映画と受賞(下)
前回のオスカーとラジーの両方を獲得した女優に引き続き、今回はオスカーとラジーの両方を獲得した男優をご紹介しよう。女優が6人しかいなかったのに対し、男優は9人と少し多い。
まずメル・ギブソン、彼は自身の監督作「ハクソー・リッジ(2016年)」でラジーのレッディーマー賞を受賞すると同時に、同年のアカデミー最優秀監督賞へもノミネートされた。この年のオスカーこそ逃がしたギブソンだが、1995年の「ブレイブハート」でアカデミー作品賞と監督賞の2つのオスカーに輝いている。その後再び、「ダディーズ・ホーム2(2017年)」で今年のラジー最悪男優賞を獲得したのは残念だ。
ベン・アフレックが初めてアカデミー脚本賞を獲るのは、親友のマット・デイモンと共同で書いた「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち(1997年)」だった。その後、2012年の監督作「アルゴ」で再びオスカーを獲得するが、その時は作品賞だ。それら2作の間に、ラジーはアフレックを最悪男優賞へ3度ノミネートしている。どれも2003年の作品で、「デアデビル」、「ジーリ」、「ペイチェック 消された記憶」の3作だ。そして去年(2017年)、彼がバットマンことブルース・ウェインを演じた「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」で、スーパーマンことクラーク・ケント(ヘンリー・カヴィル)ともどもラジーの最悪スクリーン・コンボへ選ばれている。
レオナルド・ディカプリオほど「今年こそオスカーを」と言われ続け、獲れなかったスターも珍しい。その彼が「レヴェナント 蘇えりし者(2015年)」でとうとうアカデミー主演男優賞を獲った(同作でアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥも監督賞に輝く)。いっぽう、ディカプリオはそれまでオスカーこそ逃しながら、ルイ14世とその双子の弟フィリップを演じた1998年の「仮面の男」でラジー最悪カップル賞を受賞している。同年の対抗馬として競ったのが「アルマゲドン」のベン・アフレックとリヴ・タイラーだ。
「セント・オブ・ウーマン/夢の香り(1992年)」でアカデミー主演男優賞とゴールデングローブ主演男優賞をダブルで獲得したアル・パチーノだが、残念ながらアダム・サンドラー主演作「ジャックとジル(2011年)」ではラジー賞の最悪助演男優賞と最悪カップル賞をダブルで受賞した。
1948年の「ハムレット」でアカデミー賞の作品賞と主演男優賞およびゴールデングローブ主演男優賞とニューヨーク映画批評家協会主演男優賞を受賞したローレンス・オリヴィエは、1944年にも「ヘンリィ五世」でアカデミー名誉賞とニューヨーク映画批評家協会主演男優賞を受賞している。そんなオリヴィエだが、1980年の「ジャズ・シンガー」ではラジー最悪助演男優賞を、そして翌1981年の「インチョン!」ではラジー最悪主演男優賞と2度受賞しているのだ。
1990年の「ダンス・ウィズ・ウルブズ」でアカデミー賞の作品賞と監督賞でオスカーに輝き、主演男優賞へもノミネートされたケビン・コスナーだが、「ロビン・フッド(1991年)」、「ワイアット・アープ(1994年)」、「ポストマン(1997年)」は評判が良くなく、これら3作はラジー最悪主演男優賞を受賞してしまった。
プリンスが自ら主演もしている「パープル・レイン(1984年)」で、彼は第57回アカデミー楽曲編曲賞を、そして第27回グラミー最優秀映画賞とTV作曲賞を受賞している。しかし、その2年後、やはりプリンスの監督主演作「アンダー・ザ・チェリー・ムーン(1986年)」が第7回ラジー賞で主題歌「ラブ・オア・マネー」の最低主題歌賞ばかりか、最低作品賞、最低監督賞、最低主演男優賞の4冠という悲惨さだ(最低作品賞は「ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀」と2作が選ばれている)。
マーロン・ブランドが初めてアカデミー主演男優賞を獲ったのは1954年の「波止場」だった。その彼が1973年、再び主演男優賞へノミネートされる。「ゴッドファーザー」のドン・コルレオーネ役は今でも映画史に残っているものの、授賞式で司会のリヴ・ウルマンとロジャー・ムーアがブランドの名を発表した時、彼は現われなかった。代わって会場へ姿を見せたのは、ネイティブ・アメリカンの活動家サチーン・リトルフェザーだ。彼女は壇上に立つと、ブランドが受賞を拒否すること、その理由はハリウッドでの非白人の登場人物が不正確で不公平に描かれていることへの抗議であることを短く雄弁に説明している。そんなブランドも、1996年度作「D.N.A./ドクター・モローの島」ではラジー最悪助演男優賞を受賞した。
1959年の「ベンハー」でアカデミー主演男優賞を獲得したチャールトン・ヘストンだったが、その後「キャッツ&ドッグス(2001年)」、「PLANET OF THE APES/猿の惑星(2001年)」、「フォルテ(2001年)」の3作でラジー最悪助演男優賞に輝いている。
以上がオスカーとラジーの両方を獲得した男優9人だ。前回のオスカーとラジーの両方を獲得した女優6人ともども、やはり皆さん、一癖も二癖もある顔ぶれである。そもそも一癖も二癖もなければ生き残れないハリウッド業界で、オスカーばかりかラジーまで獲得しようと思えば並大抵のことではないのだろう。
横 井 康 和