マイクロソフトへのリベンジ


画像による目次はここをクリックして下さい  ウィンドウズ初期の頃からPCとのおつき合いが始まったユーザーなら、かれこれ20年近くは経っているはずです。そして、たぶんオペレーション・システムがDOSを意味し、ウィンドウズはそこへ乗っかっているソフトという感覚でスタートされたと思います。また、そのうちの多くが入門機はNECの98シリーズだったのでは?

 ちょうど'90年代を迎えようという時期だったと思いますが、まだまだコンピュータの世界はハードが主流であり、他のPCと互換性を持たないNEC独自の98シリーズは、その時代の象徴でもあります。つまり、互換性を持たないことでソフトが独占できた時代である反面、それらのほとんどは他者が開発した既存ソフトの自社バージョンにすぎません。

 実質的なPCの活用方といえば、まだワード・プロセッサと表計算のみが主流のこの時代、ソフト自体もワード・プロセッサといえば英語なら「ワード・パーフェクト」、日本語なら「一太郎」、表計算といえば「ロータス123」が定番の時代であり、その頃から急激な進化を遂げたインターネットの世界でも、最初はブラウザ(閲覧ソフト)といえば「ネットスケープ」を意味していたはずなのですが・・・・・・

 '90年代へ突入するや、こうした当たり前だと思われていた状況は一気に切り崩されてゆくのです。世界と互換性を持たないことで日本のPC市場を席巻していたNECが、遅ればせながら戦略の変更を余儀なくされ、最初は二番煎じと見下していたマイクロソフト社の「オフィス」が、いつの間にやら「ワード・パーフェクト」や「一太郎」や「ロータス123」と入れ替わっており、その後ブラウザも「ネットスケープ」から「インターネット・エクスプローラ」へ完全にシフトします。

 世界の経済市場の中でもマイクロソフト社は巨人と呼ばれるスケールに膨らみ、その巨人を率いるビル・ゲーツが世界の長者番付のトップへ食い込む頃、時代は完全に変わっていました。インターネットの急激な発達で、ヤフーのような新たな形態の事業が登場して脚光を浴びるのと平行して、携帯電話も含めたコンピュータ業界の進化はますます加速度をつけてゆくのです。マイクロソフトやヤフーの台頭が、こうしてハードを制する者からソフトを制する者の時代へ移り変わった変化の象徴でした。

 しかし、もはや時代の流れはソフトを売って儲けるマイクロソフトのやり方さえ過去に追いやりつつあります。たとえば、検索エンジンとして一見ヤフーの二番煎じのようなグーグルですが、根本的な事業形態からしてヤフーの次の時代を行っていたからこそ、あれだけの成功を収めました。インターネットの検索サービスやGメールをはじめ、Google EarthGoogleマップ、そしてそれらをフィーチャーしたグーグル・フォンなど、武器はマイクロソフトと同じくソフトでありながら、すべてが無料です。この最初からソフトを売る代わり無料で提供するという発想は、グーグルと限らず今やインターネットなら当たり前とさえ言えるでしょう。

 先日のビル・ゲイツの引退も、もはや自分の時代が終わったと判断してではないかと勘ぐれなくありません。「ワード・パーフェクト」や「ロータス123」をはじめとするメジャー・ソフトが売物の多くの企業を泣かせながら急成長を遂げた裏で、自社と類似ソフトの開発者から著作権の侵害で訴えられた多くの訴訟を戦い抜くいっぽう、自社ソフトの非合法なコピーを防ぐ対策へ膨大な企業エネルギーを費やしてきたゲイツです。すべては自社ソフトを開発して売るところから始まっている以上、自分の時代が完結したら次の時代へ挑戦するか身を引くしかありません。

 そういう時代の流れの中で、ウィンドウズと並ぶマイクロソフトの武器であるオフィスと互換性を持つ無料ソフトの登場は、やはり興味を引かれます。もともとOS(オペレーション・システム)がウィンドウズでオフィスとの互換性へ焦点を合わせて開発されたサード・パーティーによる無料ソフトとして、去年の12月からインターネットで最新バージョンの配布を始めたばかりの「オープン・オフィス2.3」は画期的な存在でした。

 マイクロソフトと因縁の深いサン・マイクロシステムズ社のJavaを応用したシステムが、じっさいどの程度までマイクロソフトのオフィスと互換性を持ち、どの程度までの完成度と実用性を持つのか、さっそく日本語版をダウンロードしてみると、結果は予想を遥かに上回り、今回のコラムで取り上げたわけですが、詳しい内容へ触れる前に、まず「オープン・オフィス2.3」の入手先からご紹介しておきます。内容はとりあえずご自分で使ってみて判断しないと気が済まないかたは、入手されたソフトのインストールが完了すれば、それ以降は無視して下さって結構です。

 「オープン・オフィス2.3」をインストールするため、プログラム本体と日本語ランゲージパックの2つの自己解凍ファイルが必要であり、それらは「オープン・オフィス日本語サイト」のダウンロード・ページから入手します。ウィンドウズ版の場合、プログラム本体のインストール・ファイルが「OOo_2.3.1_Win32Intel_install_wJRE_ja.exe」、日本語ランゲージパックのインストール・ファイルが「OOo_2.3.1_Win32Intel_langpack_ja.exe」ですから、その両方をダウンロードし、ダウンロードを終えたそれらの自己解凍ファイルはクリックすると自動的にインストールが始まりますので、後は指示に従ってインストールを完了して下さい(いちいち他のページを開くのが面倒なかたは、2つのファイル名の部分をクリックしていただいてもそれぞれのファイルがダウンロードできます)。

