映画と興行ダメージ


 映画俳優の実力や人気と、その俳優が興行成績へどれだけ貢献するかは、まったく別問題だ。驚くほど高額のギャラを稼ぎながら、結果として出演作の興行にダメージとなっている俳優が意外と多い。今回はそんなパターンの俳優を8人ご紹介しよう。ただ、一つだけお断りしておくが、興行ダメージは結果論であり、それが俳優の実力や人気を特定するものではないことをお忘れなく。

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ニコール・キッドマン
 ニコール・キッドマン(写真)といえば押しも押されもしないハリウッド女優であり、今年(2015年)だけでも「ストレンジャーランド」や「クィーン・オブ・ザ・デザート」の他、「ジェニアス」、「ファミリー・ファン」、「シークレット・オブ・ゼア・アイズ」の主演作3本が完成しており、来年度の作品は早くも編集段階(ポストプロダクション)へ入っている「ライオン」とあと2本が撮影準備(プリプロダクション)の途中である。

 しかし、興行面から見るとキッドマン主演作でもっともヒットした映画といえば1995年の「バットマン・フォーエバー」まで遡(さかのぼ)らなくてはならず、その後の40作以上が辛うじて製作費を回収できたか赤字という現状なのだ。

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ジョニー・デップ
 続いてはジョニー・デップ(写真)、その名前だけで主演作のヒットを保証されたと思われているだけあって、今年の主演作が「チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密」のあと3本完成している他、「アリス・イン・ワンダーランド(2010年)」の続編で来年公開予定の「アリス・スルー・ザ・ルッキング・グラス」および「パイレーツ・オブ・カリビアン・シリーズ」の新作で2017年公開予定の「パイレーツ・オブ・カリビアン:デッド・メン・テル・ノー・テールズ」は編集段階(ポストプロダクション)という忙しさ。

 そんなデップもキッドマンと同じく、興行面から見ると事情が違う。結局、観客は正直で、いくら話題作でも「ツーリスト(20101年)」や「ローン・レンジャー(2013年)」へほとんど興味を示さなかった。「トランセンデンス(2014年)」などよく出来た映画だと思うが、観客ばかりか映画評まで見事に拒絶反応を示している。

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キャサリン・ハイグル
 キャサリン・ハイグル(写真)が「無ケーカクの命中男/ノックトアップ(2007年)」の出演で受け取ったギャラは30万ドル(約3,600万円)だった。この映画がヒットした結果、次の「幸せになるための27のドレス(2008年)」で彼女のギャラは一気に20倍の600万ドル(約7.2億円)まで跳ね上がり、アシュトン・カッチャーとの共演作「キス&キル(2010年)」で1,200万ドル(約14.4億円)へ倍増と、いよいよ注目の人となるのだ。

 ハイグルがプロデューサーも務めた翌年(2011年)の「ラブ&マネー」では(プロデュース料込みで)1,500万ドル(約18億円)のギャラを記録するものの、「キス&キル」の興行的な失敗から立ち直れず、その後、10作近い彼女の主演作の中で黒字となったのは「ライフ・アズ・ウィ・ノウ(2010年)」のみであった。
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シャイア・ラブーフ

 「トランスフォーマー・シリーズ」の主演で一躍脚光を浴びたシャイア・ラブーフ(写真)の演技力が、それ以前から業界人の間で知られていたことは、デビュー当時のジェニファー・ローレンスの場合とよく似ている。この「ハリウッド最前線」でもローレンスが無名の頃から将来有望な新人として何度も紹介してきた。ラブーフしかりだ。しかし、ローレンスは「過去1年でもっとも稼いだハリウッド女優」へ成長したいっぽう、ラブーフが興行成績に貢献しなくなって久しい。

 「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国(2008年)」や「フューリー(2014年)」といった話題作へ出演し、存在感のある演技を披露しながら、「トランスフォーマー・シリーズ」の降板と共に「稼げる俳優」から取り残された感がある。

