映画と望み


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「バタフライ・イフェクト」
 アメリカの諺で「Be Careful for What You Wish for」というのがある。その意味は「うっかり望むと実現するから注意しなさい」、つまり結果が必ずしも望んだとおりとは限らないという教訓であり、昔から映画のテーマとしてよくあるパターンだ。たとえば、比較的最近の作品だと「バタフライ・イフェクト(2004年)」やその続編(2006年)などがいい例であろう。

 1作目の場合、主人公のエヴァン・トレボーン(アシュトン・カッチャー)は子供の頃から何かあると記憶が途絶える。それら空白の記憶を思い出すべく日記をつけ始めたトレボーンは、日記を読むことで時空を超えてその瞬間へ戻り、過去を修正できることに気づく。ガールフレンドのカイリー・ミラー(エイミー・スマート)が自殺した直後、自殺へ至る分岐点ともいえる過去を修正した結果、修正後の現在は彼女と2人で仲良く学園生活を送る自分がいた。つまり、トレボーンの望みは実現したわけだ。

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「バタフライ・
イフェクト2」
 しかし、実現したおかげで予期せぬ問題が起こり、状況はもっと悪くなる。そして、それを修正しようとすればするほど、ますます事態が悪化してしまう。とうとう最後は、彼女と出会った時点まで遡(さかのぼ)り、出会いそのものをやめることによって、ようやく2人の人生が正常な方向へ軌道修正されるという筋書(プロット)である。ちなみに、最後の修正は日記でなく8ミリ・フィルムの映像を見ながら行う。

 2作目は、やはり愛する女性を交通事故で失った主人公が、今度は写真を見ながらその時点へ遡(さかのぼ)り、過去を修正した結果、やはり事態が悪化してゆく。ただ、1作目と比べるとインパクトは弱すぎて、しょせん二番煎じの感が強い。興行的には見事にこけた。

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「ファイナル・
デスティネーション」
 過去を修正したいという「望み」が叶うといえば、よく似たテーマで「If」がある。「もしあの時、あれをしなかったら、ああなったかもしれない」というようなパターンだ。現実の世界で過去に「If」は通用しないが、映画の世界ならこれまたよくあり、たとえば「ファイナル・デスティネーション(2000年)」はこのパターンで成功し、2作目(2003年)と3作目(2006年)が製作されている。

 1作目は、パリへ向かうアメリカの高校生たちの1人アレックス・ブローニング(デヴォン・サワ)が離陸寸前に自分たちは墜落する白昼夢を見て騒ぎ出したため、友人のクレア・リヴァース(アリ・ラーター)ら数人と飛行機を下ろされてしまう。ところが、彼の見た夢のとおり飛行機は墜落し、7人だけが助かる。しかし、それも束の間で、7人のうち5人が1人づつ事故死を遂げてゆく。

 結局、7人のうちブローニングとリヴァースを除く5人は、いったん助かったものの「仮の生」でしかなかった。そして、助かったかの2人さえもが2作目「デッドコースター」ではブローニングがすでに死んでおり、リヴァースも作中で死ぬ。その2作目は、主人公の白夢がきっかけで自動車事故死を遂げていたはずの数人がいったん助かり、やはり1人づつ死んでゆくのだ。1作目と同じパターンながら、「バタフライ・・・」の場合と違って2作目も面白い。

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「ファイナル・
デッドコースター」
 3作目は、飛行機や自動車の代わりジェット・コースターの事故がきっかけとなって展開する。基本パターンは1作目、2作目と同じながらそれなりに面白く、1作目の5,330万ドル(約64億円)、2作目の4,646万ドル(約56億円)、3作目の5,410万ドル(約65億円)という興行成績を見れば、それがよくわかるだろう。1作目で5,765万ドル(約69億円)も稼ぎながら、2作目は悲惨だった「バラフライ・・・」とえらい違いだ。

 興行成績がどうかはさておき、「Wish」や「If」をテーマにしているこれらの映画は、登場人物の相性といったことが物語へ大きく係わっている。相性は英語で「Good Chemistry」、「Bad Chemistry」、つまり「良い化学反応」、「悪い科学反応」という。たしかに人間関係は科学反応で、同じ人間でも相手が違う異なる反応を示す。「バタフライ・・・」のトレボーンとミラーは、ある意味で相性がいいともいえるし悪いともいえる複雑な相性だ。だからこそドラマが展開する。

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「ボミーとクライド/
俺たちに明日はない」
 そのもっといい例が「ボミーとクライド/俺たちに明日はない(1967年)」だろう。クライド・バロウ(ウォーレン・ビーティ)とボニー・パーカー(フェイ・ダナウェイ)の史実に基く物語は、往年の映画ファンならお馴染みに違いない。もし恐慌時代にバロウとパーカーが出会わなかったら、あの2人組の銀行強盗は誕生しなかっただろうし、彼らの相性もいいといっていいのか悪いといっていいのか複雑だ。

 余談ながら、今月の「スター・コレクション・ポスター集」でご紹介しているとおり、ビーティが初めてプロデュースも手がけたこの映画は、最優秀作品賞最優秀主演男優賞を含むアカデミー賞の10部門でノミネートされ、'60年代を代表するハリウッド映画の1本として後に大きな影響を与えている。

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「Mr.&Mrs.スミス」
 相性の良し悪しが映画を左右するのは確かだが、その相性は登場人物同士のそればかりと限らず、登場人物を演じる俳優同士の相性でも映画が左右されて当然だ。たとえば、「Mr.&Mrs.スミス(2005年)」は、筋書(プロット)より主演の相性が決め手となる類の典型といえよう。もし別の主演であれば、あの映画はあれだけヒットしたかどうか怪しい。

 じっさい、「Mr.&Mrs.スミス」が話題となったのは映画の内容でなく、私生活でのピットとジョリーのゴシップが中心だった。ばかりか、2人はこの映画の後、現実に結婚している。よほど「Good Chemistry」だったんだろう。ただ、彼らの努力がなくては自ら望んだ結果としての結婚も、ゆくゆく破局を迎える可能性がある。つまり「Be Careful for What You Wish for」ということだ。

横 井 康 和      


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