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(1998年7月1日)          




悲劇の主人公

ハリウッドで時として「企画地獄(ディベロプメント・ヘル)」と称されるプロジェクトの開発段階には、スタジオの思惑やキャスティングの難航など様々な理由から、これまで数多くの有望かつ斬新な企画が陽の目を見ることなく挫折しています。最近、その運命を免れた“ヒンデンブルグ”たるや、「空飛ぶタイタニック」というニックネームさえ付きました。ヒンデンブルグとは言うまでもなく、1936年、大西洋横断の処女飛行を終え、最終目的地のニュージャージー州で着陸時に電線と触れて炎上、悲劇の最期を遂げた豪華飛行客船です。それがテーマの映画は、ナチス統治下で愛し合う若者たちの恋物語を軸に展開する冒険サスペンスと、ほとんど“タイタニック”の世界であり、“企画地獄”へ片足を突っ込んだまま燃え尽きる運命・・・・・・かと思われていたところ、“ツイスター”や“スピード”のヤン・デ・ボン監督(写真)が興味を示したおかげで救われ、いま数人の脚本家が書き直しています。そんなわけで、まず最初はユニーク過ぎる内容のため、これから挫折しそうな企画、“企画地獄”の犠牲となりそうな悲劇の主人公(企画)たちへスポットを当ててみました。


“ビヨンド・ザ・シー”

自分が鯨だと思いこみ、美貌の海洋学者に恋をする海軍士官の物語で、リチャード・ギアが主演確定済み。タイトルを訳せば「海を越えて」、もし日本で封切られるとしたら、どうなることでしょう?

“バードマン”

「鳥人」と題したこの映画、自然保護された珍種の鶴を研究している生物学者を自分のメイトと信じ込んだ鶴が、その学者と彼のガールフレンドとの間で巻き起こす三角関係コメディーです。

“ピープル・ウォッチャー”

タイトルどおり「他人を観察する者たち」の冒険コメディー、レストランで食事中に奇妙な男へ気を引かれた2人の男たちは彼を観察するうち、相手が国際テロ事件に係わっていると信じ込みます。結局、相手はただの掃除夫だったというオチながら、“めぐり逢えたら”の共同執筆者ジェフ・アーチが書いているので話題に・・・・・・

“レベレーション”

カントリー・ウェスタンの大御所ガース・ブルックス自ら、自分のアイデアを自分の製作会社ストロークス・エンターテイメントで企画中。自分の体に家畜と同じ焼き印を発見した小説家が、自分は悪魔の化身ではないかと自己嫌悪に陥ってしまうミステリー映画で、タイトルは「お告げ」という意味です。

“スイート・トゥース”

瀕死の父親が、長年していたペットのグルーマーなどではなく、実は"妖精"だったことを知った息子は、今度は自分がその"家業"を引き継ぐハメに・・・・・・アーノルド・シュワルツェネッガーが「甘党(スイート・トィース)」かどうかはさておき、彼がご執心の役柄です。

“ティッキングマン”

時限爆弾がカチカチ時を刻むのを“ティッキング”というごとく、主人公は自分の胸へ爆弾をインプラントされた、まさしく「時限爆弾男」。“L・Aコンフィデンシャル”や“身代金”の脚本家ブライアン・ヘルグランドが書いたSF冒険サスペンスで、主演候補にはブルース・ウィルスの名も上がっています。

“トラブル・ウィズ・タック”

盲目の犬タックが、自分自身の盲導犬を率いて、タイトルどおり問題を巻き起こすコメディー。冗談のようなストーリとはいえ、“マウスハント”のアダム・リフキンが実話に基づいて書きました。

“ワシントン・スレプト・ヒア”

「ワシントンはここで寝た」というタイトルが、なんとなくクリントンへの皮肉っぽく響くこの映画、次期大統領候補とセックス関係のある女性5人が党大会会場で鉢合わせをしてしまうコミカルな政治ドラマです。こういう映画のたび、この先何年も話題に上り続けるとは、ついクリントンへ同情してしまいます。大統領稼業がパブリックな点では、やはりスター稼業と通じる部分があるのでしょうね?

