映画とドリンク


 昔から映画の中では、様々なお酒が登場する。そこで今回のテーマは「映画とドリンク」、そのベスト10とレシピをご紹介しよう。

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「カジノ・ロワイヤル」
1位:ヴェスパー
ロンドン・ドライ・ジン60ml
ウォッカ20ml
リレ・アペリティフ・ブラン10ml
氷と一緒に冷たくなるまでシェイクし、深いシャンパン・ゴブレットに入れてレモンの皮を薄くスライスしたものを添える。深いシャンパン・ゴブレットを使う理由は、小説の中でボンドが言う、「私は食事の前に1杯以上飲んだことがない。しかし、その1杯は大きくて、とても強くて、とても冷たくて、とてもよく出来てないと駄目だ」
 まず第1位は、「007/カジノ・ロワイヤル(2006年)」で登場するカクテル「ヴェスパー」だ。ジェームズ・ボンドといえば、「混ぜないでシェイクしてくれ(shaken, not stirred)」という有名な台詞(せりふ)で知られるウォッカを使ったマティーニがトレードマークであり、それに比べてヴェスパーはあまり知られていない。原作(1953年)の著者であるイアン・フレミングが発明(もしくは命名)したこのレシピは、「カジノ・ロワイヤル」の劇中、主演のダニエル・クレイグが、「ゴードン3に対してウォッカを1、リレ1/2を氷と一緒にシェイクし、薄くスライスしたレモンの皮を入れてくれ」と、しっかり紹介している。

 もともとは二重スパイのヴェスパー・リンドからの命名で、彼女がボンドへ「(私の名前を付けた理由は)後味の苦さかしら?」と聞いた時、「いいや、いったん味を知ると、それしか飲みたくなくなるからさ」と、答えていた。

 なお、フレミングの時代のゴードン・ジンは94プルーフ(47度)あったのが、今では80プルーフ(40度)まで下がっている。したがって、94プルーフのタンカレー・ジンか個人的な好みでいうとボンベイ・サファイア(アメリカだと94プルーフがイギリスでは80プルーフ)あたりを使ったほうが、オリジナルと近いかもしれない。同じく、ウォッカはボンドの推薦しているストリチナヤのような100プルーフ(50度)の物がいいだろう。ただ、このカクテルへ独特のフレーバーを与えるフランスのアペリティフ・ワイン「キナ・リレット」は、もはやそのオリジナルのブレンドが手に入らず、一番近いのはリレ・アペリティフ・ブランだ。

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「ビッグ・リボウスキ」
2位:ホワイト・ルシアン
ウォッカ40ml
カルーア・リキュール20ml
生クリーム20ml
個人の好みにより、どんなミルクあるいはクリームを使っても良く、コーヒー用の粉ミルクですら構わない。氷を入れたオールドファッション・グラスでサーブする。
 続いて第2位が、鬼才コーエン兄弟の放つ奇妙で可笑しい人間ドラマ「ビッグ・リボウスキ(1998年)」に登場する「ホワイト・ルシアン」である。去年、ニューヨーク・タイムズ紙はこのドリンクの復活を特集し、再び映画とドリンクが注目された。ジェフ・ブリッジズ、ジョン・グッドマン、スティーヴ・ブシェーミ主演の映画の内容は、同姓同名の人物と間違われた男が巻き込まれる事件の顛末を、多彩なキャラクターを交えながらユーモラスに描く。

 無職で気ままな生活を送る「デュード」ことジャフ・リボウスキ(ブリッジズ)、彼の家へ突然2人のチンピラがやって来る。女房の借金を返せと怒鳴るチンピラへ、まったく身に覚えがなく呆然とするリボウスキ。その後、彼は同姓同名の大金持ちと間違えられたと気づくが・・・・・・コーエン兄弟得意の不条理な可笑しさに満ちた傑作だ。

