プラベート・ディナー
ジェームズ・パターソンの小説では、よく実在のレストランが登場します。以前この「イート・イン・スタイル(レストラン・ガイド)」で取り上げた「Angelini Osteria」などもその好例です。また、今月の「ブックマーク(書評)」でご紹介しているパターソンとマキシン・パエトロの共著「プライベート:#1サスペクト」に至っては、私自身の馴染みの店が3軒も出てきます。そこで今月は「プライベート・・・」で登場するレストランのうちの3軒をご紹介しましょう(便宜上、料理の写真へ番号を付けてありますが、これらの番号は店と無関係です)。
■Providence
Providence
www.providencela.com
5955 Melrose Ave., Los Angeles
323-460-4170まず最初は第68章で登場するフレンチ・レストラン「Providence」です。主人公ジャック・モーガンの運営するセキュリティ会社「プライベート」で彼のナンバー2、ジャスティン・スミスがジャックの双子の弟トミーと、このレストランで会います。彼女はジャックと敵対しているトミーへ誤解を抱かせないよう、「エレガントだがセクシーではない」Providenceを選び、まさにその表現がピッタリの店です。
Providenceと隣接したハンコック・パークは、ビバリーヒルズやベルエアが出来る前はロサンゼルスのもっとも高級住宅街であり、そのせいか昔から富裕層の客層をしっかりとつかんでいます。シーフードが有名な店で、単品を頼んでもよし、コース料理を頼んでもよし、後者の場合は「Sampler」といえば「おまかせコース」が出てくる上、料金的にもだいぶお得です。また、ワインの「Sampler」もあり、これは9品のコース料理へ合わせたワインが飲み放題・・・・・・ただし、高級フレンチ・レストランですから、いくら飲んでも量的には高が知れているでしょう。
とにかく、ロサンゼルスのフレンチ・レストランでは私自身が一番好きな店でもあり、パターソンの著書へ登場すると、読んでいて一層の臨場感を味わえます。パターソン・ファンと限らず、フレンチ好きの方なら、ぜひProvidenceへ!
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#5写真は左から「ダンジネス・クラブとレモン・ジェリー(#1)」、「メイン・ロブスター(#2)」、「スカロップ(#3)」、「子牛とスィートブレッドのブラック・トリュフ合え(#4)」、「キング・サーモン(#5)」、これらはコース料理の一部ですが、もちろん単品でも注文できます。
■Red O Restaurant
Red O Restaurant
www.redorestaurant.com
8155 Melrose Ave., Los Angeles
323-655-5009続いては第86章で登場するメキシカン・レストラン「Red O」です。ジャック・モーガンがセクシーなクライアントでデザイナー・ホテルを経営する「ジンクス」ことアメリア・プールと会う時、このレストランを選びます。2010年、メルローズ通りにオープンしたRed Oのシェフ、リック・ベイレスは全米のシェフ業界へ知れ渡った名シェフで、ここがオープンするまではシカゴまで行かないと彼の料理を食べられませんでした。
そもそも、名のある料理コンテストでメキシコ料理が優勝することはほとんどなく、ベイレスがメキシコ料理でコンテストを勝ち進んだ時も評論家たちは優勝するはずがないと決めつけたものです。それを横目に淡々と料理を作るベイレスの姿は清々しくさえありました。そして、優勝した彼が賞金をすべてチャリティーへ寄付したのは語り草となっています。
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#10写真は左から「アラスカン・ハリバットのセビーチェ(#6)」、「ブルー・シュリンプのトスターディアス(#7)」、「チキン・タマル(#8)」、「ホームメイドのチェリソ・ソーセージ・クェソ・フンディド(左)とポーク・ベリー(右)(#9)」、「エスプレッソとブランデー・トレス・レチェ・ケーキ(#10)」、トスターディアスの下に敷いてある大根のスライスがメキシコ料理としては新鮮です。
■The Bazaar
The Bazaar
www.thebazaar.com
SLS Hotel at Beverly Hills, 465 S. La Cienega Blvd., Los Angeles
310-246-5567最後は第105章で登場するスパニッシュ・レストラン「The Bazaar」、「プライベート」でジャック・モーガンのアシスタントであったコディ・ダウズがリドリー・スコットの映画の役をつかんで辞めることになり、その送別会をこのレストランで開くのです。いかにもハリウッドらしい設定といえます。
ラシェネガ通りのSLSホテル(元の全日空ホテル)1階へオープンしたこのレストランは、やはり全米のシェフ業界に知れ渡った名シェフ、ホセ・アンドレスがこれまでの経験を活かして立ち上げたということで、かなり注目を集めました。
超モダンな内装は過激で、カウンターのテーブルへ何台ものLCDモニターが埋め込まれてアブストラクトな映像を映し出したり、やや落ち着きに欠ける嫌いはあります。料理もユニークで悪くありませんが、選択を間違うと悲惨です。私の個人的な趣味だと、しょっちゅう行きたくなるレストランというより、状況によって人を連れて行きたくなる面白いバーといったほうがピッタリきます。したがって、「プライベート」のようなたっぷり予算のある会社で送別会を開く場所としては、いい選択かもしれません。
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#15写真は左から「クズイモで包んだグァカモレ(#11)」、「キング・クラブ(#12)」、「カプレーゼ(#13)」、「生うにとアボカドの蒸パン(#14)」、「フィリー・チーズステーキ(#15)」、最後のフィリー・チーズステーキはアメリカ産の和牛を使っています。
L・A(ロサンゼルス)でも由緒あるフレンチ、そして比較的最近オープンした話題のメキシカンやスパニッシュと、色とりどりのレストランを登場させるパターソンのセンスは、決して悪くありません。それらのレストランがストーリーのリアリティを高める大道具(プロップ)として成功しているのは、パターソンがレストランの空気を含めて正しく把握しているからでしょう。
じつは何作か前の彼の著書でマリブ方面にあるイタリアン・レストランが登場し、興味を持った私はその店まで食べに行ったことがあります。結果は、じゅうぶん満足できました。そういうスリラー作家って、いそうでいないのが現実ではないでしょうか? パターソンの今後ますますの活躍を期待したいと思います。
横 井 康 和