ディズニー・オンラインはここをクリックして下さい
(1998年5月16日)          




ゴジラは二度死ぬ

日本では、その長い人生(ゴジ生?)を閉じた“ゴジラ”が、間もなくアメリカで蘇ります。5月20日に全米公開されるこのアメリカ版“ゴジラ”は、一昨年の夏、3億ドルという史上8位のアメリカ国内収益を記録した“インディペンデンス・デイ”の名コンビ、ローランド・エメリッヒ監督、ディーン・デブリン製作だけに、この夏一番の目玉映画となりそうです。そして、日本で生まれた身長60メートルの怪獣が今回襲うのは東京タワーならぬニューヨークですが、その鼻息は荒く、今から恐怖を振りまいています。というのも、劇場が配給会社へ納めるのは、ふつう公開週の興業収益の70パーセントが相場です。しかし、夏休みの切り札“ゴジラ”を楯に強気のソニーは、前代未聞の80パーセントを要求しました。そもそも、スタジオ側が劇場と歩合交渉するパターンは2通りあり、パラマウント、ディズニー、ワーナーブラザーズ、MGM、ソニーは封切り後、20世紀フォックス、ユニバーサル、ドリームワークスは封切り前というのが業界の定説です。また、配給側の取り分は上映期間が長引くほど減り、5週目以降は劇場が収益の80パーセント以上を取ります。どちらかといえば、製作への投資分を回収しなくてはならない配給側と比べ、劇場に部のいいディールでした。ところが、最近のマルチプレックス(複数の劇場からなる映画館)や、さらなるメガプレックス(20以上の劇場からなるマンモス映画館)ブームの到来で、観客を惹きつけるため1本のヒット映画をいくつかの劇場で20分置きに上映するといった劇場へ、今度は配給会社が逆襲し始めたわけです。なんとしても夏のブロックバスター映画を確保したい劇場はソニー側の要求を呑まないわけにいかず、そこへ“タイタニック”の国内配給で笑いが止まらないパラマウントの影響もあって、ハリウッドは早々と“ゴジラ効果”が沸き起こっています。昨年のヒット映画“メン・イン・ブラック”の封切り時から早くも始まったキャンペーンではロサンゼルス市営バスの車体を丸々ビルボードに使ったり、ソニーが1億5千万ドルといわれる宣伝費を投入しながら、見せるのはゴジラの足、手、目だけ! どうやら「見てのお楽しみ」というのが狙いらしく、夏休み映画のライバル“アルマゲドン"、"Xファイル”や“プライベート・ライアン”への対抗意識も手伝っているのでしょう。商品提携作戦は万全の構えで、“ハーシー・チョコレート”の包装紙、ファーストフード・チェーン“タコベル”のマグカップ、“スワッチ時計”のデザイン、“デュラセル乾電池”のパッケージなどにゴジラの顔が登場するほか、25種類以上のアクション人形を発売と、“8億ドル映画”を目指すゴジラはどこまで暴れ回るか?





ハリウッド版“大人のオモチャ”


パームVオーガナイザー

スタータック
昔からハリウッド・プロデューサーや監督の間では、その時代を反映する小道具が流行ってきました。'50年代にトレンドとなったベレー帽、'60年代から今もなおファッショナブルなレイバン・サングラス、'70年代は会話を手軽に録音できる007ばりのマイクロ・カセット・レコーダーが重宝がられ、エージェントが台頭してくる'80年代は日程や電話番号などをアナログ記載するシステム手帳が登場して必須アイテムとなりました。そして、いま最もハリウッドのパワー・プレイヤーたちの間で人気のある“大人のオモチャ”といえば・・・・・・まず、日本上陸は失敗したものの、モトロラ社製の最新型超小型携帯電話“スタータック”が受けています。007シリーズの最新作“トゥモロー・ネバー・ダイ”で使用されたエリクソン社製セル(携帯電話/セルラー・フォンの略称)を遙かに上回る人気のほどは、映画セットやスタジオ内でプロデューサー・タイプが初期の“スタートレック”の要領でフリップして(開いて)いるのをよく見かけるばかりか、TVや映画でもたびたび登場するほどです。たとえば、“恋愛小説家"、"スクリーム2"、"ジャッキー・ブラウン”の電話場面へ「出演」したり、“ワッグ・ザ・ドッグ”ではロバート・デ・ニーロ演じるホワイトハウスの“トラブル・シューター”役の相棒(サイドキック)として「共演」しています。銀幕で登場する場合、当然ながらP・P(プロダクト・プレイスメント→商品提携)の世界ですが、小型でルックス抜群の小道具なので、使用するスターたちの反響も上々らしく、“ワッグ・・・”で頻繁に電話を使う役どころのデ・ニーロなど、自らスタータックを要求して“フリップ技”を磨いたほどです。小道具といえば、もう1つ人気上昇中の3Com社製“パームVオーガナイザー"、これはパーム、つまり掌(てのひら)へスッポリ入る大きさの小型P・D・A(パーソナル・デジタル・アシスタント)で、住所録、スケジュール帳、メモ帳の役目を果たすほか、電子メール・ボックスやゲーム・ボーイとしても役立つ優れ物。自分のニーズに合わせてソフトをカスタマイズすれば、収集したデータを自宅のPC/Macへ簡単にリンクしたり、その逆でPC/Macから脚本や撮影など膨大な情報をインプットして手軽に持ち歩けます。一昔前、アップル社が開発しながら実用性を欠いたため失敗したニュートンと似ていますが、価格は約3分の1でより使いやすく、ポケット・サイズのコンピュータとしてプロデューサーやエージェント・タイプへ重宝されているわけです。ともあれ、今ハリウッドで最もホットな“パワールック”といえば、胸ポケットにパームVオーガナイザー、腰にスタータックの“2丁拳銃(?)”が主流でしょうね!