 ホワイト・ルシアン(別名「白色人種」を意味する「コーカソイズ」)は、このデュードが劇中を通じて飲み続け、観客へもそうしたくなるよう思わせる。映画と係わるカクテルの知名度では、ボンドのマティーニと並ぶ。ロシア内戦時の反ボルシェビキ派が名前の由来で、オックスフォード英英辞書によるとドリンクとしてのホワイト・ルシアンを初めて紹介したのはカリフォルニア州オークランドの1965年の新聞だという。'70年代後半、そこそこ流行やり、筆者もよく飲んだのを憶えている。その後、デュードが銀幕(シルバー・スクリーン)で飲むまでは下火であったらしい。

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「ラスベガスをやっつけろ」
3位:シンガポール・スリング
ビーフィーター・ドライ・ジン30ml
チェリー・ヒーリング15ml
コアントロー7.5ml
ベネディクティン7.5ml
グレナデン・シロップ10ml
ライム・ジュース15ml
パイナップル・ジュース120ml
アンゴスチュラ・ビター1ダッシュ
氷を入れたハイボール・グラスでサーブする。飲む時、メスカル、長いシガレット・ホルダー、原題である「真の恐怖と嫌悪感」を体験するためのドラッグの詰まったブリーフ・ケースがあれば、なお結構。マラスキーノ・チェリー、パイナップルの塊、オレンジのスライスを添える。
 第3位が「ラスベガスをやっつけろ(1998年)」の「シンガポール・スリング」、冒頭のフラッシュバックのシーンで主人公のスポーツ記者ラウル・デューク(ジョニー・デップ)はラスベガスへ発つ経緯(いきさつ)を、「ビバリーヒルズ・ホテルのポロ・ラウンジにすわり     もちろんパティオのほうさ     マスカルのサイドでシンガポール・スリングを飲み・・・・・・」と語る。

 そのシンガポール・スリングが生まれたのは、名前のごとくシンガポールのラッフルズ・ホテルで、1910年頃のことだった。このオリジナルのレシピがいったんなくなったため、何年も経って復活させる時は昔の従業員へインタビューしたり、メモを頼りに最善を尽くしたそうだ。右のレシピは現在ラッフルズ・ホテルで使っているものだが、他のいろいろなレシピを調べてみるとコアントローやベネディクティンを使わない場合も少なくない。

 映画の内容は、先のデュークとサモア人で弁護士のドクター・ゴンゾー(ベニチオ・デル・トロ)がバイクレース取材のため、ブリーフ・ケースへ「治療薬」と称したあらゆるドラッグを詰め込み、一路ラスベガスへ向かう。超一流ホテルのスウィート・ルームに到着した彼らは、取材そっちのけで、さっそくドラッグ三昧、ホテルを荒らしまくって、やりたい放題・・・・・・「Dr.パルナサスの鏡(2009年)」のテリー・ギリアム監督が、映像化不可能といわれたハンター・S・トンプソンの同名原作を映画化した作品だ。

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「カサブランカ」
4位:フレンチ75
ロンドン・ドライ・ジン45ml
絞りたてのレモン・ジュース20ml
冷えたシャンパン100ml
極上の砂糖1tsp
レモン・ジュース10ml
シャンパン以外を冷えたシェイカーで氷と一緒にシェイクし、半分ぐらい氷を入れたコリンズ・グラスへ注ぎ、上からシャンパンを加える。
 第4位は、「カサブランカ(1942年)」に登場する「フレンチ75」で、もともと第1次世界大戦下のパリのアンリ・バーで戦争の勝利を祈って誕生したカクテルである。フランス軍の75ミリ口径の大砲M1897が名前の由来であり、この後、95ミリ、125ミリとカクテルのバリエーションも増えた。また一説では、第1次世界大戦のフライング・エースであるフランス系米国人ラウル・ラフベリーが、ふつうのシャンパンでは物足らなくてこれを発明したとも言われている。

 戦火近づく'40年の仏領モロッコ、カサブランカが舞台となった映画そのものは、言うまでもなくハンフリー・ボガートの代表作で、彼の有名な台詞(せりふ)、「もう一度弾いてくれ、サム(Play it again, Sam)」は映画ファンならずともお馴染みだろう。

