映画とファン
エンターテインメント業界で「お客様は神様」というが、これはハリウッドでも変わらない。ただ、有名人だってうんざりする時があるし、ハリウッド・スターともなればパパラッチに悩まされていることは理解できる。しかし、ファンとの出会いがある場合、もう少し我慢強くなってもいいのではと思わされるスターも、けっこう多い。
そこで今回ご紹介するのが、ファンへの無礼で知られるハリウッド・スターたちだ。クリスチャン・ベール、ジャスティン・ビーバー、ロバート・パティンソンといったファンを蔑(ないがし)ろにするスターたちは、昔堅気の「お客様は神様」タイプと比べ、ハリウッドの新しい流れなのだろうか?
あるパーティーで会話中だったキャサリン・ゼタ=ジョーンズへ、8歳の少女ファンが「私も女優になりたいんです」と割って入った時、ゼタ=ジョーンズはこう応えた。
キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
「私が思うところ、あなたはじゅうぶん可愛いわ」と冷たい目で少女を上から下まで何度も舐め回すように見た後、黙って元の会話へ戻ったらしい。この体験が少女ファンにはトラウマとなり、以来、価値観が変わったという。それまで安住の地であった世界は一転し、絶えず人が内心、自分のことをどう考えているのか猜疑心を抱くようになるのだ(それを成長と呼ぶ人もいる)。
1996年の夏季オリンピック開催中、ブルース・ウィリスは彼が誰かを気づいた子供たちへ怒鳴り、そのエピソードは未だ語り継がれている。
ブルース・ウィリス
ウィリスと当時の妻デミ・ムーアが、ジョージア州アトランタのレノックス・スクエア・モールにあるカリフォルニア・ピザ・キッチンを訪れた時のことだ。レストランの従業員の語ったところでは、10歳前後の2人の少年がウィリス夫妻に気づき、遠くから笑いながら彼らを指差したとか。そこで昼食を中断されたウィリスは立ち上がって、少年たちへ怒鳴ったという。
2014年5月、16歳のアレキシス・カーターがリアーナに触発された自作のプロム(卒業パーティー)の衣装をネットで披露した結果、リアーナ当人から「いじめ」を受けている。コウモリの羽のついたパンツ・スーツを披露したカーターへ、リアーナはネット上で笑いの種にすることで報いた。
リアーナ
リアーナがツイートした内容は、自分自身とカーターの写真を並べて「#PromBat」というハッシュタグを付け、そこへ「The Dark Knight Rises(ダークナイト ライジング)」をもじったお気に入りのジョーク「The Dark Thot Rises」と書いたものである。この「THot(ソット)」とは、「That Hoe Over There(あそこにいる嫌なやつ)」の省略形だ。
その後カーターは、ボルチモアのフォックス45ニュースへ非常に気分を害したと打ち明けている。「なぜ、自分自身が持っているのと同じものへ悪口を言うの? ポーズは違っても、同じ衣装なのよ。彼女(リアーナ)が言うように、彼女はファンを愛しちゃいないわ」と・・・
冒頭でも触れたクリスチャン・ベールの映画セット内での無礼な態度が有名な以上に、周りの評判は間違いなく良くない。彼の元広報担当者が、彼女の書いたすべての本の中でベールはファンが近づくとしばしばひどいことしたと明かしている。彼は少女たちが涙を流そうとお構いなしで、両親に引き離されるまで、彼女たちへ無礼で無意味な説教を続けたそうだ。
クリスチャン・ベール
ベールはまた、別のファンが彼の家に手紙を送った時も、広報担当者へそのファンを排除するべきだと伝え、その方法まで提案したらしい。いわく、「ねじ回しが眼球を突き抜けて脳まで達すると叫び声は聞こえなくなる。どうなったか教えてくれ」・・・・・・これがもし本気なら、正常ではない。