スター・ウォッチ

1年余りの長丁場で撮影の幕を閉じた“アイズ・ワイド・シャット"、今では重厚味さえ出てきたスーパースター、トム・クルーズのスリラー演技が待ち遠しいところです。共演の愛妻ニコール・キッドマンは、サンドラ・ブロック("スピード2")と共演の新作“プラクティカル・マジック”がクランクインした一方、トムは次作を検討しながら休暇を過ごしています。その彼がとくに気を引かれている企画は、ポール・ワトキンスの“イン・ザ・ブルーライト・オブ・アフリカン・ドリームス”という歴史ドラマで、リンドバーグが大西洋単独横断飛行に成功する以前、同じことを計画していた男たち2人の夢を描いた叙事詩(エピック)です。トムのスケジュール調整さえつけば、名プロデューサー、デビッド・ブラウン("ア・フュー・グッドメン"、"セイント")製作で製作される模様。その他、現在脚本待ちの“ミッション・インポッシブル2”は、ジョン・ウーが監督します。また、1942年度作のリメイク版“アイ・マリード・ア・ウィッチ”は、タイトル通りタイムトラベルしてきた魔女と結婚する男の物語で、トムとニコールの再共演候補作として企画中です。話題のスターといえば、次回3部作の第1弾“スターウォーズ・エピソードT”を22年ぶりで監督中のジョージ・ルーカスが、最近、それらの配給契約を交し注目されています。いよいよ来年5月に封切られる製作費1億2千万ドル、若きオビワン・カノービ扮するイワン・マクレガー("トレイン・スポッティング")主演の第1エピソードをはじめ、2002年、2005年に封切られる“エピソードU&V”の全世界配給権は、旧3部作を製作配給した20世紀フォックスが獲得しました。その見返りとしてルーカスは「完全なコントロール」、つまり彼のビジョンどおり製作する約束を取りつけています。また、創作面ばかりでなく財政面をコントロールすべく、全製作費をルーカス自身が出資し、フォックスは配給ネットワークのみを提供するという異例の契約内容です。劇場興業収益の12〜17パーセントが配給手数料という通例を覆(くつがえ)し、異例の7.5パーセントで合意を取りつけた上、玩具など商品類の肖像権もルーカスが保持する破格の条件なのです。次期3部作は10億ドルの利益が噂されるルーカス、まさに21世紀の“宇宙の帝王”となりつつありますが、あの“スターウォーズ”を初めて見た時の新鮮な感動を、新時代のビジュアル、オーディオのセンスを駆使したルーカスの感性で、どれだけスケールアップしてくれるのでしょうか!?





日本の影響?


