映画とメイド・イン・ジャパン
先日の新聞で自衛隊員が89式小銃を使って対テロ訓練という記事が載っていた。しかし、読者の大半はこの5.56mm口径の小銃がどういう形状か思い浮かばないのではないだろうか? その点、米軍の制式採用するM-16など「ゴルゴ13」までが使っており、火器に興味はなくて名前を知らないかたでさえ、なんとなく見覚えがあると思う。
89式小銃は写真のとおり通常の銃床(ストック)と折りたたみ式の2タイプがあり、ここ半月ほどは自衛隊のイラク派遣が決まった影響で、ようやくマスコミも週刊誌などへ写真を掲載するようになった。ただ、いくら掲載されようと89式へ目を留める読者は数えるほどしかいないだろう。
自衛隊が制式採用する2タイプの89式小銃まして、M-16の原型アーマライトの姉妹器であるAR-18をライセンス生産していた豊和工業がそれを元に開発した自動小銃であることはもとより、1989年に陸上自衛隊が制式採用し、豊和工業へは89式1挺あたり約30万円の代価を(国民の税金から)支払っていようと、しょせん他人事かもしれない。
どれぐらいの原価率なのか知らないが、本来、アーマライトのようにプレス加工を多用すると生産効率は上がり、アメリカでM-16の原価が1挺約2万円、ロシアのAK-47やその中国製ライセンス版に至っては1挺約5千円(最新型のAK-74でさえ1万円少々)という現実とのなんたる開き!?
こういった状況なので、まさか89式がエンターテインメントの世界へ登場しないだろうと思いきや、案外そうでもないのだ。たとえば、「最終兵器彼女」、「西武新宿戦線異状なし」、「ジパング」他、数多くの漫画では前記2タイプの89式が活躍しており、映画の場合も「ガメラ2」と「ガメラ3」では自衛隊員がしっかりと89式を持って現われる(ちなみに、89式の安全装置は安全の「ア」、単発の「タ」、連射の「レ」、3発連射の「3」と4ポジションがあり、そこから付いた愛称「アタレ銃」というのは、なんともはや他力本願の世界で情けない)。
銀幕(スクリーン)へ登場する「メイド・イン・ジャパン」としてはまだまだマイナーの89式と比べ、メジャーに進出してがんばっているのが自動車だ。日本車全体のレベルは世界市場でトップから遅れをとっていた38年前、トヨタの開発した2000GTはスピードトライアルで数々の記録を作る他、「ボンド・カー」への採用が決まった。
「007は二度死ぬ(1967年)」
で登場するトヨタ2000GT
急拠、撮影用に改造された2台のオープンカーは、過酷なチェイス・シーンでの安全性を考慮してボディーが補強されたものの、フロントガラスは形状が変わったためガラス製では時間的な無理があり、アクリルで作られている。アクリルを採用したもう1つの理由は、前からの撮影でガラスが入っていると光を反射して俳優の顔はよく見えず、それがアクリル製だとフロントガラス自体を取り外し易いわけだ。ちなみに、いま改めて「007は二度死ぬ」を見ると、同じスポンサーのトヨタが提供した当時の新車ながら、チェイス・シーンで追われる2000GTと追いかけるクラウンでは歴然とした開きある。片や38年前の古さを感じさせないスポーツカー、片や過去の遺物と、その差は感嘆せずにはおれない。
ボンド・カーとして映画の撮影が終了した翌1967年5月、2000GTの市販が開始され、この年はメーカー各社が欧米に向け輸出へ力を入れようとした年でもあり、高品質、高性能な車を輸出して現地で高い評価が得られれば量産車の輸出によい影響があるとみたトヨタは、輸出に先立って欧州各国のモーターショーへ2000GTを出展する。
1967年1月にベルギー・ブリュッセル、2月にオランダ・アムステルダム、3月にスイス・ジュネーブ、4月にアメリカ・ニューヨークの各モーターショーへ出品し、5月にはカナダ・モントリオールで開催された万国博へも出品された。それが効を奏し、海外での2000GTの販売は1968年に64台、1969年に43台、1970年に66台と、総生産台数の過半数を占める計173台が輸出され、最終的に販売台数の一番多かった国はアメリカだ。
それ以外にも、当時2000GTは海外のレースで活躍している。アメリカのSCCAレースへ出場するため、カリフォルニアにあるシェルビー・レーシングに送られた3台の2000GTは、エンジンまわりやブレーキを改良し、ホイールも純正マグネシウムを使ってワイド化され、その結果150馬力の市販車がベースになっているにもかかわらず、レース仕様車は200馬力を超えた。
パワーアップされた2000GTが、1968年のSCCAレースで1位2位同時入賞3回、2位4回、3位4回、4位1回、失格1回と、なんと全14戦中12戦で3位以上という好成績を収め、海外でも高い評価を受けることになった34年後の2002年、トム・クルーズ主演のスティーブン・スピルバーグ作「マイノリティー・レポート」では同じトヨタでも輸出ブランドの「レクサス」がやたら目立つ。
「マイノリティー・レポート(2002年)」
で登場する未来のレクサス(トヨタ)もっとも、この映画は近未来が舞台となっており、登場するレクサスも架空のものだから、正確にはアメリカ製の「メイド・イン・ジャパン」だ。もちろん現実の日本車も負けてはおらず、「ワイルド スピード(2001年)」など、三菱、ホンダをはじめとする様々な日本車オンパレードの感があった。かつて、そんな状況を映画関係者のいったい誰に予測できたであろうか!?
