映画と結婚


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「幸せになるための
27のドレス」
 書籍であれインターネットであれ映画をデータベースの類で調べたり、購入あるいはレントするためのDVDをお店で捜したりする場合、けっこう役立つのがジャンルである。たとえば、まだアメリカの元祖「Yahoo Movie」など影も形もなかった1996年以来、全米でもっともヒットしている10本の映画を毎月レポートし続けてきた「ハリウッド・ベスト10」は、なるべくわかりやすいよう当初から一貫して最小限のデータに抑えてきた。

 具体的な項目でいうと、各映画の原題、製作/配給スタジオ名、ジャンル、主な主演俳優名、週末興業成績/総売上、劇場数/現在までの上映期間、オフィシャル・ページがある映画はそのリンクというライナップである。それ以上の詳しい情報が知りたければ、今どきインターネットでいくらでも見つかるだろう。したがって、10年以上同じパターンで通してきた半面、予備知識のない読者へは、それぞれどのような映画なのか一見わかりづらいかもしれない。そんな時の目安となるのがジャンルと主演俳優だ。

 アメリカでいくらヒットしていようと、日本の映画ファンには馴染みがない映画も多い。一部を除いてハリウッド映画はふつう日本での公開時期がずれるか、下手をすると劇場では未公開のままビデオ市場へ流れてゆく。どちらにせよ、全米公開の時点で邦題さえ決まっていないことが多い映画の原題を見てピンとくる読者は、かなりマニアックな映画ファンだといえる。もし「ハリウッド・ベスト10」のジャンルと主演俳優がなかったら、原題を知らない一般的な読者はほとんど興味を示さなかっただろう。
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「ウェディング・
クラッシャーズ」

 そのジャンルの分け方だが、映画のデータベースやビデオ屋のディスプレイを見ると、アクション、SF、コメディー、ラブ・ストーリー、時代劇、カルトなど基本パターンはほぼ決まっており、データに含まれる映画の本数や在庫が増えれば増えるほど内容は更に細かくなってゆく。バイオレンス、サスペンス、人間ドラマ、青春ドラマ、ホラー、ドキュメント、パニック、冒険ドラマ、ファンタジー、ファミリー、任侠/時代劇、社会派ドラマ、その他、対象が限定されるアダルトやアニメといったジャンルを分けたり、それらのすべてをひっくるめて邦画と洋画で区別するパターンもある。

 たとえ細かいジャンルの分け方が違っていようと、こうした発想の原点は目的の映画を捜しやすくための整理、つまり実用性からの自然発生ジャンルである。いっぽうエッセイなどを書いているとまったく違う発想、つまり実用性のないジャンル分けのほうがむしろ役立つ。一昨年のコラムで「映画と死」について書いた。これは姉の死がきっかけとなって、死というジャンルで映画を考えた結果であり、映画雑誌などで昔からよくあるパターンだ。
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「マイ・ビッグ・ファット・
グリーク・ウェディング」

 実用性のないジャンルとは、言い換えればテーマであり、映画を語る際のテーマとしてある程度のパターンが決まってくる。テーマとして人間ドラマを考えると、先の死同様、誕生、結婚、妊娠といった日常生活の大イベントはすべてジャンルの対象だ。それと映画製作とまつわる非実用的かつ個人的なこだわりも立派なジャンルであり、そもそもこの「テーマソング(エッセイ)」を連載し始めた一番最初に選んだテーマが、銃というジャンルの映画であった。

 そこで、次は何を書こうか?・・・・・・と、これから書くジャンルをあれこれ考えるうち、さしあたって年内のテーマも固まっている。まず、今月の「結婚」から、引き続き「妊娠」、「ファッション」、「メイク」、「嫉妬」の順で書いてゆきたい。こうして、ようやく本題へ入るわけだが、「ジャンル・シリーズ」の最初に結婚というテーマを取り上げたのは、姉の死で触発された時同様、55歳で突然結婚したのが僅か1年半前という私の個人的な動機からである。

 婚約の体験なら2回ある私も、はじめて結婚を体験してみると、確かに人生の大イベントだ。そして、結婚というジャンルで成功している映画の多い理由は、ようやく理解できたような気がする。最近では先月の「お先に失礼!(映画評)」でご紹介した「幸せになるための27のドレス」が、なかなか印象深かった。ありきたりのストーリーのコメディーながら、見終わった後の爽やか気分は一種独特だ。2005年、予想外のヒットを飛ばして話題となったコメディー「ウェディング・クラッシャーズ」が、やはり結婚ジャンルの一典型で、これと同じような感触であった。
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「ミート・ザ・
ペアレンツ」

 同じ結婚というジャンルの映画でも、従来のジャンル分けだとコメディーと限らず、シリアスな人間ドラマであったり、サスペンスであったり、千差万別の内容であるが、この見終わったあとの爽快感だけは何かしら共通している。そして、予想外のヒットが話題となるのも、このジャンルの特徴かもしれない。「ウェディング・クラッシャーズ」から3年遡(さかのぼ)った2002年の「マイ・ビッグ・ファット・グリーク・ウェディング」は、あそこまでのロングランを、いったい誰が予想しただろう?

 更に2年遡(さかのぼ)った2000年の「ミート・ザ・ペアレンツ」も可笑しかった。ベン・スティラーとロバート・デ・ニーロの主演で、最初から成功を期待されていたこの映画の場合、予想外とまではいかなくてもじゅうぶん満足できる成功を収めた結果、4年後に続編が製作されている。やはりメジャー・スタジオ作で成功した映画としては、スティーヴ・マーティンとダイアン・キートン主演作「花嫁のパパ(1991年)」も思い浮かぶ。
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「花嫁のパパ」

 「ミート・ザ・ペアレンツ」同様、1950年のヒット作「花嫁の父」をリメイクしたこの映画も4年後に続編が製作されており、面白いのは続編まで「花嫁の父」の続編「可愛い配当(1951年)」のリメイク版なのだ。結婚ジャンルの映画が数ある中で、続編まで作られるほど成功した昔のヒット作のリメイク版で、かつ成功した結果、続編はかつてのヒット作の続編をリメイクというケースも珍しい。

 このジャンルの映画を語り始めるときりがないので、今回はこれぐらいにしておきたいと思う。結局、前置きのほうが長くなってしまったけれど、このジャンルの映画だけは、じっさい見ていただかない限り、いくら説明しても「見終わった後の爽快感」が伝わるものではない。このエッセイを読まれて、もし興味があるかたは、とにかくその映画をご覧になってほしい。そして、少しでも感じるところがあれば本望なのだ。

 なお、余談ではあるが、結婚することを婚姻と言う。この「姻」を辞書で引くと、「因は、ふとんの上に人の重なり乗った姿を示し、茵(しとね)の源字。姻は『女+因』で、結婚によって、一つの姓の上に他の姓の縁が重なり乗ることをあらわす(「漢字源」より)」とある。「ふとんの上に人の重なり乗った姿」を「しとね」と読ますあたり、大人というか、粋というか、なんとも刺激的ではないか! できれば、そういうニュアンスを感じられる、このジャンルの邦画が登場してほしいものだ。

 最後に、今月のエッセイは愛する妻、暢子へ捧げたい!

横 井 康 和      


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