8月の「最新情報」で、来年、話題になりそうな映画を何作か紹介しましたが、それからも新しい企画は続々と登場しています。前回に引き続き、中でもホットなプロジェクトをお届けしましょう。
(1997年10月1日)
続・新企画情報
大モテ、クランシー!
“今そこにある危機”をはじめとするジャック・ライアン・シリーズで映画ファンにも馴染みの深いスパイ陰謀小説のエース、トム・クランシーは、最近ABCテレビと“トム・クランシーのネット・フォース”というタイトルのTV映画シリーズ契約をしました。来年放映予定のこのシリーズの原作となる小説執筆料は何と2,200万ドルという超破格の待遇で、彼の人気のほどが窺(うかが)えます。内容はインターネットとバーチュアル・リアリティーが世界を支配し、人々はキーボードに釘付けの生活を強いられるといったもので、トム・クランシー小説の権威でもある当「ハリウッド最前線」のウェブマスター、ヨコチンのごとく、すでに未来を先取りして(?)コンピュータから離れない人たちへは、たいへん興味のある企画でしょう。
奇想天外の配役?
ミラマックスの自信作“シカゴ”は、妙に明るい女性殺人鬼2人が主役のミュージカル。主演はゴールディー・ホーン("ファースト・ワイフ・クラブ")とマドンナが決定済みで、彼女たちを盛り上げる男優陣のキャスティングが話題を呼んでいます。というのは、やはりブロードウェイのヒット・ミュージカル“オペラ座の怪人”の映画化へも色気を出しているジョン・トラボルタが、彼女たちを刑務所から救い出すダンディーな弁護士役に興味を抱いていることや、現在リバイバル上演中のブロードウェイ版で浮気な夫役を好演しているジョエル・グレイ("キャバレー")と、最近ハリウッド・ボウルのイベントで“ミスター・セロファン"(浮気亭主のテーマ・ソング)を熱唱して存在をアピールしたネイサン・レイン("バードケイジ")とのライバル合戦が過熱しているからです。監督候補は、映画進出以前マドンナのミュージック・ビデオを監督した経験のあるデビッド・フィンチャー("セブン"、"ゲーム")を筆頭に、“クルーシブル”のイギリス人監督ニコラス・ハイトナーらが上がっています。
戯曲づいたメリル
スコット・マクフィアソンの舞台戯曲“マイルーム”を見事映画化し、家族愛の素晴らしさを見せてくれた名女優メリル・ストリープは、それに気をよくしたのか、最近さらに2作の戯曲映画化へ出演契約しました。1作がブライアン・フリール作のドラマ“ダンシング・アット・ルグナサ”で、今秋クランクインの予定です。貧乏なアイルランド女性とその家族を描いたこの作品では、アクセントの天才と呼ばれるメリルの真価が発揮されることでしょう。もう1作は来年夏クランクイン予定の“メアリー・スチュアート”で、フレデリック・ヴォン・シラー作の16世紀宮廷ドラマ、グレン・クロース("エアー・フォース・ワン")と共演します。その他、著名な女流作家アナ・クインドレン作“ワン・トゥルー・シング”で、レニー・ゼルウィガー("エージェント")の母親役が決定済みです。
気の強いシャロン
カンヌ映画祭で注目された“シーズ・ソー・ラブリー”を書き、独立プロ映画の元祖的存在ともいえる故ジョン・カサベッテ監督の名作“グロリア”のリメイク版については、1月1日の「最新情報」で触れたのを憶えておられらるかもしれません。今月ニューヨークでクランクインしますが、舞台裏ではそれまで一悶着あったようです。スケジュールの延期が発端となり、監督のスコット・カルバート("バスケットボール・ダイアリー")は主演のシャロン・ストーンと“クリエイティブ・ディファレンス(創造性の不一致)”を理由に解雇されました。後釜(あとがま)がベテランのシドニー・ルメット("ネットワーク")、シャロンの親友フェイ・ダナウェイをオスカーへ導いた名監督です。最高の演技を要求する厳しさでは定評のあるルメット監督だけに、今後、気の強いシャロンとの折り合いが見ものといったところ!?
