映画とウェブサイト (上)


 この「ハリウッド最前線」をCBSスタジオ・センターで開設し、早くも3年目を迎えるに至った。過去2年間のアクセス数はのべ130万件を突破し、毎月14万件前後のアクセスがあるなど、当初は予想もしなかったことだ。そもそもの生い立ちから、みなさんのご支援を承りサイト全体がここまで広がってゆく過程では、当然ながらいろんなエピソードもある。

 開設以来4ケ月おきのペースでお届けしてきた「テーマソング」、連載7回目の今回はそういった家庭の事情をバラすべく「ウェブサイト」の話だ。裏舞台を覗(のぞ)いた結果、がっかりするようなことがあっても、「ハリウッド最前線」へ抱くイメージだけは崩さないでほしい。

 ともあれ、マックスが映画情報を提供する日本語のウェブサイトを思い立ち、CBSスタジオ・センターへ企画を持ち込んだところで、すべては始まる。その時点で私が頼まれたのは、小説家として、またコンピュータ人間としてサイトを監修するスーパーバイザーだ。そして、制作面に直接タッチしないことが、こちらの前提条件だった。自分の「のめり込みやすい性格」を考えると、うっかり制作へ係わるのは危険だろう。

 元の文章はマックスが書き、サイトのデザインはCBSのデザイナー達が自由に使える条件なので軽く引き受けた私は、まさか自分がウェブマスターとなるなど思いもよらない。最初はマックスの書いた5つの短い「ニュース」を書き直し、そこへ「ベスト10」を添えただけ、サイト全体が1ページなのである。その1ページをCBSのデザイナーは、私がマックスへの参考として作成したバナー(冒頭の画像)を使ってまとめ、ひとまずインターネットに乗った。

 この時点でCBSのコンピュータ(ワーク・ステーション)は日本語が扱えず、記事はスキャンした画像を使い、その後コンピュータの1台へ私が日本語をセットアップすることになる。しかし、試行錯誤の末、わかったのは、いくら優れたデザイナーであろうが、日本語を知らず日本語サイトのデザインは無理・・・・・・結局、インターネットへ乗せた記事の部分を画像から日本語のハイパー・テキストにするという初歩段階でつまずく。

 しかたなく、CBSのデザイナー連中へ作例を見せようと試みた私が、まずネット・サーフィンをしながら良さそうなデザインのページをダウンロードし、それをWindowsのメモ帳で開いてみた。ともかく、どうやってハイパー・テキストを書くのか把握するためだが、これを繰り返すうち、どの「タグ」をどう使えば、ブラウザの画面に文字はどう表示されるのか基本が見えたので、さっそくニュースをハイパー・テキスト化すると、ほとんどのタグはそれまでHTMLの「エ」の字も知らない私が見当をつけた通り機能し、思いのままデザイン出来るではないか!

 こうして1週間後、HTMLの「レベル2」まではベーシックな部分がほぼ把握できたものの、いざ作成したハイパー・テキストをCBSへ持って行けば、また新たな問題と直面する。私の説明を聞いたデザイナーは、どうせ日本語を読めず、文字化けしようと関係ないわけだから、どの部分がどんな内容かさえわかれば、ページのデザインは出来るはず・・・・・・そう思っていたら、化けた文字の羅列が画面の右端で改行せず、その理由を問い合わせる相手は私だ。しかし、数日前まで何も知らず、日本語のWindowsで改行した文章が英語のブラウザで改行しない理由など、わかるはずはない。

 結局、英語のブラウザで改行しなくても、そのままサーバーへ入れたものを日本語のブラウザで見れば問題がないとわかるまで、CBSのデザイナー連中とどれだけ悩まされただろう。彼らは、いったん私がハイパー・テキストを作成すれば、私を自分たちと同じレベルで見る。また、Windows95のポインタでアニメーションに馴染んでいた私が、自作の動画(gifアニメーション)をハイパー・テキストへ入れると、その作り方を聞かれたこともあった。こうして、制作はタッチしないはずで係わったウェブ・サイトが駆動し始めるや、どういうわけかデザインは私が担当し、いつしかこの部分(つまり創作面)は自分独りの世界となってゆく。

