映画とキャスティング(その3)


 以前、「映画とキャスティング」および「映画とキャスティング(その2)」では、オリジナル・キャストが製作の時点で変更された例をいろいろとご紹介してきた。この第3弾では少し趣向を変えて、主にシリーズの途中でキャストが変更されたパターンを見てみよう。いわば、キャスティングの「ビフォー&アフター」だ。

 初っ端は「ハルク」ことブルース・バナー、2008年の「インクレディブル・ハルク」でエドワード・ノートン(「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」)が演じた主人公バナー役は、続く「アベンジャーズ(2012年)」でマーク・ラファロ(「フォックスキャッチャー」)へとバントタッチされた。それまでスタジオ側とトラブルがありながら、ノートンはバナー役の続投を望んでいたのである。しかし、最終的にスタジオ側が選んだのはラファロであった。

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「ハルク」ことブルース・バナー
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ジム・ローズ

 同じ「アベンジャーズ」軍団で「アイアンマン」ことトニー・スタークの相棒ともいえるジム・ローズが初めて登場するのは、1作目の「アイアンマン(2008年)」だ。その時、テレンス・ハワード(「ヴィンセントが教えてくれたこと」)が演じていたローズ役は、「アイアンマン2(2010年)」からドン・チードル(「フライト」)へ交替し、最新作「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン(2015年)」まで続いている。

 業界内の情報によると、ハワードが一番最初キャスティングされ、ギャラは他のどの俳優より高かった。また、2作目で1作目のギャラより安く交渉し直すには遅すぎたらしい。そこで手っ取り早いのが別の俳優を起用することである。他の説としては、主人公スタークを演じるロバート・ダウニー・Jr.とハワードの相性が良くなかったともいわれている。どちらであれ、ハワードもチードルも申し分のない演技を披露しているのは確かだ。

 「アベンジャーズ」の男性キャラクターを2人ご紹介した次は、女性キャラクターへ登場願おう。「バットマン・ビギンズ(2005年)」で「バットマン」ことブルース・ウェインの幼馴染のガールフレンド、レイチェル・ドーズを演じていたのはケイティ・ホームズ(「ジャックとジル」)だった。それが続く「ダークナイト(2008年)」では降板し、代わってマギー・ギレンホール(「ホワイトハウス・ダウン」)がキャスティングされている。その理由は定かでないものの、ホームズがバットマン役のクリスチャン・ベイル(「エクソダス:神と王」)とロマンチックなシーンを演じるのを、当時の良人であったトム・クルーズ(「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」)が快く思わなかったというもっぱらの噂である。

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レイチェル・ドーズ
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ジェニファー・パーカー

 「バック・トゥー・ザ・フューチャー(1985年)」で主人公マーティ・マクフライのガールフレンド、ジェニファー・パーカー役を演じていたクローディア・ウェルズ(「スペース・トレイターズ 宇宙逃亡者」)は、母親が病気で2作目へは出られなくなった結果、エリザベス・シュー(「31年目の夫婦げんか」)が起用された。

 やはり「バック・トゥー・ザ・フューチャー」でマーティの父親ジョージ・マクフライ役を演じていたのがクリスピン・グローヴァー(「アリス・イン・ワンダーランド」)、彼はシリーズ1作目の後、マイケル・J・フォックス(「Disney's クリスマス・キャロル」)と同じぐらいのギャラを望んだものの、プロデューサーがあまりにも高いと判断した結果、降ろされてしまう。2作目からはジョージ役をジェフリー・ワイズマン(「ホーム・アローン」)が演じているのは、そんな理由からだ。

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ジョージ・マクフライ
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皇帝

 「スター・ウォーズ・シリーズ」で皇帝が登場するのは「帝国の逆襲(1980年)」が最初である。この時点ではクライブ・レヴェル(「Mr.ゴールデン・ボール/史上最低の盗作ウォーズ」)が声優を務め、演じたのはイレイン・ベイカーだ。それが続く「ジェダイの復讐(1983年)」ではイアン・マクディアミッド(「スリーピー・ホロウ」)へバトンタッチし、彼の素晴らしい演技を気に入った製作陣は、それ以降のエピソードでもマクディアミッドを起用し続けた。

