国境の南


 前回のアルゼンチンからカリフォルニア州の国境の南へ飛んで、今回のテーマはメキシコ料理です。「国境の南」といえば、昔A&Mレコードの創設者でもあるハーブ・アルパートが出した同名のアルバムを思い出します。そのアルバム・カバーといい、アメリカ音楽へティファナ音楽のスパイスをまぶしたようなサウンドは、とてもエキゾチックな響きがありました。国境の北ロサンゼルスの今風のメキシカン・レストランは、そんなアルパートの音楽がちょうど似合いそうです。

 今回ご紹介するメキシコ料理のお店は、3軒とも比較的最近オープンし、個性的なところがロサンゼルスに昔から数多くあるメキシカン・レストランと違います。なお、ロサンゼルスのメキシカン・レストランなら、まずは名シェフ、リック・ベイレスの「Red O Restaurant」をご紹介したかったのですが、以前「プライベート・ディナー」で取り上げたので、そちらを参照して下さい(便宜上、料理の写真へ番号を付けてありますが、これらの番号は店と無関係です)。

PettyCash Taqueria
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■PettyCash Taqueria

www.pettycashtaqueria.com
7360 Beverly Blvd., Los Angeles
323-933-5300

 私が知る限り、去年(2013年)オープンしたメキシカン・レストランで、もっとも注目すべき店でしょう。以前ジョン・セドラーの「Plava」およびそれ以前のニール・フレイザーの「Grace」があった場所へ出来たこの「PettyCash Taqueria」は、ビル・チャイトがオーナーでセドラーは今もパートナーです。そして、「Test Kitchen」のオレハ・デ・セルド(豚の耳)・ナチョスで知られるシェフ、ウォルター・マンズケが一役買っています。

 Plavaのかつての内装はすっかり改装されましたが、基本的なレイアウトはそのままです。150席の店内の片側はグラフィティ・アーティスト、レウナの壁画が占めています。マーケティング資料によると彼らが求めていた雰囲気は、「1986年頃のティフアナ会議と2013年頃のイーストL・Aの合体」だそうです。

 PettyCashのメニューを見ると、マンズケとカンポスが自慢する屋台の食べ物の今風の解釈といった雰囲気で、中心はタコスといえます。しかし、同様に先のオレハ・デ・セルド・ナチョスを含む他のメニューも、しっかりとサポート役を務めており、アグアチレ・エン・モルカエテという海鮮鍋がお薦めです。また、ジュリアン・コックスの監修するカクテルは試してみる価値がじゅうぶんあり、ビールのセレクションも豊富で、メキシコのスピリッツ類へは特に注意を払う必要があります。

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 写真は左から「ホームメイド・チップにサルサが2種類(#1)」、「ルーフ・トップ・ベイビー・グリーン・サラダ。ドレッシングはアボカド・ライム(#2)」、「カンパチ・セピチェ(#3)」、「アグアチレ・エン・モルカエテ。海鮮鍋です(#4)」、「ディープ・フライド・ケサディアス(#5)」。アグアチレ・エン・モルカエテには熊本オイスターや貝や蛸やサンタバーバラ産の甘海老や、何しろいろんな材料がわんさか入っています。

Amor y Tacos Restaurant
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■Amor y Tacos Restaurant

www.amorytacos.com
13333 South St., Cerritos
562-860-2667

 ロサンゼルスの街中から少し離れたところにある「Amor y Tacos Restaurant」は、もともと中華料理屋「King Dragon」があった場所へ最近オープンしたばかりです。この新しいメキシカン・レストランのオーナー・シェフであるトーマス・オルテガは地元育ちで、幼馴染の1人にコスタメサの「渋長」のナガ渋谷がいます。セトリス高校卒業後、オルテガはパサデナの料理学校「カリフォルニア・スクール・オブ・カルナリー・アーツ」へ進み、1999年に卒業しました。

 その後、ニューポート・ビーチの「Aubergine」や、L・Aの有名なマイケル・シマルスティの「Water Grill」、「Lucques」、「Spago」、「Patina」などで働いたオルテガが、レドンド・ビーチへ自分の店「Ortega 120」をオープンしたのは2008年のことです。そして、パートナーのデミ・スティーブンスと始めたこの店の成功が、Amor y Tacosへとつながってゆきます。興味深いのは、オルテガの料理長を務めるのが、かつて「Guy Savoy」や「Joel Robuchon」のシェフであったエリック・カープその人に他なりません。

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 写真は左から「ポークベリーのバン・タコス(#6)」、「タター・トッツ(#7)」、「サウス・イースト・ドッグ(#8)」、「カマロン・セピチェ(#9)」、「各種タコス(#10)」。

Guisados
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■Guisados

www.guisados.co
1261 Sunset Blvd., Los Angeles
213-250-7600

 ボイルハイツの「Guisados(シチューの意味)」は、間違いなくL・Aで最も愛されるタコス・ジョイントの1軒です。先の2軒より少し早い2010年にオープンして以来、その自家製トルティーヤと相まって、健康的で心のこもった家庭的な料理がメディアから賞賛されてきました。店の原動力となっているのはシェフのリカルド・ディアスと長年不動産業界で働いてきたアーマンド・デ・ラ・トレスで、モントレーパークの「Dorados cevicheria(2006年後半)」および「Cook's Tortas(2008年前半)」も、彼らが背後にいます。

 ただ、彼らのパートナーシップは、デ・ラ・トレスが舵取りとなってGuisadosのエコーパーク店(ここでご紹介しているのはこの2号店)をオープンする前の2012年後半、解消されてしまうのです。結果として、ディアスがウィッティアでより高級なガストロ・パブ「Bizarra Capital」を自らオープンし、デ・ラ・トレスはダウンタウンへGuisadosの3号店を立ち上げました。

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 写真は左から「レングア。ビーフ・タンのタコス(#11)」、「カマロンズ。シュリンプ・タコス(#12)」、「チレス・トレアドス。ハラピニョ・タコス(#13)」、「チュレタ・エン・チリ・ヴェルデ。ポークチョップ・タコス(#14)」、「ステーキ・ピカード。ステーキ・タコス(#15)」。チレス・トレアドスは、メニューに唐がらしマークが6つ付いているだけあって、辛さは半端じゃありません。

 ロサンゼルスの街は、ご存知のとおりメキシコ人で溢れていますから、いたるところでタコス・ジョイントを見かけます。それこそ屋台のサイズの店から、冒頭で触れたRed Oのようなハイエンドな店まで、そのバラエティも豊富です。当然ながら当たり外れがある中、今回ご紹介した店なら間違いありません。さらに満足を得たい方は国境の南へ行くしかないでしょう。そして、もし国境の南へ行くのであればティワナも悪くありませんが、やはりバハ・カリフォルニア州のエンセナーダまで足を延ばしたいところです。

 最後にお断りしておきますが、日本でタコは、なぜか複数形の「タコス」で定着しているため、以上の表記もそれに習いました。

横 井 康 和      


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