カラテ・フレンチマン
"リージョネアー”は、ジャン・クロード・バン・ダム扮するパリの伊達男が、無実の殺人容疑から逃れるため外人部隊へ志願するという物語。入隊後、砦でアラブ原住民に襲われる危機と直面し、得意の空手を駆使しながら殺人機械(マシーン)と化してゆく彼は・・・・・・定番のアクション映画で、エド・プレスマン("ドクター・モローの島")製作のもと、モロッコで今月クランクインします。
サイモンから木星へ
9歳で自閉症の天才少年が、偶然、軍の機密情報コードを解読したため、暗殺者に追われる身となり、彼をかばって逃走するのはブルース・ウィルス扮するFBIエージェント。また、アレック・ボルドウィン("レッド・オクトーバーを追え")が、解読の謎を調査する軍捜査官を演じます。撮影半ばで“サイモン”から“マーキュリー・ライジング”へと改題されたこのユニバーサル製作のスリラー映画、シカゴ・ロケは終わってワシントンD・C、ロサンゼルスと撮影が進み、封切りは来年4月3日の予定です。
シャル・ウィ?
42歳の生真面目な会計士、少し変わったコンピュータ技師、元気のよい中年のお掃除おばちゃんなどが社交ダンスに興じる映画といえば、いま全米で興行収益350万ドル、外国作品として異例のヒットを続ける“シャル・ウィ・ダンス”であることはお判りでしょう。言葉や文化が違え、ダンスの世界は何か通じ合うところがあるのを、改めて認識させられました。ハリウッドでも、このダンス・フィーバーは時代を超えて人気の的です。まず、1987年の初公開から10周年を記念したデジタル・リマスター版が上映され、あの熱っぽい踊りで話題になったばかりの“ダーティー・ダンシング”は、これまで全世界で1,700万ドルという莫大な収益を上げたモンスター・ヒット。1963年のリゾート地が舞台となり、思春期を迎えた少女(ジェニファー・グレイ)と金持ち相手のダンス・インストラクター(パトリック・スウェイジ)の儚(はかな)い恋物語は、主演2人をスターダムへ乗せたばかりでなく、スウェイジの歌う挿入歌が大ヒットするという社会現象にまでなりました。続いて、ケビン・ベーコン("スリーパーズ")扮する都会から田舎へ転校した高校生が、教会の抑圧で踊ることを知らない地元の若者達に、ダンスの楽しさを教える“フットルース”は、1984年の初公開以来、未だ衰えぬ人気のため、間もなくミュージカル版で再演されます。また、オーストラリア人の監督バズ・ルーマン("ロメオとジュリエット")がデビューしたのも、カルト的なファンを生んだダンス映画“ダンシング・ヒーロー"(1992年)です。フラメンコと社交ダンス、まったく違うスタイルの踊りを学ぶ2人の主人公が恋に落ちるこの物語は、社交ダンスをパロディった斬新な作風が印象的でした。その他、ダンサー志望の若き女性(ジェニファー・ビールズ)が、挫折と葛藤の末、ダンスの名門へ入学するというサクセス・ストーリーをラブロマンス風に仕立て、大ヒットした“フラッシュダンス”(1983年)や、世界中でディスコ旋風を巻き起こした、かの“サタデイナイト・フィーバー"(1977年)に至っては、それぞれ'70年代、'80年代のダンス・シーンを象徴するシンボル的存在といえます。往年の名ダンス・コンビ、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが主演する“スイング・タイム"(1935年)の頃は、多くの映画ファンにとって厳しい現実から逃避するのが目的であったため、天才的な踊りを見てウットリというのが相場でした。その点、今のヒーローやヒロインは観客の代役として踊るパターンが主流です。ダンスを愛し、踊るために生きるヒーロー、またダンスを通じて成長してゆくヒロイン、あるいはダンスのおかげで新しい人生を発見する人々と、ストーリーこそさまざまでも、踊りの持つ独特なエネルギーで触発された主人公へ自分がオーバーラップする映画。肉体の束縛をなくし、魂を解き放つダンス、太古の昔からわれわれ人類の生活と密着した「踊りの文化」は、一度もダンス・フロアーに立ったことのない人でさえ興奮させる何かを秘めています。“シャル・ウィ・ダンス”が超日本的映画ながらアメリカ人の心を打つのは、案外そんなところに魅かれるせいかもしれませんね!