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クリステン・スチュワート
 クリステン・スチュワート(写真)は「トワイライト・シリーズ」ばかりでなく、山田洋次監督作「幸福の黄色いハンカチ(1977年)」のリメイク版「イエロー・ハンカチーフ(2008年)」、グリム童話「白雪姫」を大胆にアレンジした「スノーホワイト(2012年)」、ジャック・ケルアックの小説を映画化した「オン・ザ・ロード(2012年)」、そして主人公のアリス役を演じたジュリアン・ムーアがアカデミー主演女優女優賞に輝いた「アリスのままで(2014年)」など、多くの話題作へ主演してきた。ただ、「トワイライト・シリーズ」を除いて興行的にヒットしたといえる作品はない。
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ダニエル・クレイグ

 ダニエル・クレイグ(写真)もまた「ジェームズ・ボンド・シリーズ」を除くとヒットらしいヒットのない俳優だ。もともと「007/カジノ・ロワイヤル(2006年)」でボンド役へ抜擢されるまでキャリアは長いが脇役専門であり、その間ヒット作のないのはまだわかる。

 ところが、主演俳優として売れてからも「ライラの冒険 黄金の羅針盤(2007年)」は米国内の興行で失敗し、比較的低予算の「ディファイアンス(2008年)」はその製作費が回収できず、「カウボーイ&エイリアン(2011年)」に至っては悲惨であった。ベストセラー小説を映画化した「ドラゴン・タトゥーの女(2011年)」もヒットと程遠い。

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ジェシカ・ビール
 ジェシカ・ビール(写真)の主演作でもっともヒットしたのは「チャックとラリー おかしな偽装結婚!?(2007年)」だ。それ以外、近未来の架空の戦闘機が話題となった「ステルス(2005年)」、ニコラス・ケイジとの共演作「NEXT -ネクスト-(2007年)」、人気TVシリーズを映画化した「特攻野郎Aチーム THE MOVIE(2010年)」、先のキャサリン・ハイグルを含むオールスター・キャストの「ニューイヤーズ・イブ(2011年)」、リメイク版「トータル・リコール(2012年)」、アンソニー・ホプキンスのヒッチコック振りで評判だった「ヒッチコック(2012年)」などはすべてこけている。
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ライアン・レイノルズ

 「ウルヴァリン:X−MEN ZERO(2009年)」で「デッドプール」ことウェイド・ウィルソン役を演じたライアン・レイノルズ(写真)が、DCコミックを映画化した「グリーン・ランタン(2011年)」の主人公「グリーン・ランタン」ことハル・ジョーダン役へキャスティングされた時、周りはこの映画が大ヒットするだろうと思っていた。それは「ゴースト・エージェント/R.I.P.D.(2013年)」と時も同じだった。結果として2本とも興行が失敗したことはご存知だろう。

 他の多くの主演作もヒットらしいヒットをした映画がないレイノルズながら、彼の場合は来年(2016年)2月の全米公開を予定する「X-MENシリーズ」のスピンオフ「デッドプール」で再び主人公のデッドプール役を演じるため、それが成功すれば興行へ貢献できるスターになれるチャンスは残っている。そうでなければ、また「グリーン・ランタン」のパターンで終わるか・・・・・・?

 以上の他、しばらく前から興行ダメージのある俳優として有名なエディー・マーフィーとかニコラス・ケイジらもいるが、マーフィーは2012年から銀幕(シルバー・スクリーン)へ登場しておらず、それと対照的なのがケイジで相変わらず出まくっているものの、観客はもはや「ゴーストライダー・シリーズ」とか「ドライブ・アングリー3D(2010年)」など一部の映画しか観ない。最近めっきり少なくなった彼のヒット・シリーズの1つ「ナショナル・トレジャー3」が企画されているという噂もある。あと、メル・ギブソンは2006年に酔っ払い運転で捕まった際、ユダヤ人へ人種差別の暴言を吐いて以来、興行ダメージの権化のような存在となってしまった。

 もちろん、どの俳優にせよ、これから状況が変わる可能性はある。もとより映画の製作者側が興行を失敗させるつもりで製作するわけはない。たとえば、先のジョニー・デップ主演の失敗作も、彼が主演するからこそ資金が集まり、完成した。製作者側はヒットすると期待していたのが、たまたま失敗しただけだ。その「たまたま失敗」ばかり続こうと、デップに魅力のあるうちは製作者側も彼を使おうとするだろう。なんといっても夢を作るのがハリウッド業界であり、企画は失敗しても夢を抱ければ、ある意味で成功かもしれない。やはり、

 「No business like show business」・・・・・・ショウほど素敵な商売はないってわけだ!

横 井 康 和      


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