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なりきり演技
「シェイプ・オブ・ウォーター(2017年)」のサリー・ホーキンス(写真)と「6才のボクが、大人になるまで(2014年)」のイーサン・ホークが夫婦役を演じる「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」は、カナダの自然や動物たちを愛らしく描き、オークションでその作品が500万円以上の高値で落札されているカナダの人気画家モード・ルイスの人生をつづった2016年の作品で、絵と自由を愛した画家モード(ホーキンス)の人生を、最愛の良人エベレット(ホーク)との絆を軸に描いています。成功を収めたモードとエベレットが自宅でインタビューを受けるシーンで、板や紙だけでなく家中へ絵を描いたモードは、「彼(エベレット)が止めなかったから、どんどん増えたのよ」とほほ笑むいっぽう、ぶっきらぼうなエベレットは、「視線をカメラに、はいニッコリ笑って!」と指示されて仕方なく笑顔を浮かべるほか、「自慢の奥さんですよね?」とインタビュアーから問われると黙って下を向いてしまうのです。人懐っこいモードと武骨なエベレットのギャップが微笑ましく、ホーキンスのなりきり演技に観客もつられて、つい頬を緩めることでしょう。アシュリング・ウォルシュ監督曰(いわ)く、「エベレットと出会うまで、彼女の人生は大変でした。学校ではいじめられ、通りではやじられ、母親が勉強を教えていたのです。ですから、エベレットとの孤立した生活は、絵が描けるのであれば彼女へはなんの問題でもなかったと思います。もちろん冬の寒さが厳しいあの家に住み続けるのは大変でも、彼女は挑戦し続け、人を惹きつけた。TVの取材をされたり絵が売れてもライフ・スタイルを変えず、人生で幸せになったり何かを達成したりするため必要なことを教えてくれるのです」・・・・・・「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」は、ようやく日本でも今月(3月)3日から全国公開されます。
新記録
先月(2月)16日に全米公開された「ブラックパンサー(写真)」が、様々な新記録を樹立しています。まず、公開週末の全米興行成績は2億179万ドル(約240億円)と、2月公開作としても夏前の公開作としても史上最高です。また、黒人俳優(チャドウィック・ボーズマン)が主役、および黒人監督(ライアン・クーグラー)の作品でも、史上最高のオープニングを記録しました。本作は主要キャストのほとんどが黒人であり、それが単なるヒット映画を超えてカルチャー現象となっているゆえんです。物語の舞台はアフリカにある架空の国ワカンダ、他国からは発展途上国と思われていますが、じつは想像を絶するテクノロジーを持つ文明国家であり、「持つ国」は「持たない国」と分かち合うべきなのか? 真のリーダーとは何なのか? といった、現代社会へつながる問題にも触れています。幕開けがカリフォルニア州オークランドというのも偶然ではありません。1960年代に反人種差別、革命的社会主義などをうたうブラックパンサー党が結成されたオークランドは、グーグラー監督の出身地でもあるのです。公開週末、あらゆる街の上映館の前へアフリカの民族衣装ダシキを着たファンが列をなした中、オークランドでの騒がれ方は、とくに大きなニュースとなっています。そして、最もパワフルだったのが元ファースト・レディー、ミシェル・オバマの言葉で、4連休最後の19日、彼女は、「『ブラックパンサー』のチームの皆さん、おめでとうございます。あなたたちのおかげで、若い人たちがついに自分たちのようなスーパーヒーローをビッグ・スクリーンで見ることができました。私はこの映画が大好きです。この映画は、いろいろなバック・グラウンドを持つ人々へ、それぞれが置かれた状況でヒーローになってみせようという勇気を与えるでしょう」とツイートしました。
パイクのキュリー夫人
「ゴーン・ガール(2014年)」で知られるロザムンド・パイク(写真)が、ノーベル賞を受賞したキュリー夫人を演じる伝記映画「レディオアクティヴ」の配給へ、アマゾンが参入することになりました。マリ・キュリー夫人は放射線の研究で1903年ノーベル物理学賞を、1911年ノーベル化学賞を受賞した物理学者で、本作の基となっているのがローレン・レディネスによる伝記「レディオアクティヴ:マリ&ピエール・キューリー:テール・オブ・ラブ・アンド・フォールアウト」です。脚本はイギリス人のジャック・ソーンが手掛け、演出は第80回アカデミー外国語映画賞へノミネートされた「ペルセポリス(2007年)」の女性監督マルジャン・サトラピが務めています。製作はイギリスの制作会社ワーキング・タイトル・フィルムズと、フランスの制作配給会社スタジオ・カナルが行い、現在ハンガリーのブダペストで撮影が進行中です。今回新たに加わったアマゾンは、作品への共同出資により、フランス、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス5ケ国を除く全世界の配給権を獲得しました。内容に関してはサトラピ監督が、「才能のある女性の人生を描いた、ただの伝記映画ではありません。放射線の発見から今日へ至るストーリーを、発見当時のキュリー夫妻の人道的な姿勢と、現在の放射線の活用のされかたに対する周囲からの蔑視的な批判を含めて描いている」と語っています。共にノーベル賞を受賞した研究のパートナーでもある最愛の良人ピエールが馬車の事故で亡くなった後、キュリー夫人は2度目のノーベル賞を受賞しており、そんな彼女の一生を「人生、愛、情熱、科学と死」というテーマで描いているそうです。アマゾンが本作のような人間ドラマを描いた映画の配給権を得た結果、世界中の様々なプラットフォームで鑑賞しやすくなることを期待できそうです。
フリーマンは語る
先の「ブラックパンサー」に出演するマーティン・フリーマン(写真)が、数少ない白人キャストとして参加した本作への思いや、マーベル・ヒーローのドクター・ストレンジを演じるベネディクト・カンバーバッチについて語りました。「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016年)」から、CIA捜査官エヴェレット・ロス役でマーベル作品へ出演するフリーマン、「シビル・ウォー」ではほとんど出番がなかったのが、「ブラックパンサー」では国王とヒーローの顔を持つブラックパンサーことティ・チャラ一行と捜査の過程で行動を共にし、重要な役割を果たすのです。主演のチャドウィック・ボーズマンをはじめ、ほとんどのキャストがアフリカ系俳優、数少ない白人キャストとなったフリーマンは、「白人の俳優として、映画のセットで少数派であることはとても希なことだ。僕と(悪役で出演した)アンディ・サーキスぐらいさ。とても素晴らしく、興味深い経験だったよ。でも、特別な責任を感じるということはなかったね。役者なら誰もが映画やキャラクターへ責任を持ち、良い仕事をしたいと常日ごろ思っているものだ。今回もそれは変わらなかった」と俳優としての心構えを明かしています。そんな彼が人気ドラマ「シャーロック」でコンビを組み、「ホビット・シリーズ」で竜のスマウグを演じるカンバーバッチは「ドクター・ストレンジ(2016年)」でマーベル・デビュー、2人のマーベル映画における共演も期待したいところですが、「彼(カンバーバッチ)のドクター・ストレンジはとても素晴らしいけれど、共演するかどうかわからない。僕らが決めることではないしね。でもベン(カンバーバッチ)と会えたり、仕事をできたりするのは、いつだってとても嬉しいことなんだ」と語っています。
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(2018年3月)
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