2009年総決算



画像による目次はここをクリックして下さい
マイクロソフトとグーグルのシェア

 今年はマイクロソフトの「ウィンドウズ・ビスタ」に代わる新製品「ウィンドウズ7」が登場したり、グーグルはグーグルで無償OS「グーグル・クローム」の開発を宣言してマイクロソフトへ挑戦状を突きつけた他、各社入り混じった「ブラウザ戦争」が激化するなど、IT業界は大きな変動期を迎えています。そこで、まず基本ソフト(OS)、ネット広告、ネット検索の各分野でシェアがどうなっているか現状を見てみましょう。

 右図のとおりOS分野はマイクロソフトが88パーセントでアップルが10パーセント、ネット広告分野はグーグルが25パーセントでマイクロソフトが4パーセントで(そしてヤフーが8パーセント)、ネット検索分野はグーグルが65パーセントでマイクロソフトが8パーセント(そしてヤフーが20パーセント)といったところです。このOS分野へ、来年の後半にはグーグルが参入します。

 また、マイクロソフトは出遅れていたネット検索でも今年から新サービス「ビング」(元の「ライブ・サーチ」)を立ち上げた他、昨年挫折したヤフーとの検索事業での提携がまとまり、米ヤフーではビングの検索エンジンを採用する予定です。もし、これが日本市場向けにも良いエンジンだと判断されれば、ヤフー・ジャパンで使われる可能性は出てきます。加えてヤフーがネット広告でもマイクロソフトのプラットフォームの採用を検討中であることを考えれば、右図のヤフーはマイクロソフトへ含んでいいのかもしれません。

 OSでわずか10パーセントのシェアに過ぎないアップルだって、'90年代の中盤、経営不振へ陥っていた頃、創設者の1人であるスティーブ・ジョブズが復帰し、'00年にCEOへ就任してからは、iMac、iPod、Mac OS X、iPhoneといった斬新な製品を次々とリリースして話題を呼び、多くの消費者の絶大な支持を得ています。それにビル・ゲイツが前線を退いたマイクロソフトと違って、ジョブズはまだまだアップルの原動力です。

 とにかく、こうした現状の中で次のメイン・イベントとなりそうなのがグーグル・クロームの登場で、IT業界の勢力図は塗り替えられる可能性だってあります。このグーグルが初めて開発に取り組んでいるクロームは、「オープン・ソース」と呼ばれる設計図に該当する基本情報が公開された「リナックス」をベースとして開発され、クローム自体も無償で提供される予定です。低価格パソコン「ネットワーク」向けのOSとして新興国のユーザーなどを含めた新しい利用者層を開拓し、ネットを閲覧する際の広告収入を増やす狙いとみられます。

 これまでOSや各種ソフトを開発し、それ自体を売って収入源としてきたマイクロソフトをはじめとする従来型の企業と一線を画すグーグルの攻勢に、マイクロソフトとてただ手をこまねいているわけではありません。先のビングやヤフーとの提携を含めて次々と対抗策を打ち出しており、クロームOSが発表された1週間後、マイクロソフトも自社のワープロソフト「ワード」や表計算ソフト「エクセル」などの総合ソフト「オフィス」の簡易版を来年から無償で提供すると発表しました。

 この「Web Apps」と呼ばれる簡易ソフトは、同じようなサービスを提供してきたグーグルへの対抗処置であり、サービスを無償で提供して自社のネットをより多く使ってもらい、より多くの広告収入を獲るというグーグルの事業モデルと同じ土俵に上がり、真っ向から勝負を挑むことになります。テスト用として10月から一部のユーザーへプレビュー版Web Appsの配布が始まっているのは、前回のコラムでご紹介したとおりです。ただ、マイクロソフトの一連のネット戦略だと、ネットを通じたソフトの無料配布が短期的には「収益機会を縮小させる」恐れがある他、無料化の浸透は自らの収益基盤を揺るがせ、これまでの事業モデルを根本から変えなくなるリクスをはらんでいます。

 こうして両者が激しく争う背景には、不況と寡占(かせん)という2つの問題があります。昨秋の金融危機をきっかけとして始まった世界的な不況は両社も直撃し、マイクロソフトの場合、今年の1〜3月期決算で'86年の上場以来初の減収を記録、続く4〜6月期と2四半期連続の減収減益となり株価が急落しました。ただし、'10会計年度第1四半期(7〜9月期)はウィンドウズ7の発売が影響して予想を上回る売上ながら前年同期と比べてわずかの減少なのです。

 いっぽう、グーグルも'08年10〜12月期決算で'04年の上場以来初の減収を記録、翌'09年1〜3月期は上場以来始めて前四半期比で減収へと落ち込んでいます。4〜6月期でやや上を向いたものの、2〜3倍の増益を続けた数年前までの破竹の勢いが失われました。マイクロソフトとも、それぞれ主力のOS、ネット検索事業で寡占(かせん)状態にあり、頭打ちです。成長戦略を描くなら、新たな収益源を獲得する以外ありません。新段階へ突入した両社の争いは、成長を維持するため負けられない戦いだといえます。

 年末が近づいた今も、マイクロソフトがウィンドウズ7を媒体としたブランド戦略支援プログラムの試験提供を開始したところです。これは「ウィンドウズ・テーマ・エクスペリエンス」と「ウィンドウズ・パーソナライゼーション・ギャラリー」の2つで、広告主がウィンドウズ7のデスクトップや閲覧ソフト(ブラウザ)の外見をカスタマイズし、ブランド・イメージの周知や浸透を図るものです。両プログラムは'10年10月まで試験的に実施されます。

 テーマ・エクスペリエンスではウィンドウズ7の背景とボーダー、OSのサウンドからインターネット・エクスプローラ(IE8)のアドオン、ウィンドウズ7およびビスタ対応のガジェット(ミニ・アプリ)に至る広範なスポンサ契約を用意し、「MSN」や「ウィンドウズ・ライブ」といったオンライン・サービスも対象として含まれる予定です。そして、パーソナライゼーション・ギャラリーでは広告主がウィンドウズ7の背景、スライドショー、ボーダー、アプリケーションの音声などをカスタマイズし、デスクトップ上でブランド・イメージの強化を図ることが出来ます。両プログラムで作成されたウィンドウズ用の設定ファイルなどは、ウィンドウズの追加機能を提供するウェブ・サイトでダウンロードが可能です。

 ちなみに、このマイクロソフトのブランド戦略支援プログラムを試験利用している企業の例としては、今のところイタリアのバイク・メーカー「デュカティ」、ドイツの自動車メーカー「ポルシェ」、日産の「インフィニティ」ブランド、米映画会社「20世紀フォックス」などがあります。さあ、来年はいよいよマイクロソフトのWeb Appsの無料配給が本格化し、グーグルも新しいOSクロームで勝負に出るなど、IT覇権(はけん)を巡る争いは山場を迎えるかもしれませんよ!


Copyright (C) 2009 by Yasukazu Yokoi. All Rights Reserved.

マイクロソフトの攻防戦 目次に戻ります iPad登場!