 開設当初、ほとんどゼロに等しい月間ヒット件数(アクセス数)が、なんとか1万件を超した夏頃、マックスと私は映画ならプロデューサー監督のような関係が出来上がっていた。そして、訪れる人は着々と増え、毎月のヒット件数が現在へ至る状況を語っている。

"ハリウッド最前線”月間ヒット数

年 度 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 合 計
1996年 12 247 627 1,081 3,928 3,331 4,948 14,636 24,391 27,051 23,460 27,103 130,815
1997年 31,083 36,122 47,703 103,846 84,507 119,418 121,536 136,924 134,760 135,355 138,645 147,237 1,237,138


 この表を見ていただければおわかりのように、1年目(1996年)の8月でようやく1万件を超した月間ヒット件数も、年間のトータルは約13万件と、2年目後半のひと月ぶんを下回る数字であった。それが翌年の4月だけでいきなり10万件を突破するのも、1年目の夏同様、それなりの理由はあるわけだ。

 ヒット件数および送ったファイル数やサイズといった情報に加え、クライアント・ドメイン(経由して訪れたリンク先)の詳細などが知りたい時は、(関係者なら)インターネット経由でCBSのメインフレームにアクセスすれば即わかる。それを見ていると、開設数ケ月目あたりから「ソニー」や「花王」といったインターネットへ積極的な企業関連の様々なウェブサイトが、この“ハリウッド最前線”を紹介し始め、そこからリンクされた「訪問者」はかなりの割合を占め始めた。また、Yahoo! Japanの出版する「INTERNET GUIDO」他の雑誌が紹介記事を掲載し始めたのも、その頃だ。8月の数字はそれらを反映している。
月間ヒット件数の変化
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 おかげでヒット件数が増えると、もっと読者に喜んでもらえるサイト作りを目指す。2年目はページも増やし、それが1年目の後半は2万台だったヒット件数が3万台へ伸びるという結果に現われれば、ますます意欲を燃やし、とうとう新しいページでは自分本来の姿である小説まで加わった。そして、4月中旬、Microsoft Japanが「今週のクールリンク」で取り上げるや、“ハリウッド最前線”のヒット件数は一気に倍増するのだ。

 過去2年間の月間ヒット件数をグラフにしたのが右上の図で、これを見るだけでもMicrosoftの企業パワーを実感させられる上、4月の日割ヒット件数(右下)は、反論のしようがない。16、17日は週の途中で変わった「クールサイト」へ“ハリウッド最前線”が取り上げられた直後なのである。ただ、翌月は4〜5万台の線まで落ちると思っていたら8万件以上のヒットがあったばかりか、6月は4月の記録を更新するのは嬉しかった。

日割ヒット件数
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 また、読者の中でリピーター(常連)が目立ち始めたのもこの頃だ。CBSへアクセスし、毎月のアクセス状況を見ていると、月2回のアップデート直後は極端にヒット件数が増えてゆく。これはアップデートを待って訪れる人たちが、それだけ多くなったことを意味する。すると、いくらフリーサイトでもアップデートを遅らせない。最近では小説ならぬウェブサイトで締め切りのプレッシャーを感じることがあるのは、喜んでいいのやら悲しんでいいのやら・・・・・・?

 3年目に入った“ハリウッド最前線”が今後どのような方向性で発展するかは読者のみなさん次第だが、ウェブマスターの私としては2年前に係わった時点から一貫し、ともかく自分が納得できるエンターテイメント・ページ作りを目指している。この原点はプロデューサーのマックスとて変わらない。ただ、CBSスタジオ・センターというバックアップがあろうと、そこには日本語のウェブマスターがいないので、制作行程はどうしても家内工業の世界なのだ。目まぐるしく発展し続けるインターネットのテクノロジーに追っつけない時があったり、記事の取材不足などは起こり得るだろう。そういう場合は、何とぞ、ご容赦いただきたい! (続く)

横 井 康 和      


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