映画とベッド


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「ハニーVS.ダーリン
2年目の駆け引き」
 長年ハリウッドで生活をしていると、日本へ帰るたびに再認識させられるのが、ベッドのサイズとバスタブの形状の違いである。日本だと国土事情からどうしても前者の場合は小さ目のベッドか布団、そして後者の場合は場所を取る欧米の棺桶型でなく胎児型が主流だ。当然ながらライフ・スタイルの違いは映画へも反映される。それぞれが違う世界を作り出す。

 そこで今年最初のエッセイは、まず「ベッド」をテーマにお届けしたい。少し前の映画だが、「ハニーVS.ダーリン 2年目の駆け引き(2006年)」をご覧になったかたはおられるだろうか? あの映画で共演後、私生活でのロマンスが一時マスコミを賑わせたジェニファー・アニストンとヴィンス・ヴォーン主演のロマンティック・コメディだ。

 野球場で知り合ったゲリー(ヴォーン)とブルック(アニストン)は、交際後すぐに共同で購入したマンション(コンド)で同棲生活をスタートする。それから2年、少しずつ相手の細かいところが気になり始め、ある日とうとう些細なことから大喧嘩、そのまま同棲を解消してしまう。しかし、マンション(コンド)が売れるまではお互い行くところもなく、結局別れた後も同じマンション(コンド)をシェアしながら別々の生活を続ける2人だったが・・・・・・

 マンション(コンド)をシェアする2人は、中央へガムテープの境界線を引いてベッドもシェアする。もちろん映画の世界の出来事であり、現実の世界ならこうもいくまい。ただ、別れた2人がマンション(コンド)をシェアするなら、ベッドをシェアするのはしかたないのがアメリカの国情であろう。日本の場合は、それぞれがどこにでも布団を敷いて寝れば済む。
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「ALWAYS
続・三丁目の夕日」

 たとえば「ALWAYS 続・三丁目の夕日(2007年)」では、鈴木オートに住み込みで働く星野六子(堀北真希)と、親が破産してしばらく鈴木家で預かることになった生意気な親戚の子、鈴木美加(小池彩夢)は同じ部屋で枕を並べて寝る。だからこそ2人の触れ合いがあり、もし触れ合いを拒絶したいなら、廊下へでも布団を持って出ればよく、したがって「ハニーVS.ダーリン・・・」のようなガムテープで境界線を引く必要はない。

 つまり、ベッドと比べて駆動性が日本古来の寝具の特徴だ。その点、欧米のベッドはかさ張る反面、本腰を入れて眠れる。日本へ帰国するたび、ホテル以外のどこであれハリウッドの自宅が懐かしく感じられるのは寝る時に他ならない。ただ、学生時代スキー部へ入っていた関係上、かなりの時間を信州をはじめとするスキー場の民宿で過ごし、炬燵(こたつ)を中心として放射状に布団を敷いて寝た記憶が懐かしく思い出される。あれこそ布団ならではの醍醐味だろう。

 話は逸れるが、信州といえば21歳の誕生日を間近に控えた1972年初春、スキー場でしばらく過ごした私は東京へ向かった。当時、桑名正博と「ファニー・カンパニー」というロック・バンドを組んでおり、そのTV録画か何かの仕事のためだ。スキー場で一緒だった友人が、たまたま東京へ車で行くというので私も同乗させてもらうことになり、軽井沢を通り過ぎる頃、何やら騒々しかったのを憶えている。しかし、まさか映画「突入せよ! 「あさま山荘」事件(2007年)」の世界が、その時展開していたなどと知る由はない。
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「ライセンス・トゥ・
ウェディング」

 話を戻し、ベッドが登場する映画で次に思い出すのは「ライセンス・トゥ・ウェディング(2007年)」だ。教会が定める結婚準備講座を受けることになったカップルが変わり者の牧師から課された奇妙な課題に振り回されるラブ・コメディで、出演はロビン・ウィリアムズ、マンディ・ムーア、ジョン・クラシンスキー他、「旅するジーンズと16歳の夏(2005年)」のケン・クワピスが監督を務めている。

 愛するベン(ジョン・クラシンスキー)からプロポーズを受けて幸せいっぱいのサディー(マンディ・ムーア)、彼女の夢は一家が通う教会「聖オーガスティン教会」で伝統的な結婚式を挙げることだが、そのためにはフランク牧師(ウィリアムズ)が考案した「結婚準備講座」を受講しなければならない。しぶしぶ了承したベンとサディーながら、そこで待ち受けていたのは奇妙奇天烈、無理難題の課題の数々だった・・・・・・

 フランク牧師が間に立ちはだかった2人の様子は、ポスターを見るだけでもよくわかる。これが、もし布団文化の国であれば、そうはいかない。もちろん、どちらがいいとか悪いとかいう問題ではなく、長年1.52×2.13メートルのベッドで寝ている私の場合、日本でそれより小さいベッドか布団だと寝苦しいし、逆に布団で寝慣れた人がベッドだとどうも寝難いということもあるだろう。こういった個人差は、映画を見る時も同じだ。
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「うなぎ」

 「楢山節考(1983年)」の今村昌平が「黒い雨(1989年)」以来8年ぶりに監督し、第50回カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した「うなぎ(1997年)」では、やはり布団が登場する。かつて妻の浮気に逆上し彼女を殺して以来、極度の人間不信へ陥った山下拓郎(役所広司)は、仮出所後、理髪店を営みながらも人々との交流を避け、本音を明かす唯一のパートナーとして「うなぎ」を選ぶ。ある日、河原で自殺をしようとする服部桂子(清水美砂)を助けた山下は、桂子から恩返しにと理髪店の手伝いを申し出られて渋々雇うことにするが・・・・・・

 妻の浮気シーンであれ、それ以外の寝ているシーンもすべて寝具は昔ながらの布団である。この映画は、やはりベッドより蒲団が似合う。いっぽう、「うつつ(2001年)」など生活の場へベッドが登場する邦画もあるにはあるが、洋画で登場するベッドと比べ、今いち生活の匂いを感じ取れない。そこに布団のような生々しさはない。
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「ベンジャミン・バトン
数奇な人生」

 その点、F・スコット・フィッツジェラルドの短編小説を「セブン(1995年)」のデヴィッド・フィンチャーが映画化した「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」など、ベッドシーンへ日常性が溢れている。第一次世界大戦時から21世紀に至るまでのニューオリンズを舞台に、80代で生まれ、徐々に若返っていく男の数奇な運命が描かれたこの映画は、フィンチャー監督作へ3度目の主演となるブラッド・ピットが主人公ベンジャミン・バトンを演じ、共演は「バベル(2006年」でもピットと顔を合わせたケイト・ブランシェットだ。

 80代の男性として誕生し、そこから徐々に若返っていく運命のもとに生まれ、誰とも違う人生の旅路を歩むバトン。時間の流れを止められず、誰とも違う数奇な人生を歩まなくてはならない彼は、愛する人との出会いと別れを経験し、人生の喜びや死の悲しみを知りながら、時間を刻んでゆく・・・・・・と、様々な映画がある中で、寝具一つとっても、その背景へはそれぞれの文化が潜んでいるのである。そこで次回は引き続き、「映画とバスタブ」について語りたい。

横 井 康 和      


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