市場占有率では四輪車を凌ぐ二輪車の場合、世界4大メーカーがホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキと、すべて日本のメーカーであり、当然ながらそれらも銀幕(スクリーン)へ登場している。しかし、「イージーライダー(1969年)」といえばハーレーダビッドソンのチョッパー、「マトリックス リローデッド(2003年)」といえばドゥカティ996ほどのインパクトを残すには至っていない(ハーレーダビッドソンやドゥカティですら今や主要パーツの多くは「メイド・イン・ジャパン」なのだが)。
今後は「ワイルド・・・」の二輪版といったハリウッド映画が増えそうなので、日本のバイクもまだまだ活躍の場はあると思うが、願わくばそこへ集団でなくボンド・カーのような個々で勝負するパターンも加わってほしいものだ。トヨタ2000GTやドゥカティ996といったマシーン単位でなくメーカーやブランド単位の個々であれば、もちろんホンダはレクサス同様すでに名をなしている。
「メキシコGP(1965年)」
で優勝したホンダRA272
F-1レースの内幕を描いた名作「グラン・プリ(1966年)」で三船敏郎が演じた人物のモデルは本田宗一郎であり、チームのモデルとなったホンダは、その前年のメキシコGPでL・A(ロサンゼルス)出身リッチー・ギンサーの駆るRA272が初優勝を遂げたばかりだ。ホンダにとってF-1参戦以来念願の優勝というばかりでなく、このメキシコGPはF-1の排気量が1.5リッターから3リッターへ変更される前の記念すべき最終レースでもあった。当時、中学生で「カーグラフィック誌」を定期購買していた私は、メキシコGP特集記事に目頭が熱くなったのは今も忘れない。もっとも、ギンザーがどちらかといえばF-1では2流クラスのドライバーだと憶えていながら、彼がそもそも私の第二の故郷ともいえるL・A出身ということは今回の記事を書くため調べていて初めて知った事実である。
映画「グラン・プリ」ではフェラーリやロータスと比べ、なぜか実名こそ使われなかったホンダだが、ハリウッド映画で登場するメーカーやブランドには、やはりそれ相応の企業ドラマが秘められていることは間違いない。ホンダと並び世界中で知られているのが「ソニー」で、その企業ドラマはテーマから逸れる上、際限がなくなるので触れないとしても、ソニーは銀幕(スクリーン)へ登場する「メイド・イン・ジャパン」のブランドでお馴染みの1つだ。
中でも印象的だったのが先の「007は二度死ぬ」で、チェイス・シーンの途中、ショーン・コネリー扮するジェームズ・ボンドが2000GTへ内蔵されたビデオ無線機で丹波哲郎扮する日本政府の諜報機関長と連絡を取る。その時、ズームアップされたビデオ通信機のモニターには、くっきりと「SONY」の4文字が入っていた。
今でこそありふれたパターンも当時は珍しく、この場面(シーン)がやけに新鮮だったのを未だ憶えている。以来、ソニーのロゴは様々な映画で登場しているが、ここ数年、同じパターンで目立つのは「アップル・コンピュータ」だ。たとえば、「ミッション・インポッシブル(1996年)」のクルーズ他、数多くの映画で登場人物がアップルを使って宣伝するようになった原点も、案外「007は二度死ぬ」のソニーあたりかもしれない。
かくして、「華の都(ティンセル・タウン)」ハリウッドでは昔も今も「メイド・イン・ジャパン」が活躍し、人々へ夢を与えてきた。今回のテーマである「物」は、そのほんの一部であり、他にも黒澤明や小津安二郎などの「人」から今トレンドの日本製アニメといった「文化」までが幅広く映画へ貢献している。
去年後半は「キル・ビル−ボリューム1」や「ラスト・サムライ」のようなハリウッド製「チャンバラ映画」が封切られ「刀ブーム」とさえいえそうな中、「ラスト・・・」では渡辺謙がゴールデン・グローブの助演男優賞へノミネートと聞けば、日本人映画ファンの1人としてはやはり嬉しいものだ。今後ますます期待できそうな「メイド・イン・ジャパン」・・・・・・お互い、その一部である以上、映画業界に係わりがあろうとなかろうと、まずは今年もがんばりましょう!
陸上自衛隊の高機動車
ところで、米軍の戦闘車両が市販されて成功した「ジープ」や「ハンビー(中でも新しいH-2でなくH-1)」のパターン同様、今月イラクへ自衛隊と共に派遣されるはずの戦闘車両(高機動車)は、もし買えるものなら私などまずディーラーへ走るが、あなたの場合はいかがですか?
横 井 康 和