オスカー・パーティー
毎年、アカデミー賞授賞式の後、盛大なエイズ基金パーティーを催すことで有名な歌手のエルトン・ジョンが50歳を迎える本年度は、それを記念した3月24日のオスカー・ナイト・パーティーもこれまでにない華麗な祭典となりそうです。現在、今年の秋発売予定の新アルバム“ビッグ・ピクチャー”を制作中のエルトン、他にも自作曲が大ヒットした映画“ライオン・キング”は同じく今秋ブロードウェイ・ミュージカルへの進出が予定されており、最近設立したばかりの映画製作会社「ロケット・ピクチャーズ」では、第1弾の自伝的作品“タントラムス・アンド・ティアラス(癇癪と装飾頭飾り)”が世界公開間近と、いろいろな分野で才人ぶりを発揮しています。50歳とは思えぬバイタリティーで精力的な活動を続ける彼が、今年は映画界から250人のゲストを招き、ビバリーヒルズのトレンディー・スポット「メープル・ドライブ・レストラン」で開催する恒例のパーティーは、出席したければ1テーブル最低1万ドルをエイズ基金へ寄付する懐の余裕が必要です。パーティーのクライマックスに、自ら独立映画プロデューサーの仲間入りしたエルトンは、今年ノミネートされている数多くの独立プロ作品を記念し、招待した“シャイン"、"ファーゴ"、"嘘と秘密”などのキャストと祝杯をあげる「午前零時の乾杯」とやらを考案中・・・・・・すでに1,400万ドルという莫大なエイズ基金募集へ貢献しているピアニストの、50歳パワーを誇示した今年のオスカー・パーティーは、絶対に見逃せないハリウッドの1大イベントとなることでしょう。
大統領は人気者?
昨年度の最も印象的な映画のシーンと聞かれて即座に浮かぶのは、“インディペンデンス・デイ”でエイリアンがホワイトハウスを破壊する場面です。今年はまるで大統領を狙うのがトレンドのごとく、さらに過激化した陰謀や悪巧みに取り巻かれたホワイトハウスはますます人気(?)を呼んでいます。このテーマを扱った目白押しの作品群も、一昔前の大統領暗殺というワンパターンから脱皮し、趣向を凝らしたプロットが増えてきました。中には、大統領自身が殺人犯の極悪人として描かれるプロットまで現われ、非道徳的なばかりか非人道的で信用できないスクリーン上の人物像を見るうち、なんとなくクリントン政権へハリウッドが抱く不信感が伝わってくるようです。まず、チャーリー・シーン主演の“ターゲット”では、他ならぬと副大統領が大統領暗殺を企て、奇しくも2月の「大統領記念日(ワシントン、リンカーン元大統領の誕生日を祝う祝日)」休暇に公開された“目撃者”では、主演監督のクリント・イーストウッド演じる泥棒がジーン・ハックマン扮する悪徳大統領(彼の悪党ぶりは必見物)の恋人殺害現場を目撃したおかげで追われる身となります。また、4月公開のウェスリー・スナイプス("ファン")主演“マーダー・アット1600”では、とうとう大統領一家が殺人事件の容疑者にされるストーリーという具合。あとは、ハリソン・フォード演じる正義派の大統領が、自ら大統領専用機「エアー・フォース・ワン」をテロリストから守る“AFO(エアー・フォース・ワン)”や、クリントンの大統領選挙キャンペーンの内幕を暴露したと評判のベストセラー“プライマリー・カラーズ”の映画化、あるいは“マーズ・アタック”で変な宇宙人に殺されたり“エスケープ・フロムL・A”で自分の娘を殺そうとしたり、アメリカ大統領も忙しいですね! まだまだスクリーン上の災難が続きそうな気配ですが、そもそもハリウッド映画では、往年の名作“若き日のリンカーン”や最近の“アメリカン・プレジデント"(マイケル・ダグラス主演)といった大統領を偶像化するのが従来のパターンでした。最近の傾向は、ニクソン政権のウォーターゲート事件を皮切りに、ベールを脱ぐケネディーの奔放な私生活、レーガン政権下のイラン・コントラ事件、ドジばかり目立つ軟弱なフォード・カーター政権や、冥(くら)い陰りを拭えぬブッシュ政権など、さまざまな要因で国民の大統領像が変化し、それを反映した結果だという気がします。陰険な大統領像まで登場する現在、銀幕の大統領もずいぶんバラエティー豊かになりました。そんな中で僕のお気に入りは、コメディー“デーヴ”でケビン・クラインが演じたコミカルで人間味のあるプレジデントです。
“春爛漫”のハリウッド!?