松田優作の遺作となった“ブラック・レイン”をはじめ、画期的な名作“ブレイド・ランナー"、元祖“エイリアン”から“テルマ&ルイーズ”と、独自のビジョンが光るリドリー・スコット監督の最新作“G・Iジェーン”は予想を上回るヒット振り! それに気を良くしたのか、スコットと脚本家デビッド・トゥウォヒー("逃亡者"、"ウォーター・ワールド)が、またまた組んで仕事をします。テーマは超能力のスリラー“クライ・ハボック(略奪の合図)”がそれで、ベースとなっているのは古いBBCのTV映画です。現在、トゥウォヒーが脚本を執筆中ながら、11月クランクイン予定のアーノルド・シュワルツェネッガー主演作“アイ・アム・レジェンド”や、その後はエドワード・ノートン("ラリー・フリント")がイギリスの名優オーソン・ウェルズを演じる“RKO281”などの大作も控えており、2人の共同作業が実現するまで、しばらく時間はかかることでしょう。 リドリー・スコットは絶好調!
日本で“スターウォーズ”特別編3部作が公開されたのはアメリカより半年遅れで今年の夏、話題を呼んだのも記憶に新しいところでしょう。2月16日の「お先に失礼!」で紹介したとおり、臨場感溢れるデジタル・サラウンド・サウンドやデジタル技術を駆使して改良された画面など、いわばオリジナルのアップグレード版です。映画のほうが1月から3月にかけて公開済みのここアメリカでは、早くも3部作デジタル・ビデオのリマスター版(49ドル98セント)が発売され、映画館だけでは飽きたらずホームシアターで再度鑑賞しようという熱狂的ファンを楽しませています。「お先に・・・」でも触れましたが、オリジナル版(Ver.1.0)と特別版(Ver.2.0)の違いは、殺風景な背景の砂漠へ怪獣がインサートされていたり、ディテールの細かくなった都市風景など、全体として相当パワーアップされながら、プラス面ばかりではありません。そこで、それらの違いをいくつか拾い、僕なりに分析してみました。 スターウォーズ Ver.2.0
“スターウォーズ”のモス・アイズリー・キャンティーナ・バーが出てくるシーン Ver.1.0: 賞金稼ぎのハンター、グリードに「殺してでも連れて行く」と脅かされたハン・ソロは、あっさり相手を射殺する。 ▼ Ver.2.0: グリードは脅すだけでなくブラスター銃でハン・ソロを撃ち損じ、自己防衛のために撃ち返したハン・ソロに射殺される。 オリジナルの勝手で利己主義者だったハン・ソロが次第にヒーローとなってゆくプロセスの魅力が失われ、最初から「いい子」では退屈。
ジャバ・ザ・ハットの初登場シーン Ver.1.0: “ジェダイの復讐”ではC-3POとR2-D2がハットへ会見を申し出て登場。 ▼ Ver.2.0: “スターウォーズ”ではグリードを殺した後、ハットに出くわしたハン・ソロが、「アルデラーン惑星へチャーター便で行ってからでないと支払えない」と告げる。 オリジナルでのハットの貫禄はなくなり、公衆の面前でくねり歩いて、せっかくの謎めいたイメージも台無し。
“帝国の逆襲”でルーク・スカイウォーカーが転落するシーン Ver.1.0: 宙づりになったルークは最後までダースベーダーの魔力と戦い、沈黙を守ったまま墜落してゆく。 ▼ Ver.2.0: 墜落しながら生々しい悲鳴をあげる。 何者をも恐れぬジェダイ戦士のイメージ・ダウン。