ナイキCMを製作中
のジョン・ウー監督

コーエン兄弟製作
ホンダ自動車CM

一昔前はCMへ顔を出すことが落ちぶれたと解釈されるアメリカでは、まず売れっ子スターをTVコマーシャルなどで見かけませんでした。日本の場合、めぼしいハリウッド・スターのほとんどがCMで登場しているのは、日本国内のみの限定条件付契約だと思って間違いありません。それが変わり始める最初の兆候は、マイケル・ジャクソンやマドンナがペプシのCMなどへ出たあたりでしょう。それからも映画関係者からは相手にされなかったTVコマーシャル業界が、ここしばらくは雲行きが変わり、超大物映画監督が大作の合間に話題のCMを手がけるのはトレンドとさえいえるぐらいです。たとえば、製作費1億ドルのブルース・ウィリス主演作で「地球最後の日」を救う救助隊の活躍を描いた冒険アクション“アルマゲドン”を撮り終えたマイケル・ベイ監督("ロック")が、現在マクドナルドCMを撮影中です。このCMは“アルマゲドン”製作スタジオのディズニーと商品提携(タイアップ)し、今夏マクドナルドが展開するキャンペーン用でありながら、予算や撮り方はまったく異なる舞台設定で、どのようなCMが仕上がるのか注目されています。また、香港シネマから見事ハリウッドのアクション監督へ変身を遂げたジョン・ウー監督("フェイス/オフ")はナイキのCMを手がけており、サッカーのブラジル代表チームをモチーフにした渋い仕上がりです。現在数種類のバージョンがTVや映画館で放映中。その他にも“ファーゴ”など一風変わった作風で知られるコーエン兄弟が、オリンパス・カメラ、バッドワイザー、ホンダ自動車などの異色のCMを製作したり、“チェシング・エイミー”で注目された若手の鬼才ケビン・スミス監督のダイエット・ペプシCM は、長野オリンピック中継で放映され好評を博しました。常に新しい感覚が要求されるTVコマーシャルの世界では、画期的な感性を持つダグ・ライマン("スインガー")など引っ張りだこで、フォルクスワーゲン、エアーウォーク、リーバイズなど大手企業CMを次々と手がけ、映画よりもCM監督の方が忙しいぐらいです。「宣伝広告こそ、その時代の芸術」といわれるほど社会背景を反映するだけ、コマーシャル製作を新ジャンルとして開拓する動きも激しくなってきています。クエンティン・タランティーノと彼の共同プロデューサー、ローレンス・ベンダーの映画製作会社“バンド・アパート”では、早々とコマーシャル専門の製作会社“バンド・アパート35mm”まで立ち上げ、ジョン・ウーやロバート・ロドリゲス("デスペラード")と契約を結んでいる他、ホラー系CMの監督を希望するウェス・クレイブン("スクリーム")も大手企業と折衝中。数日間の撮影で相場が6万ドル、ジョン・ウー・クラスは100万ドルといわれる破格の監督料ばかりか、数秒間のカットを巧みな編集で30秒間の作品として仕上げる芸術性が人気の秘密でしょう。「美術館で芸術を鑑賞するより多くの人がTVコマーシャルを見る」という統計どおり、いろいろな意味で世相を反映させながら自分のスタイルをマス・アピールできる点は、日本人ならお馴染みのようにTVが最高かもしれません!





「ハリウッド最前線」お薦め「注目のスター」

低予算映画“スウィンガー”で一際光ったビンス・ボーンが“ロストワールド”へと飛躍したように、無名時代から存在感のある俳優は数年でスターへ成長するケースが多いものです。そんな観点から、いま僕はスキート・ウルリッチという変な(?)名前の28歳の男優に注目しています。現在、マシュー・マッコナヒー("コンタクト")、イーサン・ホーク("ギャタカ")との共演作“ニュートン・ボーイズ”で、1920年代の実在の銀行強盗兄弟を演じており、悪人ながらも憎めないほど控えめな末っ子ジョー役が印象的です。1996年、予想外のヒット作“スクリーム”で殺人鬼と化すボーイフレンド役を熱演したのも記憶に新しく、今年のヒット作“恋愛小説家”ではオスカー候補グレグ・キニアー扮するゲイの絵描きを騙し、病院送りにしてしまうハスラー役が個性的な演技で光っています。ノース・カロライナ州出身のスキートは、有名な劇作家/脚本家デビッド・マメット("ワッグ・ザ・ドッグ")が主宰する由緒あるニューヨーク劇団アトランティック・シアター・カンパニーで演技を磨き、シャロン・ストーン主演作“ラストダンス”や、神憑(かみがか)りな治癒力を発揮する若き牧師役の“タッチ"("ジャッキー・ブラウン”の原作者エルモア・レナード小説を"アメリカン・ジゴロ"、"レイジング・ブル"の名脚本家ポール・シュレイダーが脚色)などで頭角を現わしてきました。昨年、結婚したイギリス人女優ジョージナ・ケイツ("恋する予感")との共演作“スイートハーツ・オブ・ザ・ソング・トラボング”は、ティム・オブライエンの短編小説を映画化したもので、ベトナム戦争の犠牲になった若い夫婦の絆を描いた話題作、今年の封切り作です。そして、いま撮影中の南北戦争が背景となった悲劇“トゥー・リブ・オン”は、“アイス・ストーム”や“いつか晴れた日に”で手腕を発揮した台湾人監督アング・リーの意欲作と、彼が選ぶ企画は「商業主義」と一歩距離を置き、「自分の演技力を発揮できる作品」へポイントが絞られており、その「職人肌」は魅力の1つといえます。父親も叔父もレースカー・ドライバーの南部育ち、そんな境遇と裏腹に、現在スキート夫妻が住むのはバージニア州の人里離れた片田舎です。最寄りの店まで30キロといえば、どれだけ彼らがハリウッドやニューヨークの雑踏から離れたカントリー・ライフを大切にしているかおわかりでしょう。若いながらもハリソン・フォード風(ワイオミング州在住)の生き方を楽しむスキート、数年前までは「ジョニー・デップ("フェイク")に似た奇妙な名前の奴」と言われたほどですが、もちろん本名ではありません。ブライアンというれっきとした本名がありながら、名前を変えたそもそもの由来は・・・・・・リトルリーグで野球をしていた少年時代、監督が「あいつは、まるで蚊(モスキート)のように動き回る選手だ」と言って以来、“スキート”の愛称が定着したとか。若き実力派、スキートの今後に注目!!




(1998年5月16日)

Copyright (C) 1998 by DEN Publishing, Inc. All Rights Reserved.