている彼は、“ビー(蜂)”という実写とアニメを織りまぜた企画を、これまたディズニー・スタジオで製作準備を進めています。





バック・トゥー・ザ・TV

'80年代、“バック・トゥー・ザ・フューチャー”シリーズで世界中の人気者になったマイケル・J・フォックスは、それ以前活躍していたTVコメディーの世界へ舞い戻り、現在“スピン・シティー”という市長事務所が舞台となったコメディー番組をヒットさせています。35歳のマイケルは、元ニューヨーク市長コッチ氏も絶賛する、この「シットコム(Sit-Com)」と呼ばれる状況喜劇(Situation Comedy)で、皮肉さが売りものの副市長を演じるばかりか、プロデューサーとしても参加しています。番組1回の製作予算は110万ドル、製作面の完全なコントロールを与えられると、恵まれた条件の中で本領を発揮し、ここのところヒット映画に恵まれなかったマイケルも、例の額に皺をよせながらマジな顔でジョークを飛ばす彼独特の演技が、茶の間ならぬファミリー・ルームの人気を呼んでいるようです。そしてもう1人、ビッグ・スクリーンからTV界へ華麗なる変身を遂げたスターが話題になっています。絶世の美少女としてデビューし、“青い珊瑚礁”や“エンドレス・ラブ”などで世界的なスターとなったブルック・シールドが、その人です。現在はテニス界のスーパースター、アンドレ・アガシのフィアンセとしても有名な彼女が主演するのは“サドゥンリー・スーザン”という「シットコム」で、サンフランシスコの雑誌社へ勤務する女性記者が彼女の役柄。大都市に生きるキャリア・ウーマン像をコメディー・タッチで好演し、絶賛を博しています。清楚な美女のイメージを打ち破った軽いノリの演技は、今年のゴールデン・グローブ賞でもノミネートされたほどです。長年のヒット・コメディー番組“マーフィー・ブラウン”で主演するキャンディス・バーゲン("ソルジャー・ブルー")から始まった映画スターのTVコメディーへの進出は、最近のマイケルやブルックの成功で、これからもまだまだ続きそうな雰囲気です。





仏教戦争

最近、辣腕アイズナー会長と10年という破格の契約更新をかわしたディズニー・スタジオは、他にもプロアイスホッケーの「マイティー・ダックス」やプロ野球の「エンジェルス」(元オリックスの長谷川投手と契約)など、プロスポーツ界への進出が何かと話題をさらっています。また、現在製作中の“クンダン”に対する中国政府の脅迫にめげず、予定通り配給しようとする姿勢も、ハリウッドでは賞賛の的です。この作品が企画されたきっかけは、最近、やはりアイズナー会長との権力闘争が原因で、わずか1年で社長を辞任した元大手代理エージェンシーCAA(Creative Artist Agency)のボス、マイク・オビッツ氏のディズニー移籍当時へ遡ります。移籍の手みやげに彼の持参したクライアント、マーチン・スコセッシ監督("カジノ")は、自分が長年暖めてきた企画を持ち込みました。亡命中のチベット仏教の総師ダライ・ラマの青年時代を描いたもので、ディズニーは3千万ドルの予算でその製作を決定します。以来、チベット独立を計画しているとしてラマを弾圧する中国政府が、ディズニー商品ボイコットなどを掲げて配給中止を訴えてきました。アメリカの新聞には天安門広場で独り反抗するミッキーマウスのイラストが掲ったり、まわりは莫大な製品市場の可能性を秘めた中国と表現の自由の板挟みとなったハリウッド最大の娯楽産業会社の動向を見守ってきたのです。そして、時代遅れの政治的圧力に屈せず威信を示したことがポイントを稼ぎ、自作のヒット映画“101匹のダルメシアン”以上の人気獲得へつながったようです。今まで、どちらかといえば芸術性よりも商業性を大事にして発展した感のあるディズニーだけに、僕個人としても今回の姿勢は素晴らしいと感じ、また中国の弾圧がかえってこの映画へ世界中の興味を引く結果となりそうに思えます。少なくとも、ラマを崇拝するリチャード・ギア、オリバー・ストーン監督といった仏教徒ハリウッド・スターの、ディズニーへの印象が好くなったことは間違いありません。





ハンクスの宇宙


昨年は“すべてをあなたに”で印象的な監督デビューを果たしたトム・ハンクス、年が明けるや新しいプロジェクトの製作総指揮者として多忙な日々を送っています。このプロジェクトは、ケーブル・チャンネルの大手HBO(Home Box Office)製作の“フロム・ジ・アース・トゥー・ザ・ムーン”というアメリカのアポロ宇宙計画を検証する、13時間にもおよぶドラマチックなアンソロジー(選画集)で、製作費が1時間あたり300万ドルの破格のシリーズです。新年早々開始されたプリ・プロダクション(製作準備)は約半年かかり、脚本が仕上がる6月頃は、ちょうどスティーブン・スピルバーグ監督作品“セービング・プライベート・ライアン”がクランクインします。その撮影でヨーロッパへ行ってしまうトムは、“フロム・ジ・・・”のプロデューサー、ブライアン・グレーザー("身代金")と国際電話で企画を進行させる予定です。この番組が画期的なのは、ジェームス・フォーリー("処刑室")、フランク・ダラボント("ショーシャンクの空に")、フランク・マーシャル("コンゴ")などの売れっ子監督が各エピソードを担当することで、トム自身“セービング・・・”の主演で出発する前に、1つのエピソードを監督します。放映は12月から始まり、13回のシリーズを再放送した後、旧ソビエトの宇宙計画が題材となった90分のボーナス番組も放映されるようです。CMなしというケーブル局ならではの特典を生かし、迫力ある史実に忠実なドラマを製作したいと張り切るトム、これだけの企画なら日本でも1998年上旬の放映は間違いないでしょう。こうご期待!





輝く天才

たぐい希なピアノの才能を持ちながら、厳しい父親の影響で神経症になってしまう実在の天才ピアニストの生涯を描いたのがオーストラリア映画“シャイン”です。その感動を呼ぶストーリーと無名俳優ジェフリー・ラッシュ(ゴールデン・グローブ賞受賞)の熱演は口こみで話題となりつつありましたが、ついにアカデミー賞候補ノミネートの噂さえも囁かれるほどです。すでに全米映画評論家協会選定最優秀映画賞を受賞しており、もしオスカーでノミネートされた場合、3月24日ロサンゼルスのシュライン・オーディトリアムで行われるアカデミー賞授賞式では、映画のモデルとなったクラシック・ピアニスト、デビッド・ヘルフガット(49歳)が演奏する可能性も出てきました。極度の対人恐怖症のため10年間コンサートから遠ざかっていた彼は、映画の成功以来、観客の前で演奏する楽しさを覚えたらしく、“It's Okay to be Different Tour(変人でいいじゃないかツアー)”と銘打ったコンサート・ツアーをニューヨーク、トロント、ロサンゼルスで開く予定です。L・A(ロサンゼルス)公演の日程がアカデミー賞の二日後というあたり、彼の自信のほどを窺(うかが)えますね。映画のサントラ盤は好調なところへ、過去“ピアノ・レッスン”やベートーベンの不遇の恋を描いた“イモータル・ビラブド”のサントラ盤をヒットさせた実績を持つRCAビクターが、ヘルフガット・クラシック・アルバムの販売を開始します。不運の天才にもやっと春が訪れたようです。この作品を見て感動した僕としては、ぜひアカデミーの晴れ舞台で演奏して欲しいのですが?




(1997年2月1日)

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