夏休みの娯楽大作ラッシュが始まる前の3月から5月の時期は、ハリウッド映画界にとって、イースター(復活祭)休暇などで盛り上がる春爛漫シーズンをターゲットとした自信作を披露する絶好のチャンス。ドラマあり、アクションありのこれから公開される新作の中から、僕が撮影中のセットを訪れたり、予告編(トレイラー)を見た感じで選んだ、ヒットの兆しが窺(うかが)える新春作を数本ご紹介しましょう。
ライアー・ライアー
(3月21日公開)
妻と息子へは失望ばかりさせている約束破りの常習犯で仕事人間型弁護士(ご存じジム・キャリー主演)が、息子の誕生日の“願い”に呪われて、一日だけ絶対嘘をつかない日を送るはめになるコメディーです。“エース・ベンチュラ”のトム・シャディアック監督が、ジムの新鮮な才能をどれだけ引き出せるかがみものです。
セレナ
(3月21日公開)
1995年に自分のファンクラブの会長に殺害されたテキサス出身のラテン系歌手セレナの自伝的映画。グレゴリー・ナバ監督("ミ・ファミリア")が、今売り出し中のジェニファー・ロペス("ジャック")扮するアイドルの素顔を繊細に描写しています。60,000人のエキストラが登場するこの映画、主役のジェニファーは何と9,000人の応募者の中から選ばれました。
インベンティング・ザ・アボッツ
(4月4日公開)
1957年という若々しいアメリカが舞台の青春ドラマ。イリノイ州の片田舎での、裕福なアボット3姉妹("すべてをあなたに"のリブ・タイラーと"ロケッティア"のジェニファー・コナリーがまるで本当の姉妹のよう)と、貧乏なホルト兄弟("スリーパーズ"のビリー・クラダップと“誘う女”のヨアキン・フェニックスがなかなかクール)とのロマンス物語で、“サークル・オブ・フレンズ”のパット・オコーナー監督が今は薄れゆくアメリカのノスタルジアを巧く描いています。
ダブル・チーム
(4月4日公開)
ジョン・ウー監督("ブロークン・アロー")に刺激された、香港ハードボイルド・アクション映画の雄、ツイ・ハーク("ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ・シリーズ")が監督する、空手スターのジャン・クロード・ヴァン・ダム("クエスト")とNBA(全米バスケットボール協会)のバッドボーイ、デニス・ロッドマンの異色のコンビ扮するCIAエージェントが、ミッキー・ローク演じる国際テロリストと派手に戦うアクション作品です。身長2メートルでトレードマークは全身の入れ墨とスカンク・ヘアーというロッドマンの映画デビューが見もの。
マーダー・アット1600
(4月11日公開)
今や黒人アクション・スターとしての地位を確立したウェスリー・スナイプス("ハード・プレイ")が、ワシントン市のベテラン殺人課刑事に扮し、ホワイトハウス従業員の殺人事件を捜査するというミステリーです。なんとなく不可思議なシークレット・サービス(ダイアン・レインが好演)や大統領一家も絡み、ドラマは進展してゆきます。ホワイトハウスそっくりのセットを設置して撮影したこの映画、故ブランドン・リー主演“ラピッド・ファイアー”やスティーブン・シガール主演“死の標的”でのアクション場面が印象的なドワイト・リトル監督の手腕でスリリングな仕上がりです。
ブレイクダウン
(4月11日公開)
タイトルが示すとおり、カート・ラッセル("エスケープ・フロムL・A")、キャサリン・クインラン("アポロ13")演じるカップルが車でアメリカ大陸横断中、見知らぬ土地で降りかかる災難。事の起こりは、アリゾナ州あたりで自動車が故障し、挙げ句の果てに妻を誘拐されるという、観光客の悪夢を再現した物語です。脚本も手がけた監督ジョナサン・モストウの処女作ながら、初めての映画とは思えぬ監督ぶりで、“身代金”と“脱出”を掛け合わせたような作品。
ハードレイン
(5月2日公開)
インディアナ州の片田舎で起きた銀行強盗事件を背景に、犠牲となった現金護送車の運転手("ブロークン・アロー"のクリスチャン・スレーター)が、突如襲った大洪水から町を救う災害アクション。500万ガロンの水とフットボール場4つ分の貯水タンクへ町のセットを組んで、それを沈ませるという大がかりなスタントは凄い迫力です。海底スリラー“アビス”の撮影監督を務めたミカエル・ソロモンの監督デビューで、“スピード”や“ブロークン・アロー”で名声を高めたグラハム・ヨーストのアクション脚本とくれば、もう面白いこと間違いなし!
