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(1997年4月1日)          




オスカーの夜更け

“イングリッシュ・ペイシェント”の9部門受賞で幕を閉じた今年(1996年度)の第69回アカデミー賞、その授賞式へ出席して肌で感じた情報をお届けします。


ピアノマン

2月1日の最新情報で触れた「輝く天才」、デビッド・ヘルフガットは噂通り登場し、素晴らしい演奏を披露してくれました。“シャイン”のモデルとして一躍スポットライトを浴びたおかげで、最近彼が行ったコンサート・ツアーを「天才とは言いがたい平凡な才能を映画に利用されただけ」などと批判の声も聞きましたが、そんな酷評を見事に覆すような熱演ぶり。主演男優賞を獲得したオーストラリアの舞台俳優ジェフリー・ラッシュは、「デビッドのツアーをサーカスだという人もいますが、よく考えてみると、われわれの人生だって安全ネットのないサーカスじゃありませんか。ピアニストだけじゃなく、ヘルフガットは人間として舞台に立っているのです」という受賞スピーチがとても印象的であり、また長年苦労を分かち合ったオーストラリアのスタッフや俳優仲間へ感謝するラッシュ自身の謙虚な姿も、爽やかでした。

ベスト・パフォーマンス

“エージェント”で助演男賞受賞のキューバ・グッディング・ジュニアは、情熱的で素直な受賞スピーチ・・・・・・というよりもスピーチ時間切れの音楽を無視してまで「サンキュー」、「アイラブユー」を連発し、また身体中から溢れんばかりの喜びの表現が受け、観客は総立ちの拍手でオープニングを盛り上げました。プレス・ルームでもパーティーでも、一番人気があったのは、やはり彼です。

謙虚の美徳

“イングリッシュ・ペイシェント”で助演女優賞受賞のジュリエット・ビノーシェは、本命視されていた大ベテラン、ローレン・バコール("ミラー・ハズ・トゥー・フェイセス")の受賞間違いなし、まさか自分が受賞するなど予想だにしませんでした。したがって、スピーチの用意をしていなかった結果、知人へ礼を言いまくる従来のパターンからかけ離れ、映画歴50年の大女優ローレンばかりを褒めちぎるパリ生まれの洗練された自然な喋りが、かえって効果的だったと思います。彼女のワイン色のビクトリア調ガウンも、なかなか渋く、決まっていました。

台詞なき名演技

ドキュメンタリー部門で受賞した“モハメッド・アリ/かけがえのない日々”は、1974年にアフリカのザイールで行われ、“ランブル・イン・ザ・ジャングル”と呼ばれたモハメッド・アリとジョージ・フォアマンの世界ヘビー級タイトルマッチを記録した作品です。受賞セレモニーで満面の笑みをたたえたフォアマンと舞台に上がったアリの、パーキンソン病で震える全身に漂う優しさと優雅さが何ともいえず、アトランタ・オリンピック開会式の感動を呼び起こす「鳥肌もの」の一幕でした。

アイリッシュ旋風

数多く出演したダンサーの中で群を抜いていたのは、いま全米ヒット中のCDとビデオ“ロード・オブ・ザ・ダンス(踊りの帝王)”が好評のアイルランド式ステップ・ダンサー、マイケル・フラットリーです。映画のモンタージュを背景に激しく踊る彼のパワーとタップシューズの響きは、観客を釘づけにしていました。これを機会に、彼の迫真のパフォーマンスが銀幕上で見られる日も間近な気がします。

あがっちゃって、すいません!

“ビバリーヒルズ忍者”で「成長しそこなった大人」ぶりを発揮するクリス・ファーリーですが、プレゼンターとして登場した彼は見ていて気の毒なくらいのあがりようでした。テレプロンプター(カメラと一体の台詞を読みとるカンニング・システム)を凝視したまま硬直状態で、汗だくだくの巨体を小さくしてプレス・ルームへ引き上げる姿に同情した人も、けっこう多いのでは?