これらの企画が予想を裏切り、「悲劇の主人公」ならぬ、ハリウッドっぽく「ハッピーエンド」で終わってくれるよう、せつに祈ります!!!





ゴジラが蘇る日まで?


昨年夏のメガ・ヒット作“ロスト・ワールド”を上回る3、310館、7、367スクリーンと、史上最大規模で全米公開された“ゴジラ”ですが、「この夏一番のヒット」という下馬評とは裏腹の結果に終わりそうです。“ID4”の製作監督チームを起用した製作スタジオ、ソニーの思惑が大きく外れた“ガッカリ映画"、日本の封切りは7月11日に迫っています。上映日を控え、この“元祖”怪獣映画がローテクからハイテクSF作品へどう生まれ変わったのか、その背景にスポットを当ててみましょう。オリジナルは東宝の1954年度作“ゴジラ”で、ゴム製縫いぐるみの怪獣が席巻する東京の高層ビルは紙模型の、いかにも安っぽい映画でした。しかし、一種独特の雰囲気があり、着々と世界のファンをつかんでゆきます。ポルシェで有名なドイツのスチュットガルト育ちのローランド・エメリッヒ監督は、当時、他の若者のようなファンでなかったばかりか、4年前ヤン・デ・ボン監督("ツイスター")が大型予算の理由から降りた後、ソニーの誘いを4度も断っているぐらいです。一方、10年前、東宝より製作権を獲得したプロデューサー、ロバート・フリードが一番頭を悩ましたのは、伝説的な東宝バージョンの安っぽいSFXの持ち味を、最新のCG技術を取り入れるアメリカ版でいかにして活かすかという問題でした。こうした事情があって、どうしてもエメリッヒ監督を起用したいフリードは、核汚染の産物である「奇形怪獣」という東宝の原案をもう一歩進め、核の落とし子である「動物」というリアリズムを提案します。結果、破壊的な「モンスター」でなく「アニマル」感覚のモチーフへ興味を抱いたエメリッヒ監督が意気揚々と参加し、彼とは長年の友人であり"ID4"でオスカー効果賞を受賞したCG特撮の天才、ボルカー・エンゲルのもと、あの600メートルのニュー・ゴジラが完成したわけです。まず、ボルカーはモデルとして数年前フランスが実際に核実験を行った南太平洋の孤島付近で発見された異様な爬虫類(大トカゲ)を選び、ソニーとエメリッヒはそのデッサンを気に入ったものの、元祖ゴジラのゴム人形などを初めとする玩具で長年莫大な事業利益を上げている東宝が承認しない限り話は始まりません。ところが、製作権を獲得する際の交渉で2年の歳月を費やしたフリードの危惧をよそに、東宝は一晩で新しいデザインを承諾し、スタッフを驚かせました。当時“ID4”が日本で公開されていたことや、オリジナルと違いすぎる斬新なデザインは部分的な手直しが不可能なので「承諾するか拒否するか」の二者選択しかなかったことも幸いしたようです。そして、いよいよクランクインしてからは、ロケ地がニューヨークのど真ん中マンハッタンという関係上、ゴジラの暴れ回るシーンは比較的交通量の少ない午後8時から午前6時までを狙って撮影が進められました。飛び散る車両、軍事兵器、破壊される街並みなどの大道具類は、毎朝その日の撮影が終わるや片づける強行スケジュールばかりか、何千人というエキストラや人工雨を降らせたりの大騒ぎで、32日間の撮影は混乱を極めました。ゴジラを誘き寄せようと陸軍が大量の魚を仕掛けるシーンは、さすが市の撮影許可が下りず、編集時のCG効果で処理されています。中でも話題を集めたのは、やはりゴジラの出演場面の90パーセントがCGイメージという事実です。20階建のビルと匹敵する巨大な主人公は、24分の1と6分の1大のゴジラの縮小模型(アニマトロニック)、そして400以上のCG効果で生み出されました。また、特撮シーンは固定カメラを使う定説を覆し、クレーン撮影、移動車輌からの追跡撮影、ヘリを使った空中撮影と、様々な方法で撮り上げたエメリッヒ監督の各場面(フッテージ)へ、ドイツのハイテクSFXスタジオ、ゼウスが編集段階で3DのCGイメージを挿入するプロセスは、これまでなかった斬新なパターンです。個人的に期待外れのストーリーながら、映画の大半が「架空の主人公」を相手取って完成した技術(と役者の演技力)は、ただただ感嘆させられるのみ・・・・・・世界へ飛躍した「家宝」の里帰りが、さあ、どのような反響を呼ぶことやら!?





