映画と受賞(上)
もともとアカデミー賞(オスカー)のパロディーとして始まったゴールデン・ラズベリー賞(ラジー)も、今年で38回目となるだけに、もはやしっかりと定着した感がある。そして、そのオスカーとラジーの両方を受賞した女優は、これまで6人しかいない。ハリウッド業界でオスカーを獲ったといえば最も名誉なことであり、エリート・クラブへの仲間入りを意味するが、唯一オスカー以上の意味を持つのはオスカーとラジー両方の獲得だ。
ここでラジーについて少し説明しておくと、前年の「最低最悪な映画」を表彰する賞で、ノミネートも授賞式もアカデミー賞の前日と決まっている。先月の「最新情報」でお知らせしたとおり、今年、最多の9部門でノミネートされたのがマイケル・ベイ監督作「トランスフォーマー 最後の騎士王」だった(受賞したのは最低作品賞を含む3部門の「絵文字の国のジーン」や、「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」で最低主演男優賞のトム・クルーズなど)。受賞作および受賞者が不名誉と思って無視することもあるいっぽう、ジョークとして授賞式へ積極的に姿を見せる場合も多々ある。しかし、受賞者がオスカー女優となると話は違う。重みを持つ。
ということで、ラジーを獲得した6人のオスカー女優を順番にご紹介したい。1人目がライザ・ミネリ、母親のジュディー・ガーランド同様、長いキャリアの中で2度オスカーへノミネートされ、「キャバレー(1972年)」で最優秀主演女優賞に輝いた。その彼女も「レンタ・コップ(1987年)」と「ミスター・アーサー(1981年)」の続編「アーサー2:オン・ザ・ロックス(1988年)」の2作で、1989年度のラジー最低主演女優賞を受賞している。
▲ライザ・ミネリ
▼フェイ・ダナウェイ
2人目はオスカーへ3度ノミネートされたフェイ・ダナウェイ、1977年の授賞式でようやく「ネットワーク(1976年)」がアカデミー主演女優賞に輝く。その後、この「俺たちに明日はない(1967年)」で知られるダナウェイは「愛と憎しみの伝説(1981年)」で最低主演女優賞を、「派遣秘書(1993年)」で最低助演女優賞を獲得するのだ。
3人目のキム・ベイシンガーが注目されたのは「ネバーセイ・ネバーアゲイン(1983年)」でボンド・ガールへ抜擢された時だった。「ナインハーフ(1985年)」の大胆な演技でスターの仲間入りを果たした彼女が、アカデミー助演女優賞を獲るのは「L.A.コンフィデンシャル(1997年)」である。そのベイシンガーが今年、「フィフィティ・シェイズ・ダーカー(2017年)」でとうとう最低助演女優賞に輝き、ラジー・クラブへ名を連ねた。
▲キム・ベイシンガー
▼ソフィア・コッポラ
4人目のソフィア・コッポラはアカデミー最優秀監督賞へノミネートされた数少ない女性の1人だ。そして、彼女が製作、脚本、監督を務めた「ロスト・イン・トランスレーション(2003年)」は、2004年のアカデミー授賞式で最優秀脚本賞を射止める。ソフィア・コッポラが監督として認められる以前に、彼女は一連の「ゴッドファーザー」や「地獄の黙示録(1979年)」の監督で知られるフランシス・フォード・コッポラの娘であり、また女優であった。そんな経緯があって、ソフィア・コッポラは「ゴッドファーザー」の最終作「ゴッドファーザー PART V」へメアリー・コルネオーネ役で出演しており、それが最低新人賞と最低助演女優賞の2部門をダブルで獲得するのだ(興味深いのは、この映画でソフィア・コッポラと並びドナルド・トランプが最低新人賞にノミネートされている他、最低助演男優賞を獲得している)。
5人目のハル・ベリーは、「チョコレート(2001年)」でアカデミー主演女優賞を獲った史上初の黒人として、ハリウッド史へ永遠にその名前を残すだろう。しかし、ハリウッド史へ名前を残した3年後、「キャットウーマン(2004年)」でラジーの最低主演女優賞と最低スクリーン・カップル賞の2部門に輝く(後者はベンジャミン・ブラットおよびシャロン・ストーンと共同での受賞)。何が最低かというのは主観で変わってくるが、「キャットウーマン」はたしかに失敗作だ。
▲ハル・ベリー
▼サンドラ・ブロック
6人目で最後がサンドラ・ブロック、オスカーの前哨戦ともいえるゴールデン・グローブ賞では「あなたが寝てる間に・・・(1995年)」や「デンジャラス・ビューティー(2000年)」で主演女優賞を獲得しながら、オスカーへノミネートされたのは「しあわせの隠れ場所(2009年)」が初めてだった。その「しあわせの隠れ場所」で、ついにオスカーの最優秀主演女優賞を獲ったいっぽう、同年の「ウルトラ I LOVE YOU!」はラジーの最低主演女優賞の受賞作となる。その後、「ゼロ・グラビティ(2013年)」で再びオスカーの最優秀主演女優賞へノミネートされるも、受賞には至らなかった。
以上6人の女優を紹介し終えたところで、次回は今回に引き続きオスカーとラジーの両方を受賞した男優をご紹介したいと思う。(続く)
横 井 康 和