フィフス・エレメント
(5月9日公開)
“レオン”で国際的ヒットを飛ばしたフランスの鬼才ルック・ベソン監督が9,000万ドル(約100億円)という莫大な製作費をかけて仕上げたSF大作です。ブルース・ウィリス扮するニューヨークのタクシー運転手と、ゲーリー・オルドマン("レオン")演じるヒットラーの生まれ代わりのような男が、謎の「第五の要素」を巡る争奪戦を繰り広げます。予算のほとんどは世界的デザイナー、ジャン・ポール・ゴルティエーによる華麗な衣装代などと噂されていますが、5月7日のカンヌ映画祭でのプレミアまで、その正体はいっさい謎に包まれたまま。今春の目玉映画といってもいいでしょう。
ファザーズ・デイ
(5月9日公開)
1984年に製作されたフランス映画“レ・コンペレス”のハリウッド風リメイク版。昔の彼女("ターミナル・ベロシティー"のナスターシャ・キンスキー)から、家出をした息子の父親は自分だと告げられた2人の男たち("シティー・スリッカーズ"のビリー・クリスタルと"ジャック"のロビン・ウィリアムス)が、息子探しで遁走するドタバタ・コメディーです。私生活でも親友の2人、撮影中はアドリブの連続で、監督のアイバン・ライトマン("ツインズ")も捧腹絶倒だったとか。
ボルケーノ
(5月9日公開)
さて、新春推薦作品リストの最後を飾るこの作品、ユニバーサル製作の“ダンテズ・ピーク”に遅れをとった感もありますが、製作の20世紀フォックスは自信満々です。ロサンゼルスという大都市が舞台であるばかりではなく、特撮シーンが映画半ばから始まる“ダンテ・・・”とはスケールも違うとか。なるほど、ロサンゼルスのダウンタウンを呑み込む溶岩や火山爆発シーンといえばド迫力モノですが、映画ファンは続けて同じテーマの作品へ興味を示すのかどうか、やや疑問があります。ともあれ、アカデミー賞俳優トミー・リー・ジョーンズ("逃亡者")の熱演とミック・ジャクソン監督("ボディーガード")の演出は大きなプラスです。
春のうららかな陽ざしに誘われて映画館へ足を運ぶファンのハートを捉えるのは、果たしてどの作品でしょうか? そして、春爛漫シーズンも終わる5月23日、夏のブロックバスター第1弾“ロストワールド"("ジュラシック・パーク”続編)が大口を開けて待っています!
スーパーマン復活!
落馬事故のため半身不随になりながらも、前向きな姿勢で世界中の映画ファンから慕われているスーパーマン俳優クリストファー・リーブスが、事故の前に監督契約を結んだ“テル・ミー・トゥルー”という映画で監督デビューを果たすことになり、ハリウッドの話題を集めています。この作品は、人が真実を言っているのか、嘘をついているのか判る特殊な才能を持つ男の物語で、正直者は馬鹿をみるような現代社会の風潮で毒された人々から阻害され、孤独へ追いやられた彼が、やがて愛する女性に巡り会うという心温まるストーリーです。現在は大物スターを中心としたキャスティングの進行中で、10月からマンハッタン・ロケの開始を予定しています。事故に遭い、初めて人間として何が一番大事か判ったと明言するクリストファー、五体満足な人間は見落としがちなビジョンをスクリーンで表現してくれるよう願っています。
一大スペクタクル「ああ無情」
ジェフリー・ラッシュ |
クレア・デーンズ |
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ソニーを食い物にしたことで名を馳せた元ソニー・ピクチャズの社長ピーター・グーバーが設立した製作会社マンダレイ・エンターテイメントは、かつて僕の秘書で脚本審査を担当してくれたスザンヌ・マクレイが企画開発部長を務める関係上、時たま内情に関する話なども耳にします。そして内外の情報を総合すれば、この新興製作会社は、なかなか好調なようです。“ダブル”の撮影中、ロマン・ポランスキー監督と意見の相違から、ジョン・トラボルタがロケ地のパリを突如去って降板というハプニングはあったものの、すでに“ファン"、"フェイク”のヒットを飛ばし、現在撮影中の“セブン・イヤーズ・イン・チベット”(ブラッド・ピット主演)や公開間近の“ダブル・チーム”の他、今月(3月)末にはランダ・ハインズ("ドクター"、"愛は静けさの中に")監督作“シャラップ・アンド・ダンス”("イレイザー"のバネッサ・ウィリアムス主演)がクランクイン、続いて4月下旬はロバート・ダウニー・ジュニア("恋の闇 愛の光")主演“ワイルド・シングス”のクランクインと、ユニークな作品製作が注目されています。9月には、ジーナ・ローランズがアカデミー賞でノミネートされた1980年度作“グロリア”のリメイク版が、シャロン・ストーン主演でクランクインする他、文豪ビクトル・ユーゴ原作の不朽の名作を脚色したミュージカル“ああ無情(レ・ミゼラブル)”の映画化と、今までにない斬新な企画で快進撃中です。“ああ無情”は、すでにリアム・ニーサム("マイケル・コリンズ")、ユマ・サーマン("好きと言えなくて")、ジェフリー・ラッシュ("シャイン")、クレア・デーンズ("ロミオとジュリエット")といった個性的な顔ぶれのキャスティングが決定しており、時代設定もブロードウェイでヒットしたような「現代版」は避けて、原作通りの19世紀パリを舞台とした往年のハリウッド映画を彷彿させる一大スペクタクルが狙いだそうです。 |
(1997年3月16日)
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