映画と金髪(ブロンド)


 「紳士は金髪がお好き(1953年)」の主演マリリン・モンローはプラチナ・ブロンドを代表する女優の1人だが、彼女の場合、じっさいに自然の金髪(ブロンド)ではない。黒髪以外、しょせん偽物(フェイク)のイメージが付きまとう東洋系の女優と違って、欧米の白人系女優は髪の色を変えることで随分イメージが違う。そのぶん東洋系の女優よりは得だ。それも、モンローのような髪の色を薄く染めるケースばかりでなく、もともと自然の金髪(ブロンド)を濃く染めているケースが意外と多いのである。

 そこで今回のテーマは自然の金髪(ブロンド)女優だ。たとえば、役の上で金髪(ブロンド)から濃い茶髪まで様々な髪の色で銀幕(スクリーン)へ登場し、「ソルト」など1作の中で金髪(ブロンド)と黒髪(ブルーネット)に染め分けているアンジェリーナ・ジョリーが、生まれつき何色の髪なのか?・・・・・・そう、生まれた時は濃いめの金髪(ブロンド)だった。それが4歳か5歳の時、母親に今の濃い茶色へ染められて以来、そちらのほうに馴染んでしまったという稀な例だ。つまり、もともと自分の意志で髪を染めたわけではない。

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アンジェリーナ・ジョリー
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ウィノナ・ライダー

 そのジョリーが珍しく金髪(ブロンド)で登場している「17歳のカルテ(1999年)」で彼女と共演したウィノナ・ライダーは、やはり濃い色の髪のイメージが強いと思う。しかし、彼女もまた生まれつきは金髪(ブロンド)だ。本格的なデビュー作となった「ルーカス(1986年)」で濃く染めた髪のイメージが定着し、以来、染めっ放しなのである。例外といえば、アル・パチーノとの共演作「シモーヌ(2002年)」やアダム・サンドラーとの共演作「Mr.ディーズ(2002年)」の頃であろう。

 金髪(ブロンド)は確かにもてるかもしれないが、いっぽうで軽薄な女というイメージも固定化されているのは確かだ。もちろん、バストの大きさと知能指数が反比例するという俗説同様、いっさい根拠はない。しかし、生まれつ金髪(ブロンド)の女優が髪を濃く染める動機は、ひょっとしたらそのあたりが関係している可能性もある。ただ、この髪の色と女性の性格だけは、黒髪ワンパターンの東洋人へ理解しがたい部分かもしれない。セクシーかつ軽薄な金髪(ブロンド)、理知的な黒髪(ブルーネット)、気の強い赤毛など、いわゆるステレオ・タイプ的な分類からすれば、まったく不自然な茶髪族が増えた今の日本は、ひたすら軽薄化を追求しつつあるようだ。

 時代劇の鬘(かつら)にまで及ぶ日本の茶髪ブームが何を意味するかはさておき、生まれつき金髪(ブロンド)のエイミー・アダムスが初めて赤毛に染めた時、彼女は「これぞ、あるべき姿」だと思ったらしい。それまで囲りから気が強いと指摘され、その自覚もあった。したがって、赤毛のイメージは気が強い性格とぴったり合い、以来、ステレオ・タイプ的な振る舞いを自ら心がけてきたという。そのせいか、本当は金髪(ブロンド)だといわれてもピンとこない。本人だって、「私はひどい(Terrible)金髪(ブロンド)だったわ」と告白しているぐらいだ。ただ、金髪(ブロンド)が「ひどい(Terrible)」とは、いったいどんな意味なのだろうか?

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エイミー・アダムス
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エマ・ストーン

 現在、全米で「ヘルプ(2011年)」がヒットしているエマ・ストーンは、アダムス同様、赤毛のイメージが定着しつつある。そのストーンもまた本来は金髪(ブロンド)なのだ。彼女がチアリーダー役のオーディションを受けるため髪を濃く染める決心をし、オーディションの1週間後、初めて役にありついた時、なんと人の心は狭いと感じたらしい。髪の色が違うだけで、そこまで変わるのだから。ともあれ、「スーパーバッド 童貞ウォーズ(2007年)」から最近の「ラブ・アゲイン(2011年)」や「ヘルプ」までずっと赤毛を通してきた彼女も、「アメイジング・スパイダーマン(2012年)」ではグウェン・ステイシー役を演じるため本来の金髪(ブロンド)へ戻している。