“ジェダイの復讐”のラスト・シーン Ver.1.0: イーウォックの村に凱旋し、勝利を祝うルークたち。 ▼ Ver.2.0: ニューエイジっぽい音楽が新たに挿入され、勝利の祝いはイーウォックの村から全銀河系宇宙へと広がって終わる。 例の「ヤブヤブ」というイーウォックの声で終わるオリジナルよりも、一回りスケールが大きくなった。
硬派 vs 軟派
硬 派
最近、ようやく“プライベート・ライアン”を撮り終えたスティーブン・スピルバーグ監督は、プリンセス・ダイアナの葬式へもトム・ハンクスやトム・クルーズ夫妻ともども参列していたました。スピルバーグといえば、“シンドラーのリスト”が実証したように「時代考証」ひとつをとっても製作への「こだわり」は並々ならぬ完璧主義者のようです。“プライベート・・・”でも、第二次世界大戦さながらの雰囲気を醸(かも)し出すべく、出演者8人をブート・キャンプと呼ばれる軍事訓練に参加させました。寒いロンドンの撮影スタジオ内へ仮テントが設営され、そこで1日24時間、5日間の訓練中、食事は缶詰だけと言う徹底ぶり。教官は現役の陸軍軍曹で、17キロの背嚢を背負い1日8キロ走らされたり、「ライフル」を間違って「ガン」と言ったおかげで腕立て伏せ数10回と、実戦さながらの「しごき」ばかりか、本名を使うことは禁じられ、役の名前で通すよう強いられたとか。キャンプ参加者の1人、イタリア人俳優ジオバニ・リビシ("ロスト・ハイウェイ")曰(いわ)く、3日目に入ると精神的、肉体的疲労のため、意識が朦朧(もうろう)とするほど過酷なトレーニング。その地獄のキャンプで優等生だったのは主演のトム・ハンクスで、いつもリーダーとして脱落しそうな俳優仲間を励まし、自ら率先してすべての軍事訓練へ立ち向かったそうです。それが効を奏したのか、ノルマンディー上陸作戦シーンでは、ハンクスをはじめとする俳優陣の鬼気迫る演技とスピルバーグの飽くなき「こだわり」がロケ地の海岸を揺るがしました。この壮絶なシーンは映画に30分ほど挿入されるらしく、今から胸がワクワクしますね! こうして、銀幕上でもオフ・スクリーンでも硬派ぶりを発揮するハンクスの一方で、悪名をとどろかせているのはビリー・ボッブ・ソーントン、昨年のオスカー脚本賞受賞以来、何かと悪い噂が耐えません。ハリウッドから「不良中年」のレッテルを貼られ、オスカー・ナイトへ仲良く出席した妻と醜い離婚訴訟合戦を演じ、とうとう暴力による虐待癖まで暴露された上、若い恋人までいるはと、アカデミー受賞作“スリング・ブレード”の純真なキャラクターと、ますます遠去かってきました。もっとも、役者稼業といえば超多忙で、今月3日公開の“Uターン”を皮切りに、ホワイト・ハウスが舞台の政治ドラマで大統領役のジョン・トラボルタと共演する“パーフェクト・カップル”を撮り終えたばかりの現在、ブルース・ウィルス主演のSF大作“アルマゲドン”へ出演中です。その後、ジョン・ブアマン監督("脱出"、"戦場の小さな天使たち")によるベスト・セラー小説を映画化したサスペンス“シンプル・プラン”でビル・パクストン("ツイスター")と共演するほか、ポスト“スリング・ブレード”監督作としては、コロンビア映画“オール・ザ・プリティー・ホーシズ”が有力視されています。ハンクスのような公私とも輝くスターもいれば、ソーントンに代表される不良っぽいスターも多いハリウッド映画界、私生活と役者稼業を別物として考えるシステムは、ハリウッドのいい面、悪い面、両方が浮き彫りとなってしまうようです。
軟 派
(1997年10月1日)
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