不滅のディスコ!

まだ「エイズ」や「不況」と縁がなかった「成長の時代」'70年代、その時代背景を象徴するかのごとく世界中で吹き荒れたディスコ旋風も、時の流れには勝てなかった・・・・・・と思いきや、スタイルを変え、テンポを変えながら今へ至っているのです。そのディスコ文化が'90年代のポップ・カルチャーとして、このところ注目されています。一説では「10歳から22歳までに聴く音楽が個々の嗜好を決定する」といわれ、現在のエンターテイメント業界を牛耳るパワー・ブローカーの多くは'60年代以降生まれであることを考えた場合、彼らがディスコ・ブームの真っ直中で思春期を過ごした影響は、現在の文化へ及ぼすものが少なくないでしょう。ポリエステルの三揃え(スリー・ピース・スーツ)、リバイバル・ブームのプラットフォーム・シューズに代表されるファッション、笑顔(ハッピー・フェイス)やペット・ロックの'70年代は、音楽もヒューズ・コーペレーションの“ロック・ザ・ボート”からビージーズ、ドナ・サマー、そしてグロリア・ゲイナー、K・C・アンド・ザ・サンシャイン・バンドへとディスコの波が広がっていきます。そもそもファンク、ソウル、ラテンといった様々なリズムをミックスして生まれたディスコ音楽は、シスター・スレッジのヒット曲“ヒーズ・ザ・グレイテスト・ダンサー”を現代風にアレンジしたウィル・スミス("MIB")の新曲“ゲッティング・ジギー・ウィズ・イット"、またディスコ・ビートをコンピュータでラテンぽく強調したグロリア・エステファンの新曲“ヘブン・イズ・ホワット・アイ・フィール”などへ引き継がれ、今なお健在です。グロリア・ゲイナーの“アイ・ウィル・サバイブ”が1979年度グラミー賞に輝いた「ベスト・ディスコ・レコード賞」のカテゴリーこそ数年で廃止されながら、曲のほうは未だ「最も歌われるカラオケ・ナンバー」として君臨し、そのおかげでグロリアが年100回以上のショーをこなす売れっ子ぶり。映画界では、ディスコ文化が背景となった'70年代ポルノ産業の栄華を描いた昨年度の話題作“ブギー・ナイツ”をはじめ、封切られたばかりの“ラスト・デイズ・オブ・ディスコ"、来月(8月)はディスコ文化の代名詞とさえ言われたニューヨークのクラブ“スタジオ54”の物語“54"(写真)やプラットフォーム・シューズを履いた主人公が笑わせるディスコ・コメディー“スラム・オブ・ビバリーヒルズ”の2作も相次いで公開されます。また、今年のカンヌ映画祭では、'70年代シンガポールのディスコ熱に浮かれるティーンエイジャーを描いた話題作“フォーエバー・フィーバー”をミラマックスが買い取り、この秋、全米公開のフィーバーぶり。こうした風潮を反映してか、“ブギー・ナイツ”サントラ版、“ピュア・ディスコ”他のベスト版は好調な売れ行きを示し、「悩みなき'70年代」へ憧れるエネルギーが一丸となって新しいトレンドを生み出しているかのごときハリウッドです。L・Aのクラブ・シーンはディスコ・ナイトが大流行り、ジェネレーションXの若者から'70年代の名残(イフェクト)を残す30代ヤッピーまで、あの強烈なディスコ・ビートに乗ってノスタルジアとトレンドの溶け合った熱い世界へ浸っています。L・Aを訪れる際は下記のクラブを覗くのも面白いかも・・・・・・