 こうしてインストールを完了した「オープン・オフィス2.3」は、ワード・プロセッサ、表計算ソフト、プレゼンテーション・ソフトをはじめとする様々なプログラムから構成されている点で他のオフィス・スイートと変わりませんが、主なプログラムのファイル形式はマイクロソフトのオフィスと互換性を持たせた(つまりマイクロソフトのファイル形式を流用して開発した)ところがユニークなのは前述のとおりです。「オープン・オフィス2.3」に含まれるそれら6つのグログラムを、ここでざっとご紹介しておくと・・・・・・

画像による目次はここをクリックして下さい 「Base」: バージョン2から新たに「オープン・オフィス」へ加わったデータベースのソフトです。ただし、同じ「オープン・オフィス」でも最初からマイクロソフトのオフィスと互換性を持つ他のソフトと違い、「アクセス」のファイルをこのソフトで扱うには、まず元のファイル形式から変換する必要があります。データベースの性格上、そうなったのはしかたがないのかもしれません。

画像による目次はここをクリックして下さい 「Calc」: マイクロソフトの「エクセル」と同じファイル形式の表計算ソフトで、「エクセル」の基本的な機能はほとんど備えています。たとえば表の背景へ画像を挿入するといった一部の機能が欠けているとはいえ、それらの画像の入ったファイルを開くと画像が表示されないだけで表計算機能に影響はありません。ヴィスタと平行してまったく新しくなったオフィス2007が、新しいゆえ、その前のオフィス2003と多くの機能面であえて互換性を失くしたことと比べ、これらは取るに足らない些細な問題点です。わざわざ「エクセル」を購入するぐらいなら「Calc」でじゅうぶんだし、エクセル形式のファイルを送った取引先がソフトを持っていなくてそれを開けないような場合、「Calc」をダウンロードするよう薦めて解決できるのも無料ソフトならではといえます。

画像による目次はここをクリックして下さい 「Draw」: この画像処理ソフトは、先の「Base」以上にマイクロソフトのオフィスと関係ありません。もともとマイクロソフトのオフィスが諦めた画像処理の分野へ、オフィス・スイートとして「オープン・オフィス」なりに挑んだ結果、じっさいこのソフトを使ってみると努力の跡はじゅうぶん認められます。画像処理を得意とされるPCユーザーなら、この「Draw」や、手軽に3Dモデルが作成、編集できる無料ソフト「Google SketchUp」などは、とにかく試してみるだけの価値があるでしょう。

画像による目次はここをクリックして下さい 「Impress」: プレゼンテーションのツールとして、今やマイクロソフトの「パワーポイント」はしっかり定着した感があります。それと互換性を持つところから開発された「Impress」は、機能面でほとんど変わりません。ばかりか、プレゼンテーションで欠かせない2Dや3Dの画像処理を考慮した結果、「オープン・オフィス」を構成するプログラムの一つとして加えられたのが先の「Draw」というわけです。

画像による目次はここをクリックして下さい 「Math」: やはり「オープン・オフィス」独自の発想から生まれた「Math」は、テキスト・ファイルで使う数式を編集するためのソフトですが、それ以外のファイルで使ったり、独立したソフトとしても活用できます。「Writer」、「Calc」、「Impress」など「オープン・オフィス」のグログラム内では「オブジェクト」として扱われ、実際の機能がどのようなものか理解するには、とりあえずご自分で使ってみて下さい。

画像による目次はここをクリックして下さい 「Writer」: 最後が、「Calc」および「Impress」同様、マイクロソフトのオフィスと互換性を持つワード・プロセッサです。扱うファイル形式や基本的な機能はマイクロソフトの「ワード」とまったく変わりません。「Calc」の説明でも触れたとおり、細かい部分でどこまで互換性があるのか追求すれば、もちろん様々な違いはあります。しかし、同じ「ワード」ですら2007が持つ新機能は2003と互換性を持たないものが少なくない上、そういった互換性で問題のある機能のほとんどは一般レベルのユーザーと無縁です。実用性から言って、ワード形式の文書を送った取引先がマイクロソフトの「ワード」をインストールしていないため文書を開けなかったような場合、問題は「Writer」をインストールすることで完全に解決できます。

 以上6つのうち、マイクロソフトのオフィスと互換性を持つ「Calc」、「Impress」、「Writer」によって、これから「エクセル」、「パワーポイント」、「ワード」を購入する必要性はほぼなくなりました。そういった意味で「オープン・オフィス」の登場が時代の分岐点を象徴しているのかもしれません。これまではヤフーと対抗してMSNを展開してきたマイクロソフトが、今やヤフーを買収しようという状況へ至った裏には、グーグルなどで代表される新しい世代の時代へ入り、取り残されまいと焦る彼らの姿がくっきり浮かびます。と同時に感じるのは、いよいよ始まったマイクロソフトへのリベンジ・・・・・・


お断り 

これらのテクニックを試される場合は、みなさん個人の責任でお願いします。何かの手違いからWindowsが動かなくなったとしても責任は取りかねます。また、読者からのご質問、ご相談へは、当「ハリウッド最前線・サイバークラブ」の会員の皆様を除いてお応えいたしかねますので、それらの点をご了承ください。

横井康和        


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