仲の悪い黄金コンビ

主演女優賞でノミネートされずに腐っていると噂のマドンナが、自ら志願して絶唱したかいあって、“ユー・マスト・ラブ・ミー"("エビータ")はオリジナル・ソング部門でオスカーを獲得しました。“エビータ”他、“オペラ座の怪人”など一連のミュージカルで成功している作詞作曲チーム、アンドリュー・ロイド・ウェバーとティム・ライスの黄金コンビが舞台上でスピーチを譲り合う光景は、ふだん仲が悪いと評判の2人にしては珍しい場面のようです。ただ、ウェバーのスピーチが終わり、「いつものとおり、アンドリューの意見にまったく同感です」と皮肉ったライスの一言は、彼の本音を窺(うかが)わせるものがありました。

独立作品の台頭という意味では、近年まれなのが今年のオスカーです。“ファーゴ”で主演女優賞を射止めたフランシス・マクドーマンド曰(いわ)く、「これからも監督や脚本家が勇気を持って、興味深い人物の登場する内容ある作品を製作して欲しい」・・・・・・一映画ファンとして、ウェバーならぬ、フランシスの意見にまったく同感です。





ブロードウェイ・ブルース

つい最近まで撮影を続けていた、落ちぶれた元プロ・ホッケー選手がテーマのコメディー“ブロードウェイ・ブローラー”については、昨年11月1日のこのページでもお知らせしましたが、結局、土壇場で中止となりました。原因は主演兼プロデューサーのブルース・ウィルスと元女優で監督のリー・グラント("ステイ・トゥゲザー/青春の絆")のエゴが対立したためです。そもそも、70歳になるグラント監督とその夫であるプロデューサー、ジョー・フューリーの製作意図が、ブルースや製作スタジオであるシネジーのボス、アンディー・バニア(元キャロルコ重役で“ランボー”シリーズをヒットさせた立て役者)と真っ向から食い違い、撮影開始後わずか3週間で解雇されたことに端を発します。フューリー夫妻以外、その時、解雇されたクルーには“ドクター・モローの島”や“トゥームストーン”などの撮影監督として6度もアカデミー賞でノミネートされたウィリアム・フレーカーも混じっており、彼らが証言するところでは、スターパワーを誇示するブルースがグラント監督の指示を無視して撮影位置を変えるなど、露骨なワンマンぶりを発揮したため、撮影現場のムードは非常に険悪だったとか! “ダイハード3”が成功して以来のつき合いであるバニア氏とブルースは、TV俳優時代のヒット番組“こちらブルームーン探偵社”を監督したデニス・ドゥーガン("ビバリーヒルズ忍者")を後がまとして起用、なんとか製作続行を試みたようです。しかし、相次ぐバッド・パブリシティー(悪評判)やクルーからの訴訟などで製作費1,500万ドルを無駄使いする結果で終わってしまいました。スクリーン上、数少ない「本物の男」の匂いを漂わせるブルースの存在感が大好きな僕としては、日頃、なにかと話題になる「ワンパク」ぶりを、もっと前向きな方向へ活かし、本当の意味でのハリウッド・プレイヤーになって欲しいと願います。僕ばかりが、そう思っているのではないはずですが・・・・・・





ヤング・ハリウッド!?

一昔前、ジェームス・ディーンやマーロン・ブランドに象徴されたハリウッドのヤング・パワーは、'80年代のトム・クルーズ、'90年代のブラッド・ピットへと引き継がれ、今新たにニューエイジのヤング軍団として開花しそうな勢いです。「ハリウッド最前線」が、今後、もっとも注目するヤング・ハリウッドの旗手3人にスポットライトをあててみました。


レオナルド・デキャプリオ (22歳)

すでにアカデミー助演男優賞("ギルバート・グレイプ")へノミネートされた経験者で、ヒット作“ロミオとジュリエット”で、その美少年ぶりを発揮しています。最近作“マイルーム”での不良ぶりや“バスケットボール・ダイアリーズ”における演技もなかなかです。私生活は以外と優等生っぽく、末永く期待できる新星だと思います。ジェームズ・キャメロン監督作“タイタニック”が次作。


ビンス・ボーン (25歳)

超低予算映画ながら、ハリウッドはロスフェリス通り界隈のレトロ調クラブで屯(たむろ)する俳優の卵たちの生態を描き、絶賛を浴びた独立プロ映画“スウィンガーズ”での衝撃的な存在感が注目されました。次はスティーブン・スピルバーグ監督の“ロストワールド”へ出演する大型新人ボーン、自然な演技とチャーミングな微笑が魅力のスター候補生です。


スティーブン・ドーフ (23歳)

若きビートルズを描いた“バックビート”や、パワフルなボクサーの物語“パワー・オブ・ワン”で、すでに演技力は証明済みですが、ジャック・ニコルソンと共演した最新作“ブラッド&ワイン”の迫力あるカリスマ性は目を見張るものがあります。次作“シティー・オブ・インダストリー”は、名優ハービー・カイテル("パルプ・フィクション")との共演が話題のスリラーです。