 マーベル・コミックで「アベンジャーズ」軍団ともう一つのドル箱といえば、いうまでもなく「X-MEN」軍団だろう。そして、「X-MEN」軍団の中では単独でも活躍しているのがウルヴァリンこと(記憶喪失の間はもっぱらローガンで知られている)ジェームズ・ハウレットだ。もともとこの役をキャスティングされていたダグレイ・スコット(「96時間/レクイエム」)は、他の映画の予定がずれたため降板せざるをえなくなった。その結果、ヒュー・ジャックマン(「PAN〜ネバーランド、夢のはじまり〜」)の起用となり、以後、ウルヴァリンといえば彼のイメージで定着する。

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「ウルヴリン」ことジェームズ・ハウレット/ローガン
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「サイクロップス」ことスコット・サマーズ

 やはり「X-MEN」軍団の1人で「サイクロップス」ことスコット・サマーズ役も、当初はジム・カヴィーゼル(「大脱走」)が演じるはずだった。しかし、どうしてもスケジュールの調整がつかず降板し、代わってジェームズ・マースデン(「かけがえのない人」)のキャスティングとなる。なお、今回取り上げた12のキャラクターのうち、ウルヴァリン役とこのサイクロップス役、そしてこの後登場するアルゴルン役だけはシリーズの途中でなく、オリジナルの撮影開始の時点でキャストが変更された。

 「マトリック・シリーズ」3部作で登場するオラクル役は、グロリア・フォスター(「盗賊と馬と拳銃と」)が1999年の1作目「マトリックス」と2003年の2作目「マトリックス リローデッド」で演じている。しかし、2003年の3作目「マトリックス レボリューションズ」の完成前に惜しくも亡くなり、メアリー・アリス(「サンシャイン・ステイト」)が彼女の跡を引き継いだ。

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オラクル
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ジー

 「マトリック・シリーズ」のもう1人の登場人物ジーもまた、悲しいかなシリーズの途中で演じていた女優の死で交替を余儀なくされている。2作目でジーを演じていたのは、どちらかといえば歌手として知られるアリーヤ(「クイーン・オブ・ザ・ヴァンパイア」)だった。ところが、フォスターと同じく3作目の完成を待たず彼女は亡くなったため、代わってノーナ・M・ゲイ(「トリプルX ネクスト・レベル」)が(3作目の)ジー役を演じている。

 「ロード・オブ・ザ・リング・シリーズ」のアルゴルン役は、もともと何人かの男優が演じられないか、あるいはオファーを断った結果、スチュアート・タウンゼント(「カオス・セオリー」)がキャスティングされた。それで、いざ撮影は始まったものの、わずか数日後、彼がこの役には若すぎると製作陣が判断し、ヴィゴ・モーテンセン(「約束の地」)の起用となるのだ。

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アルゴルン
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アンバス・ダンブルドア

 「ハリー・ポッター・シリーズ」で欠かせないキャラクター、アンバス・ダンブルドア役を演じてきたリチャード・ハリス(「ケイナ」)が亡くなった時、跡を継いだのはマイケル・ガンボン(「カルテット! 人生のオペラハウス」)である。ただ、ハリスがあまりにもこの役へぴったりはまっていたため、周りは誰もがガンボンのダンブルドア役へ不安を抱いた。それも杞憂に終わったといわれながら、筆者としては未だ納得できていない。それだけハリスのダンブルドア役のインパクトが強かったのだろう。

 製作スタジオや共演者と合わなかったケースから、良人の嫉妬や家庭の事情、高すぎるギャラの要求、スケジュールの問題、撮影中の死など、キャスティングを変更せざるをえない理由が何であれ、昔からいうとおり・・・・・・"The Shaw Must Go On."(舞台は続けなくてはならない)

横 井 康 和      


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