肉を食べるなら・・・


 1996年3月以来、15年間連載してきた「コンピュータ・ライフ」に代わり、今年からは「Eat in Style」と題したレストラン・ガイドをお届けします。いくつかの理由がある中で、もっとも顕著なのはコンピュータと生活との係わり合いが目まぐるしく変化を遂げ、たとえば新しい裏技を紹介してもすぐ古くなってしまうため、映画情報サイトの一環として相応しいテーマではなくなってしまったことが一つ。

 もう一つの大きな理由は、私自身が「Facebook」を使ううち、いつしかテーマは「食」へ偏ってしまったこと・・・・・・そもそも食べるのが好きな私は、音楽や映画、そして現地(ロサンゼルス)の情報に加えて料理、ワイン、レストラン情報なども紹介してきました。当然ながら、FB友達(フェイスブック友達)の反応がそれらの比重を大きく左右します。結果、いつしかテーマのほとんどは「食」関連で占められており、それならいっそ「ハリウッド最前線」でもと思い立ったわけです。じっさい、「ロサンゼルス・マガジン」のテーマとして、レストラン・ガイドのほうがコンピュータ情報より相応しいかもしれません。

 そこで、連載第1回目はハリウッドというかアメリカ料理の原点ともいえる肉、ハイエンドのステーキからローエンドのハンバーガーまで多々あるうち、まずハイエンドからご紹介してみましょう(便宜上、料理の写真へ番号を付けてありますが、これらの番号は店と無関係です)。

Ruth's Chris Steak House
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■Ruth's Chris Steak House

www.ruthschris.com/Steak-House/3504/Beverly-Hills
224 S. Beverly Dr., Beverly Hills
310-859-8744

 ビバリーヒルズのど真ん中にあるステーキ・ハウスの老舗で、上品かつ、これでもかというボリュームが圧巻です。今では全米で展開するこのレストラン、ニューオリンズのブロード通りで店開きをしたのが、ちょうど日本で今ヒット中の「ALWAYS 三丁目の夕日'64」の背景となった東京オリンピックの翌年です。そして、1軒の店から現在のような世界最大の高級レストラン・チェーンへ至るまでには長い道のりがありました。

 良人と離婚し、2人の子供を抱えるラス・アン・アドスタッド・ファーテルは、1965年、新聞広告へ売りに出ていたレストラン物件を見つけます。自宅を抵当に入れて彼女が購入したレストランは「Chris's Steakhouse(クリスのステーキハウス)」という名前でした。1976年、店が火事で焼けたため移転を余儀なくさせられたファーテルは、他の場所へ移った場合、売買契約の条件で「Chris's Steakhouse」の名前が使えなかったため、「Ruth's Chris Steak House(ラスのクリス・ステーキハウス)」と名前を変えるのです。

 同じ年、ファーテルはフランチャイズ1号店の出すことに合意し、以来、急激な勢いで店舗を拡張してゆきます。2002年、ファーテルが75歳で亡くなった後も店はすっかり安定し、2010年、45周年を祝ったばかりです。ロサンゼルスで正統派のステーキハウスといえば、この店か、やはりビバリーヒルズの「Morton's The Steakhouse」や「Mastro's Steakhouse」あたりでしょう。同じビバリーヒルズでも、ウルフギャング・パックのステーキハウスはお薦めしません。

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#1
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#2
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#3
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#4
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#5

 写真は左から「ロブスター・ビスク・スープ(#1)」、「上がマッシュルームのソテーで、下は左からクリーム・スピナッチ、マッシュポテト2種(#2)」、「リブアイ・ステーキ(#3)」、「ブレッド・プディング(#4)」、「150周年記念グランマルニエ(#5)」、最後の#5がある時は、ぜひお薦めします。少々高いですが、普通のグランマルニエとはぜんぜん違います。

Animal
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■Animal

www.animalrestaurant.com
435 N. Fairfax Ave., Los Angeles
323-782-9225

 この店は看板がなく、知らない人は来ません。たとえば、代表メニューが「フォアグラのロコモコ(ミニ・ハンバーグの上へフォアグラと鶉卵の目玉焼きを乗せたもの)」や「豚の耳」という具合で、名前のごとく動物料理全般を得意としています。知らない人が来ない店のわりに驚くほど流行っており、行こうと思うかたは早目に予約を入れたほうが無難です。たとえば私自身、週末の予約を取ろうと思って当日の早い時間から電話を入れたことがあります。しかし、取れたのは午後11時45分でした。それだけでも、この店の人気がおわかりいただけるでしょう。

