映画と食いしん坊
ハリウッド・スターが、その役柄のため体重を減らしたり増やしたりするのは、以前「映画とウェイト・コントロール」でも触れたが、役柄とは関係なく、たんなる食いしん坊で太るケースも多い。そして、その太り方が半端じゃない場合、だいたい仕事は減ってゆくようだ。ただ、彼らが凄いのは、数十キロも太っておきながら、突如として元へ戻す意思の強さ・・・・・・もちろん、意思が強ければ最初から太らなかったとも言えることは言える。ともあれ、今回の「テーマソング(エッセイ)」では、そんな食いしん坊の代表選手を12人選んでみた。「十二人の怒れる男(1957年)」ならぬ「12人の太れる俳優」というわけだ。
まず最初の登場はヴァル・キルマー、トム・クルーズ主演作「トップガン(1986年)」でクルーズ演じる「マーベリック」のライバル「アイスマン」を演じた頃の彼が、次の写真の左側である。その後も、このイメージはしばらく継続し、「ドアーズ(1991年)」でジム・モリソン役を、「バットマン・フォーエバー(1995年)」でバットマンことブルース・ウェイン役を、「セイント(1997年)」でサイモン・テンプラー役を演じた他、数多くの映画で主演を務めてきた。それが、最近あまり名前を聞かなくなったと思えば、2年前には写真の右側の太り様! この状態がそれまで数年続いていたのを反省したのか、今年は激痩せし、ほぼ昔のイメージへ戻っている。専用のシェフがいるわけでもダイエット・ピルを飲んだわけでもなく、健康な食事と運動、中でもマリブの自宅付近の海岸を散歩した結果だとか。
1986年(左)と2012年(右)のヴァル・キルマー
1989年(左)と2009年(右)のクリスティ・アレイクリスティ・アレイが銀幕(シルバー・スクリーン)へデビューしたのは、「スター・トレック2/カーンの逆襲(1982年)」だった。バルカン星人サーヴィックを演じた彼女が、その凛々しい姿で世の男どもの注目を的となる。しかし、しばらく経つとかつてのセックス・シンボルだった彼女の面影は消え失せ、世の男どもから避けられるようになったのは、上の写真を見ると理解できるだろう。それでも少し痩せて、また太るを繰り返してきたアレイの場合、体重の変化があまりに激しいので、ヨーヨー並みと言われてきた。その彼女も60歳を迎え、50キロほど体重を落としたばかりだ。
「男たち(1950年)」で銀幕(シリバー・スクリーン)デビューしたマーロン・ブランドは、翌年「欲望という名の電車(1951年)」で一躍脚光を浴び、「革命児サバタ(1952年)」で早くもカンヌ国際映画祭主演男優賞を獲得する。その後、「波止場(1954年)」でのアカデミー主演男優賞およびゴールデングローブ賞の受賞をはじめ数え切れない賞に輝くなど、デビュー以来の活躍はめざましいものがあり、その功績から「20世紀最高の俳優」と評されているのはご存知のとおりだ。そんなブランドだが晩年はすっかり太ってしまい、若い頃の面影がまったくなかった。次の太った写真の翌2004年7月、肺の呼吸不全と心不全によって亡くなっている。
1951年(左)と2003年(右)のマーロン・ブランド
2001年(左)と2009年(右)のブリトニー・スピアーズ続いてのセレブリティは俳優でなく歌手のブリトニー・スピアーズ、16歳でシングル「ベイビー・ワン・モア・タイム(1998年)」でデビューし、全世界で915万枚の売り上げを記録した。そんな彼女がセクシー路線へ切り替わったのは、アメリカで650万枚、全世界トータル1,200万枚を認定した3枚目のアルバム「ブリトニー(2001年)」の時だ。以降、その路線を貫くも、2009年のツアーで見せた姿態がセクシーと呼ぶには厳しいものがあった。しかし、現在は20歳頃とまでいかないが、スリムな体型に戻っている。
「刑事ヒコ/法の死角(1988年)」でデビューした当時、36歳というスティーヴン・セガールは、武道家だけあって、その後の「ハード・トゥ・キル(1990年)」、「死の標的(1990年)」、「アウト・フォー・ジャスティス(1991年)」、「沈黙の戦艦(1992年)」の頃も40歳近くと思えない若々しい肉体を誇っていたものだ。それが、いつの間にやら一回り太くなり、「マチェーテ(2010年)」で麻薬王ロヘリオ・トーレス役を演じるセガールを観た時は驚いた。彼の場合、今も痩せそうな気配がない。もっとも、「DENGEKI 電撃(2001年)」ではジョエル・シルバーが役作りのため減量と髷を切るよう指示し、少しだけ痩せたが、続かなかった。
1990年(左)と2013年(右)のスティーヴン・セガール
2005年(左)と2011年(右)のジェシカ・シンプソンデビュー作「デュークス・オブ・ハザード(2005年)」のヒットで注目されたジェシカ・シンプソンは、いったいどうしたんだろう? あのスリムでセクシーだった彼女が、わずか数年で激太り、同一人物とは思えない変貌振りなのだ。もともと音楽のキャリアが先で、「デュークス・オブ・ハザード」でもナンシー・シナトラのカバー曲である主題歌「ジーズ・ブーツ・アー・メイド・フォー・ウォーキン」を歌ってヒットさせている。その後もアルバムとシングルは順調で、自ら立ち上げたファッション・ブランドが成功を収めた。そんなシンプソンは、太ったため映画の仕事がなくなろうと、あまり気にしていないようだ。彼女もセガール同様、一向に痩せそうな気配はない。