 自由を求めて渡米しようとする人々で溢れるカサブランカ、そこでナイトクラブを経営するリック(ボガート)の元へ、ナチスの手を逃れた抵抗運動の指導者が現われる。そして、その人物の妻は、かつてパリでリックと恋に落ちたイルザ(イングリッド・バーグマン)・・・・・・1943年度アカデミーの作品賞、監督賞(マイケル・カーティス)、脚色賞(ジュリアス・J・エプスタイン、フィリップ・G・エプスタイン、ハワード・コッチの3人)を受賞した。

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「虚栄のかがり火」
5位:サイドカー
クルヴォワジエVSOP30ml
トリプルセク・キュラソー15ml
レモン・ジュース15ml
レモン・スライス
グラニュー糖適量
もっと安いブランデーを使っても良い。ただし、「虚栄のかがり火」で出てくる本当のサイドカーではなくなる。カクテル・グラスのふちを湿らせて砂糖の上に置く。最初の3つの材料を氷とともにシェイカーへ入れてシェイクし、マティーニ・グラスに注いでレモンを添える。
 次の第5位が、アメリカでベストセラーとなったトム・ウルフの原作を映画化したブライアン・デ・パルマ監督作「虚栄のかがり火(1990年)」、主人公の1人マリア・ラスキン(メラニー・グリフィス)の良人アーサー・ラスキン(アラン・キング)の愛するクルヴォワジエVSOPで作った「サイドカー」だ。アーサーは医者から禁酒を言い渡されているものの、新聞記者ピーター・ファロー(ブルース・ウィリス)と会った時、妻がイタリアへ行っているのをいいことにサイドカーを注文する。

 もう少し順序立てて説明すると、ウォール街のエリート、シャーマン・マッコイ(トム・ハンクス)はある日、不倫相手とブロンクスをドライブ中、車で黒人を跳ねてしまう。ひょんなことからこの轢き逃げのネタを仕入れたファローは偶然マッコイと知り合いになり、記事を書き始める。そして、やがて彼の記事がマッコイを追い詰めてゆく・・・・・・という物語(ストーリー)の途中で、ファローはアーサーと会い、そこでサイドカーが登場するわけだ。

 このサイドカー、正確な由来はわかっておらず、諸説がある中でもっとも有力なのが、第1次世界大戦中ロンドンかパリで米陸軍大尉によって発明されたという。その大尉は酒を飲む時、サイドカー付のオートバイでブリストルへ通ったらしい。また、サイドカーの衝突事故などの際、運転者に自己防衛の本能が働いてしまうため、サイドカーを障害物へぶつけて運転者自身を保護する結果となりやすく、多くの場合は同乗者が亡くなるようだ。そこで、本カクテルの飲み心地の良さ(酒に弱い女性でも飲みやすく、結果として酔いつぶれてしまいやすい)とサイドカーの同乗者(女性)をかけあわせた、一種の洒落だとも言われている。

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「イッツ・ア・マッド・マッド・
マッド・マッド・ワールド」
6位:オールド・ファッションド
バーボン・ウイスキー45ml
ビターズ2ダッシュ
水1スプラッシュ
砂糖1tsp
チェリー1個
オレンジ1切
ショート・ラウンド・タンブラー・グラスに氷を入れた上からウイスキーを注ぎ、そこへチェリーとオレンジを飾る。
 第6位は「イッツ・ア・マッド・マッド・マッド・マッド・ワールド(1963年)」で、テイラー・フィッツジェラルド(ジム・バッカス)がベンジー・ベンジャミン(バディー・ハケット)およびディング・ベル(ミッキー・ルーニー)と目的地への機上で飲む「オールド・ファッションド」だ。ファースト・クラスで飲むには、ちょうどいい。

 カクテルと呼ばれる最初のドリンクの1つで、ウィンストン・チャーチルの母親の創作という説と、1800年代、ケンタッキー・ダービーが行われるチャーチル・ダウンズ競馬場のバーテンダーが作ったという説とがある。このカクテルやミント・ジュレップで使うオールド・ファッションド・グラスは、毎年ケンタッキーダービーが行われる際、観客に配られ、それを集めているコレクターもいるようだ。

