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(2019年6月)          


Storm Cursed
ストーム・カースド

by Patricia Briggs


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 本著は以前ご紹介した「マーシー・トンプソン・シリーズ」の11作目にあたります。主人公のマーシー・トンプソンは、狼族(ウェアウルフ)でなくコヨーテなどへ変身したり霊を見ることが出来る「ウォーカー」と呼ばれる種族です。ウォーカーには人間と違って狼族(ウェアウルフ)を見分ける能力があります。本著は初めて読んだ読者へもわかるような構成となっていますが、やはりそれまでの物語を知っているのといないのでは面白さが違ってくるのはしかたがありません。

 はっきりしているのは、このシリーズ11作目がこれまでの10作と比べても完成度が高いことです。主要登場人物のマーシーやアダム、そして仲間達はマロックと北米狼族(ウェアウルフ)から正式に分離されて以来、独自の存在となっています。彼らは本質的にトリ・シティー地域を保護する騎士となりました。ゾンビの農場の動物が現われ始め、同盟者へ壊滅的な何かが起って、マーシーとアダムは新しい種類の戦争に気づくのです。

 1匹の小さなコヨーテと力のあるコロンビア・ベイジン達が、グレイ・ロードと同列で扱ったり、ファエや米国政府をやすやすと辞任させたくないグループを阻止するため、多くのことをしなければなりません。彼らへ新しい敵となった相手は、相当な力とある種の魔法を持っています。死者の数が多いので、本著はこれまでのシリーズ作のいくつかより昏(くら)いトーンを持ち、マーシーの生意気なユーモアが少なくなっていると馴染みの読者なら気づかれるでしょう。彼女とアダムの関係は、橋の上での彼女の宣言以来、彼らの領土のすべての市民を保護すべく人間としても超自然の存在としても彼らがはるかな緊張と要求を強いられています。

 ステファンのファンは彼がマーシーを助けたことを嬉しく思ういっぽうで、彼らの関係は血縁であるがゆえ複雑です。物語は主に魔女へ焦点を当てており、白、グレー、黒、そして彼女らがどう魔法を作り出して力を得るのかを描き出しています。アダムと彼の労働力が政治と政治家を扱うことに彼らの時間の多くの時間を費やすごとく、マーシーは彼女の新しくオープンしたガレージで働くゼーと彼の息子であるタッドの助けを借りて、彼らの問題がどこから、そして誰から来ているかを探ってゆくのです。

 これまでのシリーズ作では、多くの関係、敵と敵が確立されていたので、マーシーの仲間へ向けた新たなパラダイムセット(時代設定)によって、それらの絆はとても重要となり、敵はより致命的なダメージを受けます。マーシーの「父親」コヨーテの登場も、彼が助けとなっているのか妨害となっているのかどうかは常に大きな問題でしょう。

 読者へもっと嬉しいのが、いくつかの驚くべき隠された才能を持っている謎のシャーウッド・ポストについて明らかとなること。そして、とても不気味で力強いウォルフも同じく物語の中で存在感を発揮します。例のごとくマーシーの度量とトラブルへの嗜好は、読者に多くの行動、冒険、恐怖心をもたらし、大いなる旅へと誘(いざな)います。


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(2019年6月)

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