AFTERSHOCK ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ディスコ・ナイト: 木曜日
11345 Ventura Blvd.
Studio City
(818)752-9833
THE GATE ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ディスコ・ナイト: 水、金、土曜日
643 La Cienega Blvd.
West Hollywood
(310)289-8808
MARTINI LOUNGE ・・・・・・・・・・・・・・・
ディスコ・ナイト: 第3木曜日
5657 Melrose Ave.
Hollywood
(213)467-4068
DRAGONFLY ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ディスコ・ナイト: 土曜日
6510 Santa Monica Blvd.
Hollywood
(213)466-6111





監督のお気に入り

先月、コメディーの大御所アイバン・ライトマン("デイブ"、"ゴーストバスターズ")監督作“7デイズ・6ナイツ”が封切られたばかりのハリソン・フォード(写真)は、ベテラン監督シドニー・ポラック("サブリナ"、"法律事務所")の“ランダム・ハート”が9月のクランクイン他、来年9月にはミステリー・スリラー“ホワット・ライズ・ビニース”で“フォレスト・ガンプ”や“コンタクト”の鬼才ロバート・ゼメキス監督と組む予定です。いろんなタイプの監督からラブコールがかかるのは、それだけ創作欲を刺激する俳優ということであり、彼らを業界用語で「ティーチャーズ・ペット(教師のお気に入り)」ならぬ「ディレクターズ・ペット」と呼びます。幅広い役をこなす上、その役作りへ「はまりこむ」職人肌のハリソンがハリウッド有数の「ペット・スター」であることは間違いありません。当たり役の1つ、CIAエージェント“ジャック・ライアン・シリーズ”をプロデュースするメイス・ニューフェルドがやはり彼のファンで、“今そこにある危機"(1994年)の次作を、どのトム・クランシー小説から選ぶか思案中だとか。なお、先のゼメキス監督といえば、ふつう次の映画まで1〜2年のブランクを置くことで知られています。ところが“ホワット・・・”の後は、引き続き大統領御用達の避暑地で釣りがテーマのブラック・コメディー“バッド・トラウト”を撮り始めるそうです。一方、少し前まではハリウッドのバッドボーイ・ナンバーワンで名を轟(とどろ)かせたバル・キルマー(写真)が、最近は改心したのか、多くの監督が「彼とは二度と仕事をしたくない」と言うのが嘘のような好マナーぶりで話題を集めています。撮り終えたばかりのMGM製作ドラマ“アット・ファースト・サイト”の場合、プロデューサーのアーウィン・ウィンクラー("ロッキー・シリーズ"、"グッドフェローズ")は彼をキャスティングする際、悪評の信憑性を“ヒート”の共演者ロバート・デ・ニーロとマイケル・マン監督バルへ確かめ、好意的な反応を獲ました。ひたむきなバルの俳優意識が人によっては傲慢と思えるのだろうと言う彼らの言葉が決め手となり、ウィンクラーは採用を決めたそうです。かつて“レナードの朝”で感動的な人間ドラマを書いた精神科医の小説家オリバー・サックスの原作を映画化した“アット・・・"、バルが演じるのは手術で目が見えるようになる生まれつき盲目の青年役で、彼は恋人("ミミック”のミラ・ソルビノ)の美しさを知らぬまま愛した青年が生まれて初めて物を見る感動を見事に表現し、自ら監督を務めたウィンクラーの期待へ応えています。秋の感謝祭休暇に公開を予定するこの映画、スケールアップしたバルの「ディレクターズ・ペット」ぶりを期待しようではありませんか!




(1998年7月1日)

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