「サタデー・ナイト・フィーバー(1977年)」や「ステイン・アライブ(1983年)」の頃はセックス・アイコンとして知られていたジョン・トラボルタだが、30年を経た今や「変なおっさん」だ。'80年代の後半からしばらくは役に恵まれず、役者としてのキャリアが終わったといったん諦めていたトラボルタは、彼のファンだったクエンティン・タランティーノ監督のデビュー作「パルプ・フィクション(1994)」へ起用され、奇跡の復活を遂げた。それ以降、数々のヒット作に恵まれたが、以前のようなワンパターンでなく「変なおっさん」どころかミュージカル「ヘアスプレー(2007年)」では、主人公の母親役として6時間がかりの特殊メイクによる女装姿で出演している。
1983年(左)と2012年(右)のジョン・トラボルタ
1997年(左)と2012年(右)のマライア・キャリー歌手としてブレイクした1990年当初のマライア・キャリーは、その驚異的な音域とスリムな体型でファンを魅了し、その勢いが'90年代後半も続いていた。1999年には「プロポーズ」で銀幕(シルバー・スクリーン)デビューを果たして以来、10本近い映画へ出演している、先のスピアーズも2本の出演作があるものの、1本はカメオ出演だ。その点キャリーの場合、「大統領の執事の涙(2013年)」で主人公セシル・ゲインズ(フォレスト・ウィテカー)の母親役まで演じてきた。ただ、最近の彼女にかつての面影はない。
4歳から子役として活動し、1994年に「フォレスト・ガンプ/一期一会」でデビューしたハーレイ・ジョエル・オスメントは、1999年の「シックス・センス」で11歳ながらアカデミー助演男優賞へノミネートされ、天才子役の名をほしいままにしてきた。成人すれば大スターになるだろうと誰もが思ったはずだ。しかし、現実は予想とやや違っていた。演技力だけなら予想を裏切らなかったオスメントも、成長してからの外観が大スターのイメージとはかけ離れている。そのせいか、2013年の「ウォルター少年と、夏の休日」以降、TVやビデオゲームの声優を除いてほとんど名前を聞かなくなった・・・・・・と思いきや、去年(2014年)から再び銀幕(シルバー・スクリーン)へ復帰し、今年(2015年)はすでに決まっているだけでも5本の出演作が公開される予定だ。
1999年(左)と2013年(右)のハーレイ・ジョエル・オスメント
2008年(左)と2012年(右)のヒラリー・ダフヒラリー・ダフもやはり子役としてスタートし、独立プロ(インディー)作「ヒューマン・ネイチュア(2002年)」が(名前をクレジットされた)最初の映画出演となった。同じ頃に歌手としての活動を始め、着々とキャリアを築き上げてきたダフは、平行して体重も築き上げている。上の写真の右側が2012年、ちょうど「ヒラリー・ダフ in 恋する彼女はスーパースター」へ主演した年だ。この映画で披露している彼女の姿態と関係があるのかどうかはともかく、この後の2年間、3本の出演作があるのはすべて声優としての出演であった。
キアヌ・リーヴスが去年のカンヌ映画祭へ姿を見せた時は、誰もがその太り具合にショックを受けたようだ。かつての「スピード(1994年)」や一連の「マトリックス・シリーズ」での精悍なアクション・スターのイメージは、すっかり影を潜めていた。それまでの一時期、リーヴスがメジャーの仕事から遠ざかっていたは無理もない。それでもカンヌ映画祭の後、再び体重を絞ったのが去年(2014年)の10月全米公開されたヒット作「ジョン・ウィック(2014年)」で証明され、今年(2015年)はすでに出演作3本の公開予定が決まっている。
2004年(左)と2013年(右)のキアヌ・リーヴス
2002年(左)と2003年(右)のレネー・ゼルウィガー2002年の「シカゴ」で主人公のロキシー・ハートを演じたレネー・ゼルウィガーを知っているファンは、翌年の彼女を見て信じられなかったに違いない。2008年以前も「ブリジット・ジョーンズの日記(2001年)」とその続編(2004年)のため2度に渡って13キロほど体重を増やしており、それが癖になったのであろうか? 幸い今はスリムな体型へ戻っているゼルウィガーだが、今度はその美容整形が話題になったばかりだ。
以上の12人ばかりでなく、太ったり痩せたりするセレブリティは少なくない。普通の人間だったら太ろうが痩せようが見向きもされないところを、セレブリティというだけで騒がれるのだから因果な商売である。それでも、ショーほど素敵な商売はない ――― No Business Like Show Buisness! ――― 今年もこの「ハリウッド最前線」を、どうぞよろしく!
横 井 康 和