映画と主演男優


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「カサブランカ」より
 英語で「ウーマナイザー(Womaniser)」という名詞がある。研究社の新英和中辞典を引けば「女道楽をする男」とあり、元の動詞「ウーマナイズ(Womanize)」だと「<男を>柔弱にする」「女道楽をする」しか載っていない。そこで、今度はThe New York Times英々中辞典を引いてみると、同じく「<男を>柔弱にする」「『<男が>[女と]いちゃつく、恋愛遊戯にふける』の略称」程度の簡単な説明だけであるしかし、実際はもっと幅広いニュアンスで、この言葉を使う。

 たとえば、映画の主演男優で女性ファンにもてるタイプがいる。こういうタイプの男優を「ウーマナイザー」と呼ぶ場合、「女道楽をする男」ではちょっと極端だ。「女好みのする男」か、せいぜい「女を魅了する男」ていどが妥当な線であろう。小学校で女子生徒の友達ばかりの男子生徒を周りの男子生徒がからかうシーンは、誰しもお馴染みのはずである。その小学生とて、いっぱしの「ウーマナイザー」であり、だからといってまだ「女道楽をする」歳じゃない。

 いっぽう、「女道楽をする男」よりももっとタチの悪いニュアンスで使う場合だってある。たとえば、俗に言う「ヒモ」とか「スケコマシ」は、これまた「ウーマナイザー」なのだ。いわば職業として女を使う男であるから道楽の一歩上を行く。この場合、「ウーマナイズした男」でも決して柔弱にされてはいない。その逆で「<女を>柔弱にする」のが彼らの特徴なのである。

 そもそも、女性は弱いという前提で「ウーマナイズ」が「女性化」すなわち「柔弱にする」を意味した。同じく、かつて貧しい日本で家庭を支えたか細い主婦だからこそ「細君」と呼ぶ。しかし、現代社会では知り合いの細君を紹介され、たとえ彼女が太っていようと文句を言う者はいるまい。そう考えると、「ヒモ」や「スケコマシ」のような女を食い物にする柔弱でない「ウーマナイザー」がいても不思議はないわけだ。

 こうしたマイナス志向(ネガティブ)の「ウーマナイザー」ばかりでなく、プラス志向(ポジティブ)で「ウーマナイズした男」の場合でも、それが女道楽の結果であったり柔弱であると限らないことは、もうおわかりいただけたであろう。極端にいえば「もてる男」すなわち「ウーマナイザー」と解釈してもいいぐらいであり、先の小学生同様、生まれつきの性格という要素がかなりある。

 そこで、典型的「ウーマナイザー」の男優を考えてみよう。古くはハンフリー・ボガートエルビス・プレスリーなどが浮かぶ。2人とも未だハリウッドのアイコン的存在である。そして、最近ではハリソン・フォードジョン・トラボルタからジョージ・クルーニー、はたまたトム・クルーズブラッド・ピットからベン・アフレックと、考え始めるときりがない。日本の男優でも、去年の9月、65歳にして初めてロサンゼルスでコンサートを開いた加山雄三あたりは、親の代からの「ウーマナイザー」だ。

 早い話が男性の映画スターは過半数が「ウーマナイザー」であり、男性のロック・ミュージシャンに至ってはこの傾向がますます顕著である。これは日本もロカビリーグループ・サウンドの時代から変わらず、いわゆるグルーピーが追っかける図式は相手のバンドが売れていようと売れていまいと関係ない。新宿のアシベでデビューしたばかりのロック・バンドでさえ、それなりのグルーピーはついていた。

 これが恵まれた環境かどうかは考え方次第であるが、ロック・ミュージシャンの中にはここぞとばかり女道楽へのめり込む者が少なくない。同じことは映画スターの場合にも言えそうだ。いつだったか、シャロン・ストーンが映画雑誌のインタビューで、「以前、ベッド・シーンを撮影中、本当にセックスをしようとした共演者がいたけど、そのバカはそれが当たり前だと思っているから救われないわ!」と語っている。あるいは、女優のインタビューすなわち彼女とのセックスという認識を持つ映画プロデューサーも少なくない。

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三菱デボネアはセクシーな紳士?
 しかし、職権乱用の女道楽をした映画関係者やロック・ミュージシャンの場合、どうも「ウーマナイザー」のイメージとかけ離れる傾向がある。たとえ従来の「ウーマナイザー」は「女道楽をする男」、もっとわかりやすく言うと「女たらし」を意味しようと、自力で女をたらす能力があるなら立派なものではないか!

 ちなみに、一般的なアメリカ人の感覚では「ウーマナイザー」を褒め言葉として使う者は少数派かもしれない。それ以外のアメリカ人が上記の男優などを形容するとしたら「デボネア(Debonair)」だ。この「<男性が>明るく愛想のいい、スマートで親切な」を意味する「デボネア」、日本では三菱の乗用車でお馴染みだろう。いわゆる女性の前でエチケットをわきまえた「紳士」のことである。

 「紳士」と「女たらし」では随分開きがありそうで、実際は捉(とら)え方の相違に過ぎない。退屈な紳士より上品な女たらしのほうが、よほど魅力的だし、肝心なことは「紳士」でも「女たらし」でもいいから人間的な魅力があるかどうか?・・・・・・セクシーでない「紳士」や「女たらし」は、そもそも存在する必然性がなかろう。そして、もし人に言われるとしたら、私自身は「デボネア」より「ウーマナイザー」のほうが嬉しい。

 ちなみに、私の知り合いのアメリカ人で典型的ウーマナイザー曰(いわ)く・・・・・・「『ウーマナイザー』とは人生のバライティーだよ、ヨコチン!

横 井 康 和        


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