 ただストーンの場合、赤毛に対するこだわりが強いようで、「スパイダーマン」さえ撮り終えれば再び染めるそうだ。彼女の話では、先日も帰宅するとボーイフレンドのマックスが来ており、金髪(ブロンド)の彼女を見て言ったそうだ、「きみは赤毛のほうが、よほど愉快(funny)だぜ」と。こうした状況は彼女たちが本来の金髪(ブロンド)であっても染めていても、またその逆のモンローも、髪の色はどちらであろうと生物学的見地から自然だということが原点なのを忘れてはならない。

 ここで改めて忠告しておく。東洋の女性が茶髪にすれば、一歩海外へ出れば可愛い可愛くないの以前の問題で、軽薄にしか見られない覚悟は必要だ。その下品な印象なら、イーストL・A(東ロサンゼルス)あたりでよく見かける、いかにも染めた感じの金髪(ブロンド)のメキシコ女と変わらない。私が不思議なのは、まだ十代の頃、一般ピープルは黒髪オンリーの日本で、つき合った彼女が茶髪のファッション・モデルだった。茶髪といえば、「ねえ、あの人、素人じゃないわよ」と、囲りから後ろ指をさされた時代である。そして、25歳でアメリカへ引っ越す時(1976年)ですら、この状況はほとんど変わっていなかったのだ。

 で、何が不思議かというと、アメリカへ引っ越してしばらく経った頃、茶髪を素人じゃないと見下していたはずの日本の一般ピープルが、いきなり茶髪になってしまう。もはや茶髪は当たり前で、それが恰好良くないと言う私は、むしろ恰好悪い。敗戦で国民の意識が180度変わったのと同じ極端さへ、当時の私は背筋が冷たくなったのを憶えている。まるで、かつて茶髪を見て、「ねえ、あの人、素人じゃないわよ」と後ろ指をさした一般ピープルの小母さんたちも、本音は自分が染めたかったのではないかという疑問さえ浮かぶ。集団社会(グループ・ダイナミックス)の怖さが浮かぶ。

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オリヴィア・ワイルド
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エヴァ・グリーン

 再び話が逸(そ)れそうになったところで、ハリウッドへ話題を戻そう。「トロン:レガシー(2010年)」や「カウボーイ&エイリアン(2011年)」などで最近注目されているオリヴィア・ワイルドは、典型的なステレオ・タイプの金髪(ブロンド)が嫌で髪を濃く染めた。本来は金髪(ブロンド)でありながら黒髪(ブルーネット)のほうが自然に感じられたというあたり、生まれつきの金髪(ブロンド)より赤毛を選んだ先のアダムスやストーンとよく似ている。写真を見比べてみても、金髪(ブロンド)のワイルドはハリウッドならごくありきたりの印象なのが、濃いめの茶髪だと目を引く。ワイルド自身、染めてから人々の態度は変わったと言う。染める前だと、金髪(ブロンド)でありながら馬鹿じゃないのが不思議で、「なんだ、きみはスマートなんだ!」と褒められるのが普通だったらしい。

 「カジノ・ロワイヤル(2006年)」でヴェスパー・リンド役を演じたエヴァ・グリーンは、やはり小さい頃から生まれつきの金髪(ブロンド)を染め始めた1人だ。14歳の時、青く染めたのが最初で、間もなく黒髪(ブルーネット)にした。それらの色は彼女の肌の色合いへよりマッチし、以来、役の上で染める必要がない限り黒髪(ブルーネット)で通している・・・・・・以上、取り上げてきた人気女優6人はむしろマイノリティーで、生まれつきの金髪(ブロンド)をそのまま武器として使っている女優のほうがハリウッドでは多いと思う。

 こうした様々な人種が渦巻くハリウッドで東洋人の女優が勝負をしようと思えば、それこそ黒髪命だ。いや、女優と限らず、私のようなミュージシャンとしてアメリカへ移住した男性だって、金髪(ブロンド)のグルーピーから右手を黒髪へ差し伸べ、「なんと美しい髪の毛なの!」と艶っぽい目で囁かれれば、ぜったい染めるもんかと決意するはずだ。それから35年を経て私の髪は白髪へ近づきつつある現在、日本の若い茶髪族同様、気になるのが黒髪の政治家軍団である。なぜか、みんな染めた黒髪ばかりで、自然のままの恰好いい白髪の政治家は少ない。今後の日本がどうなるのか、アメリカから見ていると時々不安になるのは私だけであろうか?

横 井 康 和      


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