 2008年のオープン時はレストラン業界でかなり騒がれた店で、そもそもオーナーのヴィニー・ドトロとジョン・シュックの2人が出会ったのはフォート・ラウンダーデイル美術学校へ入学した時でした。卒業後、マイアミの有名なシェフ、ミッシェル・バーンスタインのところで働き始めたのがきっかけとなり、2人は引き続きフロリダのトップ・シェフ、マーク・ミリテロの「Mark's」やオリバー・ソーシーの「Cafe Maxx」、そしてダグ・リースの「River House」など、有名なレストランで働きます。

 それから西を目指したドトロとシュックが、コロラド州ヴェイルにあるレイ・ローチの「Wildflower」を経て、「Chadwick」のゴヴィンド・アームストロングやベンジャミン・フォード(ハリソン・フォードの息子)の下で修業したのが2001年以降のことでした(どちらのレストランも今は店じまいしています)。また、この時のフォードの有名人コネクションが、2人の始めたパーティーや映画の撮影現場への出前(ケイタリング)会社を成功させる原動力となり、そこから2008年の「Animal」オープンへとつながってゆくのです。結果、オープンの翌年(2009年)、ドトロとシュックの2人はあの「フード&ワイン誌」から「ベスト・ニュー・シェフ」に選ばれた他、「ジェームズ・ビアード協会」からも店のほうが「ベスト・ニュー・レストラン」へノミネートされました。

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#6
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#7
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#8
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#9
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#10

 写真は左から「シェイブド・アスパラガス(#6)」、「ペティート・ビスク(#7)」、「フォアグラ・ビスケット(#8)」、「フォアグラのロコモコ(#9)」、「ベーコン・チョコレート・クランチ・バー(#10)」、中でも#9がこの店の定番です。

Ford's Filling Station
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■Ford's Filling Station

www.fordsfillingstation.net
9531 Culver Blvd., Culver City
310-202-1470

 マドリードのレストラン「Botin(ボティン)」といえば子豚を丸ごと食べられるので有名なばかりでなく、ギネス・ブックが世界で一番古いレストランとして認定しています。しかし、豚1頭を丸ごと料理してくれる店ならロサンゼルスにもあるのです。「Ford's Filling Station」がそれで、豚1頭を丸ごと頼まないなら予約の必要はありません。

 先ほども登場したベンジャミン・フォードがここのオーナー・シェフで、気さくに挨拶をする時の笑顔は、さすが父親(ハリソン・フォード)そっくりです。出す料理はモダン・アメリカンで、自ら「ガストロ(胃腸)パブ」と称するごとく、しっかりとお腹がふくれます。この店を出す前はロサンゼルスの「The Farm of Beverly Hills」、「Opus」、「Campanile」などの店で腕を磨き、レストラン業界に確固たるチェフの地位を築いてきました。

 ともあれ、「アンドリュー・ジマーン」のヒットTV番組「ビザー・フード」で豚1頭まるごと料理が紹介されて以来、私自身、ぜひ試してみたいと思いつつまだチャンスはないままです。TVや他の紹介記事で見る限り、「Botin」と一味違うようですが、こちらの豚も(食べる人間の)頭数が揃い次第、予約を入れなくてはなりません。

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#15

 写真は左から「デビルド・エッグ/味付け黄身の白身詰め(#11)」、「ファイブ・アラーム・チキン・ウィング/いわゆるバッファロー・チキン(#12)」、「クリスピー豚の耳(#13)」、「コリッツオ・アメリカーノ/ホット・スモークド・パプリカで合えたポーク・ソーセージ(#14)」、「スモークド・ヘッド・チーズ/豚の脳みそのパテ(#15)」・・・・・・先の「Animal」といい勝負で動物(アニマル)してますね。

 ということで、今回はハイエンドの肉料理レストランを3軒紹介しました。そのうちローエンドの店やアメリカ以外へ目を向けた焼肉その他のレストランも、ご紹介していきたいたいと思っています。

 なお、最後に一言お断わりしておくと、このレストラン・ガイドを連載する際、同じ情報を紹介する記事でも「最新情報」や「ハリウッド・ベスト10」と違って「エッセイ」のような個人名義のコピーライトとしたのは、ご紹介する対象が公共の情報でありながらテーマは「食」という個人的なものだからです。したがって、内容へ納得のいかないかたがおられるとしても、そこまで責任は取りかねますのでご了承ください。さあ、美味しくいただきましょう!

横 井 康 和      


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