さあ、この期待の新人3人の中から次代のヤング・ハリウッドを背負うスーパースターが誕生するか楽しみですね。





天才赤ちゃん

子供、ティーン、中年、熟年と、それぞれ違う年齢層をターゲットとして狙ってきたハリウッドの次期市場を反映するかのごとく、その名も“ベイビー・ジニアス(天才)”と題した新作が企画されています。主演はキャサリン・ターナー("私がウォシャウスキー")、クリストファー・ロイド("バック・トゥー・ザ・フューチャー”シリーズ)で、登場する60人もの2歳児(多くは双子や三つ子)を、ボブ・クラーク監督("ポーキーズ")がどう活かすのか興味津々というところです。ストーリーは、2歳児の天賦の才能へ目を着けた悪徳女性富豪が、言葉を覚える前の幼児たちのコミニケーション方法を悪用すべく、ベイビー・カンパニーという自ら経営する会社の地下に秘密実験室を造ります。そこへ孤児の赤ん坊を監禁して研究を進めるうち、赤ん坊の1人スライが脱走を試みたため大騒動に・・・・・・製作会社は、この作品のため“クリエイティブ・ビジュアル・イフェクト”というビジュアル効果専用のスタジオを新設するほどの力の入れようです。CG(コンピュータ・グラフィック)のモーフ(変身)効果を活かし、登場するベイビー全員が口を動かしてハッキリと会話するほか、機械操作のベイビーやロボット式の動物も数多く登場させ、今までにない画期的なアクション・コメディーとなることでしょう。映画でベイビーが着る衣装ラインは、今や“BABY GAP”と並んでヤッピー・ママのお気に入りブランド“BABY GUESS”が販売します。クリスマス公開予定のこの映画、商品とのタイアップ路線を重視するハリウッドの新市場開発へ一役買うかもしれません。





新企画情報

定期的にお届けしている「ハリウッド最前線」お馴染みの、巷で入手した最新企画情報です。


マイ・ジャイアント

年老いた守銭奴のタレント・エージェントが、本物の巨人を発見して一攫千金を夢見るうち、“家族”の素晴らしさを知り、その巨人を利用した悪徳事業から身を引くというコメディー・ドラマ。この“好きと言えなくて”で繊細な女性心理を巧みに描いたマイケル・リーマンの次期監督作は、“プリンセス・ブライド・ストーリー”でプロレスラーの故アンドレー・ザ・ジャイアントと共演したビリー・クリスタル("シティー・スリッカーズ")が有力主演候補としてあげられています。

アリゴ

1962年、魔女狩り(?)事件で逮捕されたアリゴという名の魔術師の裁判を、1人のアメリカ人ジャーナリストが取材しました。彼は自分自身で体験した肉体や魂を救済するアリゴの超能力について書き残し、それを映画化したのがこの作品です。主役のジャーナリストを演じるジョン・キューサック("訣別の街")、助演および監督はアラン・アーキン("ロケッティア")が決定済みで、今夏ブラジルでクランクインの予定。

サイコビル

このクリス・ファウラーのベストセラー小説を映画化した異色スリラーに主演するのは、“トレイン・スポッティング”でヘロイン中毒患者を熱演し、ハリウッドの注目を浴びたスコットランド人俳優イワン・マグレガー(写真)とジョニー・リー・ミラーが決定したばかりです。中でもイワンは、9歳から始めた演技を磨くため、16歳の時、親の承諾を得て高校を中退したという変わり種、彼の飛躍が期待できそうな作品。

シークレット・ライフ・オブ・ウォルター・ミティー

公開間近の“ファーザーズ・デイ”ほか、“プリティ・リーグ"、"シティー・スリッカーズ"、"バックマン家の人々”といったヒット・コメディー映画を生みだしてきたババルー・マンデルとローウェル・ギャンツのコンビが、いま頭を捻(ひね)っているこの企画は、スーパースター、ジム・キャリーの次の作品となります。1947年にヒットした映画の現代版リメイクで、撮影が始まるのは多忙なジムのスケジュール調整がつく来年へ持ち越されそうです。ちなみに、ハリウッドで「喜劇の王様」の異名をとる彼らは、大物ロン・ハワード監督("身代金")の次期予定作“エドTV”の脚本も、これと同時進行で執筆中。



(1997年4月1日)

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