 映画のほうは、年老いた泥棒が彼の盗んだ秘密の財宝を隠したと言い残して死んだため、馬鹿と狂人の一団はそれを探し求めて大騒動というドタバタ喜劇である。

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「七年目の浮気」
7位:ウイスキー・サワー
バーボン・ウイスキー40ml
絞りたてのレモン・ジュース20ml
砂糖1tsp
オレンジ・スライス
マラスキーノ・チェリー
氷と一緒にシェイクし、氷を入れたオールドファッションド・グラスへ注ぐ。チェリーとオレンジのスライスを添える。
 続いて第7位が、地下鉄の通風孔の上でスカートを押さえるマリリン・モンローのポーズで有名な「七年目の浮気(1955年)」に登場する「ウイスキー・サワー」だ。リチャード・シャーマン(トム・イーウェル)は妻の留守中、彼の秘書へ、「自分の朝食ぐらい、自分で作れるさ。じっさいのところ、ピーナッツ・バター・サンドイッチ1切とウイスキー・サワー2杯を飲んできたよ」と涼しい顔で言う。

 初めてウィスキー・サワーが紹介されたのは、1870年のウィスコンシン州の新聞紙上であった。この説の他、イギリス人のスチュワードが同じ頃、ペルーでバーを開店し、近くに捨ててあったライムから触発されて発明したとも言う。

 いっぽう映画の内容は、雑誌社に勤めるリチャードの妻子がバケーションで家を空けることになり、折り良く同じアパートの階上へ素敵な美人がやってくる。仕事柄、空想癖のある彼は、さっそく彼女との浮気を考え始め・・・・・・恐妻家の中年男が、結婚7年目の浮気心を抱いたことから巻き起こる騒動を描いたコメディーだ。

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「カクテル」
8位:レッド・アイ
ウォッカ20ml
トマト・ジュース120ml
ビール1缶
生卵1個
冷えたトール・マグにウォッカとトマト・ジュースを注ぐ。そこへ更にビールを注ぎ、卵を割る。混ぜないで飲む。
 第8位はトム・クルーズ主演作「カクテル(1988年)」で、二日酔いの主人公ブライアン・フラナガン(クルーズ)が飲むカクテル「レッド・アイ」である。フラナガンは軍隊を除隊し、エリート・ビジネスマンになろうとニューヨークへ降り立つ。しかし、学歴のない彼を雇う企業などどこを探してもなく、通りすがりにバーの求人広告をみつけてアルバイトをしながら大学へ通うと決意する・・・・・・一獲千金を夢見るバーテンダーが、真実の愛に目覚めるまでを描いた青春映画だ。

 求人広告へ応募しようとバーの中へ入ったフラナガンは、そこでレッド・アイをミックスしているベテラン・バーテンダーのダグ・コフリン(ブライアン・ブラウン)と出会う。後日、コフリンが二日酔いのフラナガンにレッド・アイのレシピを教え、それまでは同じ名前の違うカクテルもいろいろあったのが、この映画以来、右のようなレシピで定着した感がある。ただし、簡略化してビールとトマト・ジュースだけをミックスした「レッド・アイ」もポピュラーだ。二日酔いへは言うまでもなく生卵の入ったバージョンのほうが効く(喉を通る生卵の食感さえ平気なら)。

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「底抜け大学教授」
9位:アラスカン・ポーラー・ベア・ヒーター
ウォッカ2ショット
ラム少々
ビターズ適量
酢をわずか
ベルモット1ショット
ジン1ショット
ブランデー少々
レモンの皮
オレンジの皮
チェリー
更にスコッチ
良く混ぜて、トール・グラスに氷を入れた上から注ぐ。
 そろそろ大詰で第9位が「底抜け大学教授(1962年)」の「アラスカン・ポーラー・ベア・ヒーター」、主人公の大学教授ジュリアス・ケルプ(ジェリー・ルイス)は薬を飲んでバディー・ラブへ変身すると、バーでこのカクテルを飲む。

