ボヘミアンの異国情緒


 モロッコ料理とはベルベル、スペイン、コルシカ、ポルトガル、ムーア、中東、地中海、アフリカの各料理の混合です。そのモロッコ料理が、フランス料理以外のものを食べて美味しくないフランスで、これだけは美味しいのも、それなりの理由があります。つまり、長い間モロッコはフランスの植民地であったため、モロッコ料理がいわばフランスの一地方の料理という感覚でパリジャンやパリジェンヌへ受け入れられたからではないでしょうか?

 やはり植民地であったベトナムの場合、距離が離れ過ぎており、また食文化も違い過ぎたので、ベトナムのフランス料理は発達しても、フランスにベトナム料理が根付くことはありませんでした。その点、フランスで定着したモロッコ料理が、より洗練されてゆくのは自然の流れです。幸い、そうしたモロッコ料理のレストランがロサンゼルスでも何軒かあり、今回はその中から3軒をご紹介したいと思います(便宜上、料理の写真へ番号を付けてありますが、これらの番号は店と無関係です)。

Cleo
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■Cleo

www.cleorestaurant.com
The Redbury Hotel, 1717 Vine St., Los Angeles
877-962-1717

 ヴァイン通りのキャピトル・レコード・ビル斜め向かいにある「Cleo」の名前の由来は、言うまでもなくクレオパトラです。その名のとおり、中近東と地中海料理をフィーチャーしており、言い換えるとモロッコ料理に他なりません。シェフのダニー・エルマレーは母親が日本人で父親がモロッコ人、生まれはイスラエルで幼少の頃を日本で過ごしています。

 アメリカへ渡ったエルマレーがハイドパークの料理学校「Culinary Institute of American」を卒業したのは1995年、その後、いったん日本へ戻り神戸北野のフレンチ・レストラン「ジャン・ムーラン(2001年に閉店)」で働くのです。それからイタリアへ渡った彼がミラノの「Ristorante Giannino」でしばらく腕を磨き、アメリカに舞い戻ったのが2001年のことでした。以来、サンタモニカのフレンチ「Melisse」や「Lemon Moon」を経て自らの店「Celadon」を出すも、評判は良かった反面、2年で閉めてしまいます。それから、SBCの運営するブレントウッドの「Katsuya」で総料理長として注目を集め、引き続き、やはりSBCと新たに出したのがこのCleoです。

 Cleoの料理へは、エルマレーがそれまで培ってきたノウハウのすべてが凝縮されています。ちなみに、モロッコ料理はタジーヌと呼ばれる円錐形をした土器でチキンやラムを蒸した料理が美味しく、レモンやデーツ、アーモンドなどを巧みに使うため一種独特の香りです。クスクスもパリのスタイルは、スープをたっぷりとかけて食べます。

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#1
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#2
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#3
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#4
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#5

 写真は左から「クスクス(#1)」、「帆立(#2)」、「海老とビーフのカバブ(#3)」、「茄子のフラットブレッド(#4)」、「牛の頬肉とタン(#5)」。ここのクスクスはパリのスタイルで、スープがまた洗練されていて美味しいんです。

Tagine Beverly Hills
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■Tagine Beverly Hills

taginebeverlyhills.com
132 N. Robertson Blvd., Beverly Hills
310-360-7535

 この「Tagine Beverly Hills」は、同じモロッコ料理でもCleoと比べ、だいぶ雰囲気が違います。ロバートソン通りでレストランやブティックの密集するメルローズ通りからサード通りの間でも比較的ひっそりとした場所にあり、ゆっくりと食事を楽しめる環境です。基本的にはコース料理(テイスティング・メニュー)がお薦めで、シェフのベン・タジンはモロッコで生まれ、モロッコで育ちました。

 タジンが料理へ興味を持ったのは、まだ幼い頃、キッチンで調理をしたりマーケットへ買い物にゆく母親へつきまとううち、それらの記憶が彼の頭の中でだんだんと大きな位置を占めるようになり、やがて料理への情熱に変化してゆくのです。そして、最後はモロッコからロサンゼルスへと彼を旅立たせます。

 母親のレシピが基本となったタジンの料理は、モロッコの伝統をトレンドに取り入れた彼独自のものであり、ハリウッドでパーティーや映画の撮影現場への出前(ケイタリング)を始めたのがきっかけとなって、多くの有名人の間で彼の料理は知れ渡るようになり、その有名人の1人が「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命(2012年)」や「L.A. ギャング ストーリー(2013年)」の主演俳優ライアン・ゴスリングでした。意気投合した彼らはロサンゼルスでこれまでなかった店を作ろうと話し合った結果、誕生したのがこのTagine Beverly Hillsなのです。

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#6
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#7
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#8
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#9
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#10

 写真は左から「ホムス(ヒヨコマメとゴマ油のペースト)とブレッドにオリーブ(#6)」、「トマトと胡瓜のタルタル(#7)」、「タイガー・シュリンプ(#8)」、「ラム、ホワイト・アスパラガス、ポテト(#9)」、「バクラバ(#10)」。金曜日と土曜日意外はコース料理の一部も単品で注文することが出来ます。

The Little Door
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■The Little Door

thelittledoor.com
8164 W. 3rd St., Los Angeles
323-951-1210

 この「The Little Door」はオープンから行ってますが、当初はモロッコ料理と知らず、フランス料理のわりに内装も含めてエキゾチックだなと思っていました。パティオが雰囲気のあるなかなかお洒落な店で、デートの時などぜひお薦めします。ただ、10年前と違って今は予約を入れないといけないのが、ちょっと面倒です。

 ダイニング・エリアは4つに分かれており、先ほどのパティオ、ウィンター・ガーデン、ピアノ・ルーム、ブルー・ルームと、それぞれがヨーロッパの田舎風で南カリフォルニアの気候と巧くマッチしています。日曜日だとフレンチ・モロッカン・スペシャルのコース・メニューがある他、クスクスはモロッコ料理の定番です。デートと限らず、くつろいだ気分で料理とワインを楽しみたいならこの店へ・・・・・・

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#11
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#12
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#13
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#14
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#15

 写真は左から「ロブスター・ビスク(#11)」、「帆立(#12)」、「ラム、チキン、その他のクスクス(#13)」、「ガーリック・ラム(#14)」、「ポット・ド・クレーム(#15)」。つい最近までここのフォアグラが美味しかったのに、もはやアメリカでは食べられません。

 デコアもお洒落で食器も高級、フレンチ・ワインと併せて楽しむフランス風モロッコ料理は立派なフランス料理といえます。余談ですが、フランスでモロッコ料理以外の外国の料理が美味しくないのは、イギリスと正反対です。たとえば、ロンドンでイタリア料理や中華料理やインド料理のレベルが高いのは、自国の料理がもともと美味しくないせいかもしれません。その点、フランスは逆で、自国の料理が美味しいため他国の料理への期待感は低いのでしょう。パリに行く機会があっても、イタリア料理や日本料理はなるべく避けたほうが無難ですね!

横 井 康 和      


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