2013年、MTVとVH1、そしてペプシが主催するコンテストで優勝したダン・オコナーと彼の娘のジェンとケリーは、アリアナ・グランデと会った時の様子をオコナー自らのブログで明らかにしている。
アリアナ・グランデ
長かった1日が終わり、ようやく彼らはグランデと会った。しかし、彼女が彼らと過ごしたのはたった15秒で、その間、彼らが撮った数枚の写真を彼女は削除するよう要求したという。
かつてファンの投票で、サイン会をやらせたらハリウッドで最悪のスターNo.1へ選ばれたトビー・マグワイアだが、また別のファンは彼がファンと交流するのに「利己的なオーラで包まれすぎ」だと主張している。そして、悪評がまだまだ続く。
トビー・マグワイア
マグワイアから「アザラシのように吠えてみろ」と言われた女性はモリー・ブルーム、彼女の回顧録「モリーズ・ゲーム(2014年)」がその後(2017年)、ジェシカ・チャステイン主演で映画化された。この作中、ブルームは2014年の高額ポーカーゲームでマグワイアが1,000ドルのポーカーチップを提供しようとしたと書いている。ただし、アザラシのように吠える条件付の話だ。
ブルームは拒否する際、マグワイアへこう言った、「冗談じゃないわ! あなた、おかしいんじゃないの? あなたは今、お金持ちでしょ? 1,000ドル貰って吠える?」
サンドラ・ブロックが車椅子のファンへ叫んだというエピソードは、「アメリカの恋人」と呼ばれた彼女のイメージと随分違う。アメリカの恋人であることが人生で非常に多くのフリーパスを与えるいっぽう、時としてプライバシーは損なわれる。
サンドラ・ブロック
2012年、マサチューセッツ州ボストンで「デンジャラス・バディ」の撮影中であったブロックを、彼女のファンである女性と退役軍人で車椅子の良人が見かけてサインを求めた。しかし、ブロックは自分の顔を覆って彼らへ叫んだらしい。彼女が忙しいと理解しているそのファン夫婦の反応は、彼女の誠意のない無礼な態度がそれで正当化されるとは思わないというものだ。
短気な性格ゆえ数々の前科があるショーン・ペン、過去にエキストラを殴って60日間勾留されたり、カメラマンを蹴って300時間の地域サービスを言い渡されたりしている。
ショーン・ペン
そんなペンは2013年、あるコンファレンスへ出席するため、カリフォルニア州サンフランシスコのセント・レジス・ホテルのロビーにいた。同じコンファレンスへ出席していた男が彼に気づき、携帯電話で写真を撮ろうとした時のことだ。突如、怒りを爆発させたペンは、「俺たちが動物園のファッキン動物に見えるかい?」と叫びながら、男の携帯電話を取り上げ、床へ叩きつけたらしい。
結局、その男はペンを告発しなかった。
これらのケースが氷山の一角であることは、以上の8例に絞るまで私自身がかなり迷っただけでも明白だ。ファンへ唾を吐いたジャスティン・ビーバーから、「トワイライト・シリーズ」のヒットで熱狂的なファンを生みだし、シリーズへの愚痴を繰り返したロバート・パティンソンなど、彼の愚痴発言を集めたファン・アカウントまでできる始末だ。年配のスターでは、昔ながらのファンの横っ面をはたいたチェビー・チェイスなどきりがない。
幸い主演作のプロモーションで日本へ行くハリウッド・スターは、皆さんプロモーターから釘を刺されているのか優等生ばかりだが、どうも猫を被っているように思える。昔、日本を訪れて「11PM」へゲスト出演したジャック・ニコルソンは、終始笑みを絶やさない大橋巨泉に、やはり笑みを絶やさず強烈な皮肉ばかり言っていた。たまたま帰国中であった私が思ったのは、あの会話の裏を感じ取れる日本の聴視者がどれだけいるのか?・・・・・・その点、今も変わらず平和な国「日本」といえそうだ!
横 井 康 和