 頭が良くてもいっこうに冴えないケルプは、ある日カッコイイ男性へと変身する薬を作り出してしまう。さっそく、その薬を飲んで夜の町へと繰り出すのだが・・・・・・言うまでもなく「ジキルとハイド」をモチーフにした、ルイス単独主演の底抜けシリーズの一編であり、その後エディ・マーフィー主演で「ナッティ・プロフェッサー/クランプ教授の場合(1996年)」としてリメイクされた。

 で、オリジナルに話を戻し、ラブへ変身したケルプ教授はバーでアラスカン・ポーラー・ベア・ヒーターを注文するのだが、バーテンダーはそんなカクテルを聞いたこともない。そこで、ラブがレシピを説明するとバーテンダーは、「あんた、それをここで飲むのかい? それとも、家へ持って帰って胸に塗りたくるのかい?」と聞く。こうして、もともと映画の中でジョークだったのが、その後、現実のドリンク文化へ定着する。飲んでみると、怪しげな成分や、やや苦みのある味のわりに悪くない。もっとも期待はし過ぎないよう!

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「恋はデジャ・ブ」
10位:スウィート・ベルモット・
オン・ザ・ロック・ウィズ・ツイスト
スウィート・ベルモット
レモン1切
オールドファッション・カクテル。グラスみ氷を満たす。ベルモットを注ぎ、絞ったレモンとかき混ぜる。レモンを添えてサーブする
 さて、いよいよ最後の第10位である。TVキャスターのフィル(ビル・マーレイ)がある日、同じ毎日を繰り返し体験していることに気づいた。彼は過去の経験を活かし、愛する女性リタ(アンディ・マクダウェル)へ告白しようとするのだが・・・・・・アメリカの人気TV番組「サタデーナイト・ライブ」のメンバーによるコメディー「恋はデジャ・ブ(1993年)」で登場する「スウィート・ベルモット・オン・ザ・ロック・ウィズ・ツイスト」が今回のトリだ。

 同じ毎日を繰り返し体験していると気づいたフィルは、リタをバーへ誘う。最初、彼がジム・ビームのオン・ザ・ロックを、彼女がスウィート・ベルモット・オン・ザ・ロック・ウィズ・ツイストを注文する。そして彼女は、このカクテルがローマを思い起こさせると話し出す。他の9種類同様、このカクテルも映画の展開と切り離せない。

 以上、さまざまなカクテルとの関連で映画を語っているうち、もう一つ気づいたのは、映画とシャンパンの流れだ。余談になるが、昔からハリウッド映画へはスパークリング・ワインを含めたシャンパンが頻繁に登場する。イタリアのプロセッコやスペインのカヴァその他スパークリング・ワインはさておき、フランスのシャンパン地方で生まれるシャンパンの代表選手といえば、私が中学生であった頃のハリウッド映画では間違いなくマムのコルドン・ルージュであった。

 当時、まだシャンパンなぞ縁のなかった私が、数多くのハリウッド映画を見るうち、白地へ斜めに赤い線の入ったラベルはいつしか憧れとなっていたのである。そして、当時愛読していたジェームズ・ボンドシリーズが映画化され、大ヒットするや、映画の世界では2つの変化が現われたのだ。1つはそれまでハンフリー・ボガートを除き、悪役しか使うことを許されなかった自動拳銃が、正義の味方へも許されるようになり、もう1つはそれまでのコルドン・ルージュがドン・ペリニョンへと変わってゆく。

 これらシャンパンの2銘柄は、あくまでも時代の象徴といえる。しかし、それらの存在感が他を圧倒しているのは確かだ。そして、その反映なのか、コルドン・ルージュを作っているマム社もドン・ペリニョンを作っているモエ・シャンドン社も、今やフランスのシャンパン地方からハリウッドと比較的近いナパ・バレーへ地盤を拡張しているのは、なかなか興味深い!

横 井 康 和      


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